第20話 決めた覚えのない決まり
朝、配給所の前に列ができていた。
昨日まで、
こんな光景はなかった。
「……何だ、これ」
思わず足を止める。
人は静かに並び、
誰も文句を言わない。
だが――
自然すぎる。
「リクス」
声をかけられ、振り向く。
配給を担当している男が、
少し困った顔をしていた。
「昨日、セレナが決めた」
「何をだ」
「一人あたりの量と、
受け取り時間」
胸の奥が、わずかにざらつく。
「……俺は聞いてない」
「ええ」
男は、あっさり頷いた。
「でも、
皆が混乱しないようにと」
それ以上でも、以下でもない。
配給は、滞りなく進んでいた。
不満もない。
争いもない。
むしろ――
楽になっている。
それが、
嫌だった。
「俺が決めたことに、
なってないか」
そう言うと、
男は首を傾げた。
「名前は出してません」
正確すぎる答えだ。
「ただ……」
「ただ?」
「“リクスが止めないなら、
それでいい”と」
言葉が、
胸に沈む。
見張り台でも、
同じだった。
「交代時間が、
変わっています」
「誰が?」
「……皆です」
誰でもない。
だから、
止められない。
「効率が良くなった」と
兵は言った。
事実だ。
だが。
効率は、
人を守るとは限らない。
昼過ぎ、
セレナを呼び止めた。
「……勝手に決めるな」
自分でも、
弱い言い方だと思った。
「勝手ではありません」
彼女は、即答した。
「必要だった」
「それは、
俺が決めるべきだ」
「では、
なぜ決めなかったのですか」
返す言葉が、
出てこない。
「混乱を避けたかっただけです」
セレナは、
静かに続けた。
「誰かが決めなければ、
ここは崩れます」
「あなたは、
それを知っている」
知っている。
だが、
知っているからこそ、
決めたくなかった。
夕方。
通りを歩くと、
人が自然に道を空けた。
命令していない。
頼んでもいない。
ただ――
そうするものだと、
思われている。
「……やめろ」
小さく呟く。
だが、
誰にも届かない。
夜。
焚き火の前で、
一人座る。
今日、
何を決めた?
何も、決めていない。
それなのに、
いくつもの決まりが、
動いている。
それが、
一番疲れる。
剣を振るよりも。
走るよりも。
「……休んでください」
セレナが、
いつの間にか立っていた。
「まだ、大丈夫だ」
そう言いかけて、
言葉が止まる。
本当に?
「……少しだけ」
そう答えるのが、
精一杯だった。
横になる。
目を閉じる。
だが、
頭の中で声が止まらない。
「これでいいか?」
「次はどうする?」
「止めないのか?」
誰も責めていない。
だからこそ、
逃げられない。
俺は、
初めてはっきりと感じた。
決断は、
人を守るが、
決断し続けることは、
人を削る。
まだ、大丈夫だ。
そう思いながら、
眠れない夜を迎えた。
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