第17話 立つ場所を、決めた夜
その夜、村は眠れなかった。
焚き火の数が、いつもより多い。
人々は集まり、囁き合い、遠巻きに俺を見ていた。
責める視線ではない。
期待でもない。
――判断を待つ目だ。
俺は、それが一番重かった。
「……集まってくれ」
声を張り上げたわけじゃない。
それでも、人は自然と輪を作った。
逃げた家族。
疑った村人。
兵たち。
セレナ。
全員が、同じ場にいる。
俺は、深く息を吸った。
「今日のことは……俺の責任だ」
ざわめきが起きる。
「決めなかった。
線を引かなかった」
「だから、
外から踏み込まれた」
誰も否定しなかった。
それが、答えだった。
「ここは、
“自由な場所”だと言った」
俺は、言葉を続ける。
「それは、今も変わらない」
父親が、子どもを抱いたまま俺を見る。
「だが――」
一拍、置く。
「他人の自由を壊す自由は、
ここにはない」
空気が、張り詰めた。
誰かが、ゆっくり頷く。
「盗みの疑いがあった件は、
ここで終わりにする」
父親の肩が、わずかに落ちた。
「代わりに」
俺は、村人たちを見る。
「食料と水の管理は、
セレナの管轄にする」
セレナが、目を見開いた。
「異議は、俺が受ける」
それは、
初めて明確に引いた線だった。
「それから――」
兵たちに、視線を向ける。
「正規軍が来た場合、
俺が前に出る」
ざわめきが、強まる。
「交渉も、拒否も、
俺がやる」
「勝手に動くな。
誰も、武器を抜くな」
それは命令だ。
だが、
強制ではない。
兵たちは、静かに頷いた。
「……リクス」
セレナが、低く呼ぶ。
「それは、
“代表”になるということです」
俺は、少し考えてから答えた。
「違う」
視線を、全員に向ける。
「俺は、
“責任を引き受けるだけ”だ」
代表でも、
王でもない。
ただ、
逃げない役目。
沈黙の後、
誰かが口を開いた。
「……それでいい」
次々と、声が重なる。
「誰かが前に出ないと、
守れない」
「今日、それをしたのは、
あんただ」
拍手はない。
歓声もない。
だが、
納得があった。
夜更け。
焚き火が落ち着き、
人々が散っていく。
俺は、セレナと並んで立っていた。
「……後悔してますか」
彼女が聞く。
「してる」
即答だった。
「でも」
少し、言葉を探す。
「逃げなかったことは、
後悔してない」
セレナは、
小さく微笑んだ。
「それで十分です」
空を見上げる。
雲の向こうに、星がある。
きっと今も、
どこかで誰かが命令を出し、
誰かが切り捨てられている。
俺は、
それを止められない。
だが。
ここでは、
俺が線を引く。
それが、
俺の立つ場所だ。
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