第14話 守るために、決めろと言われた
朝から、村の空気が重かった。
誰かが怒鳴っているわけでもない。
事件が起きたわけでもない。
ただ、
待っている感じがあった。
俺は、その理由を知っていた。
「……来ました」
見張りの兵が、低く告げる。
街道の向こうから、三人。
昨日の正規軍とは違う。
鎧は軽装。
武器も最低限。
だが、
その立ち方で分かる。
――役人だ。
「リクス・エン殿だな」
中央の男が、名を呼んだ。
俺は、頷く。
「領主代行よりの使いだ」
“代行”という言葉に、嫌な予感がした。
直接は来ない。
だが、意思は明確。
「この村の現状を確認する」
それは、確認じゃない。
介入の前段階だ。
簡素な天幕で、話は始まった。
「人口が急増している」
「武装した者が常駐している」
「正規軍の管理外だ」
淡々と、事実だけが並べられる。
俺は、黙って聞いていた。
「よって、提案がある」
男は、紙を差し出した。
「この村を
“保護集落”として登録する」
セレナが、息を詰める。
俺は、紙に目を落とした。
そこに書かれていたのは――
・人員登録
・武装制限
・税の一部徴収
・正規軍への協力義務
――管理。
それも、
向こうの都合で。
「……拒否したら?」
俺が聞くと、男は即答した。
「推奨しない」
柔らかい言葉。
だが、中身は一つだ。
「……守るためだ」
男は、そう付け加えた。
「無秩序な集落は、
反乱の温床になる」
「保護下にあれば、
攻撃されにくくなる」
理屈は、分かる。
だが。
「この村は、
俺たちが守っている」
俺が言うと、
男は首を傾げた。
「それが問題だ」
淡々とした声。
「誰が守るかを、
決めていない」
沈黙が落ちた。
守っている。
だが、責任者じゃない。
選ばれている。
だが、任命されていない。
その曖昧さが、
もう許されない。
「……考える時間は?」
俺が言うと、
男は少しだけ考えた。
「三日」
短い。
「それまでに、
受け入れるか、
代表を立てろ」
代表。
つまり――
責任を取る人間を出せという意味だ。
使者が去った後、
天幕の中は重苦しかった。
「……どうしますか」
セレナが、静かに聞く。
「受け入れれば、
一時的には安全です」
「拒否すれば、
敵視される」
俺は、椅子にもたれた。
どちらも、
守るための選択だ。
だが、
どちらも、
誰かを切る。
「……俺は」
言葉が、出てこない。
“選ばない”という選択が、
もう残っていない。
夜。
焚き火の周りで、
人が集まっていた。
昨日より、多い。
皆、
同じ噂を聞いている。
「保護されるんだって?」
「もう安全なんだろ?」
その言葉が、胸に刺さる。
安全は、
誰かの決断の上にしかない。
俺は、立ち上がった。
「……まだ、決まっていない」
それだけ言う。
ざわめきが走る。
期待と、不安。
両方が混じった音。
俺は、初めて強く思った。
この場所を守るために、
何かを決めなければならない。
だが。
それを決めること自体が、
この場所を変えてしまう。
焚き火が、
音を立てて爆ぜた。
三日。
その期限が、
俺の胸を締め付けていた。
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