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人徳スキルしか持たない俺が、 英雄だらけの大陸で覇王にまつりあげられる話 〜戦えないのに、人が集まりすぎて困ってます〜  作者: 無名史官


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第13話 選ばないという選択が、まだ許されていた日

 朝は、穏やかだった。


 霧が低く、畑の土は湿っている。

 誰かが火を起こし、誰かが水を運ぶ。


 戦場ではありえなかった光景だ。


 俺は、村の端に立ち、その様子を眺めていた。


「……静かですね」


 隣で、セレナが言った。


「嵐の前みたいだな」


「縁起でもない」


 そう言いながら、否定できない自分がいた。


 村は、少しずつ大きくなっている。

 家が増え、人が増え、役割が増えた。


 だが――

 決めることは、増えていない。


 それが、救いだった。


「リクス」


 声をかけられ、振り向く。


 知らない男だった。


 旅装。

 だが、荷は軽く、目がよく動く。


「ここが、“人が死なない村”か」


 その言い方に、胸の奥が小さくざわつく。


「……そう呼ばれてるらしい」


 男は、笑った。


「いい噂だ」


 それだけ言って、村の中へ入っていく。


 止める理由はなかった。

 だが、

 入れない理由も、見つからなかった。


 昼前。


 セレナが、帳面を閉じながら言った。


「昨日だけで、十三人増えました」


「……多いな」


「減ってはいません」


 それが、問題だった。


 人は、増え続ける。

 だが、畑は急に増えない。


 水も、食料も、限界がある。


「制限を設けますか?」


 セレナの問いは、静かだった。


 だが、重い。


「……まだいい」


 俺は、そう答えた。


「今は、まだ」


 セレナは、何も言わなかった。


 だが、否定もしなかった。


 午後、兵の一人が駆けてきた。


「……見回りから戻った」


「何かあったか」


「いや……」


 言い淀む。


「周りの村で、

 うちの名前が出てる」


 胸が、少しだけ冷える。


「どういう意味だ」


「“あそこに行けば助かる”

 “あそこなら逃げ道がある”」


 それは、もう――

 ただの噂じゃない。


「……責められてるわけじゃないんだな」


「今は」


 その“今は”が、引っかかった。


 夕方。


 村の外で、小さな揉め事が起きた。


「順番だろ!」


「先に来たのは俺たちだ!」


 井戸の前で、声が荒れている。


 どちらも、昨日来た人間だ。


 村人じゃない。

 兵でもない。


 俺は、間に入った。


「……落ち着け」


 それだけで、二人は黙った。


 沈黙が、落ちる。


 ――まただ。


 俺は、何も命令していない。

 怒鳴ってもいない。


 それなのに。


 人が、止まる。


 セレナが、小さく息を吸うのが分かった。


 これは、

 良い兆候じゃない。


 夜。


 焚き火の前で、セレナが言った。


「このままだと、

 “決めない”ことが決断になります」


「……どういう意味だ」


「入れる。

 拒まない。

 区別しない」


 淡々と、言葉を並べる。


「それは、

 “誰の責任でもない”選択です」


 胸が、ちくりと痛んだ。


「俺は……」


 言いかけて、止まる。


 俺は、まだ選びたくない。

 正しい形も、間違った形も、分からない。


「まだ、選ばなくていい」


 自分に言い聞かせるように言った。


「……今日は」


 セレナは、少しだけ目を伏せた。


「ええ。今日は」


 夜更け。


 村の外れで、火が見えた。


 遠く。

 小さく。


 焚き火か、

 見張りか、

 それとも――別の何か。


 俺は、じっとそれを見つめた。


 選ばないという選択が、

 まだ許されている。


 だが、それが

 いつまで続くのか。


 分からない。


 風が、冷たくなっていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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