第11話 それでも、あなたについていく
正規軍が去った後、村は静まり返っていた。
誰も騒がない。
誰も泣かない。
それが、かえって重かった。
俺は、焚き火の前に腰を下ろし、
ただ火を見つめていた。
逃げるべきだったのか。
頭を下げるべきだったのか。
分からない。
ただ一つだけ、はっきりしている。
――もう、俺一人の判断じゃない。
「……集まってくれ」
セレナが、静かに声をかけた。
兵たち。
村人たち。
人数は多くない。
だが、誰一人として背を向けなかった。
俺は、立ち上がる。
「……今日のことは、俺の責任だ」
最初に、そう言った。
「俺がここにいるから、
この村は疑われた」
誰かが、首を振る。
だが、俺は続けた。
「だから、逃げたい人がいれば、
止めない」
言葉を、選ぶ。
「ここに残る必要はない。
俺に付き合う義理もない」
沈黙。
その中で、
若い兵が一歩前に出た。
「……それで?」
彼は、真っ直ぐ俺を見る。
「リクスが、いなくなったら、
俺たちは安全になるのか?」
言葉に、詰まる。
答えは――
分からない。
「なら、同じだ」
彼は、そう言った。
「俺たちは、
“誰といるか”でここにいる」
次に、年配の兵が口を開く。
「俺は、もう逃げるのは嫌だ」
「戦場から逃げて、
ここに来た」
「……だが、
初めて“捨てられなかった”」
その言葉に、胸が痛んだ。
村人の一人が、前に出る。
昨夜、子どもを連れて逃げた女だ。
「あなたは、強くない」
はっきりした声だった。
「でも、嘘をつかない」
「できないことは、できないと言う」
「……それだけで、
十分です」
次々と、声が重なる。
「逃げ道を教えてくれた」
「残るかどうか、選ばせてくれた」
「命令じゃなく、
約束だった」
俺は、言葉を失っていた。
これは、支持だ。
だが、押し付けではない。
選ばれた結果だ。
「……分かった」
ようやく、声が出た。
俺は、全員を見る。
「俺は、英雄にはならない」
ざわり、と空気が揺れる。
「強くもならない。
天下も、狙わない」
それでも、続けた。
「ただ――」
一度、深く息を吸う。
「無駄死には、させない」
それが、俺の限界だ。
誰も、反論しなかった。
それどころか、
安堵したような空気が流れた。
セレナが、静かに頷く。
「それで、十分です」
夜が更ける。
焚き火の火が、小さくなっていく。
俺は、火を足しながら思った。
これは、王の誓いじゃない。
英雄の宣言でもない。
ただの――
雑用兵の、覚悟だ。
だが。
この小さな覚悟が、
後に、どれほどの人間を動かすか。
この時の俺は、まだ知らなかった。
ただ一つ。
逃げない理由が、できてしまった。
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