第1話 雑用の仕事は、死体を数えることだった
※この物語には、派手な無双や爽快な連勝はありません。
※主人公は戦えず、賢くもありません。
それでも、
「逃げなかった結果、立たされてしまった場所」
から始まる物語です。
戦記・群像・内政寄りの展開になりますので、
その点をご理解の上、お読みいただけると幸いです。
俺の仕事は、英雄の隣に立つことじゃない。
剣を振ることでも、号令をかけることでもない。
――死体を運ぶことだ。
戦が終わった後、地面に転がった兵士の数を数え、名札を外し、知っている顔があれば目を閉じてやる。それが雑用兵の役目だった。
今日も荷車を押しながら、血と鉄の匂いが混じった空気を吸い込む。
鼻が慣れるのは、だいたい三日目からだ。
「おい、リクス。次は東側だ」
名前を呼ばれただけで、少し驚く。
俺は基本的に「おい」か「雑用」だ。
「はい」
返事だけは早くする。
遅れると、殴られる。
周囲では、兵たちが武器を点検し、冗談を言い合っている。
あいつらは前線に出る。
俺は、出ない。
……出ないはずだった。
「全軍、突撃準備!」
号令がかかり、空気が一変する。
地面が震え、心臓が嫌な音を立て始める。
俺は思わず空を見た。
雲が低い。風向きが悪い。
地形も最悪だ。
――ここで突っ込んだら、死ぬ。
それも、たくさん。
「前線には行くなよ、雑用」
上官が吐き捨てるように言った。
その目は、もう勝敗なんて見ていない。
「死体はあとでまとめて拾え」
胸の奥が、じわりと冷えた。
ああ、なるほど。
この人は、もう数を数えているんだ。
生きて帰る人間じゃなく、死ぬ人間の数を。
俺は、ぎゅっと拳を握った。
英雄になりたいわけじゃない。
覇王になりたいわけでもない。
ただ――
無駄に死ぬのを見るのは、もう嫌だった。
「……行きません」
気づいたら、声が出ていた。
周囲の兵が、一斉にこちらを見る。
上官の眉が吊り上がる。
「何だと?」
「この地形で突撃は……」
「命令違反だぞ」
分かっている。
それでも、俺は一歩下がった。
「ここで突っ込んだら、全滅します」
一瞬、静寂が落ちた。
次の瞬間――
「黙れ!」
怒号と共に、剣の柄が飛んでくる。
俺は避けなかった。
避ける余裕もなかった。
頬を殴られ、視界が揺れる。
口の中に血の味が広がった。
「雑用は黙ってろ!」
笑い声が混じる。
だが、その中で――
「……俺も、行きたくねえ」
小さな声がした。
隣にいた兵だった。
その後ろでも、視線が揺れている。
俺は、息を吸った。
「死にたくないなら……下がってください」
それが、俺にできた唯一の言葉だった。
この選択が、何を生むのか。
その時の俺は、まだ知らなかった。
ただ一つだけ、はっきりしていた。
――今日、ここにいれば。
俺たちは、死ぬ。
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