ことはのはる。
「琴葉、どうしたのさ、そんなため息ついて。」
「それがさぁー…」
私は屋上で、二人の親友にすがるように話し始めた。
それは、五月一日、今日の四限の終わりごろにさかのぼる。
「一条さん、ちょっといい?」
「は、はい…!」
その優しい声に緊張して声が上ずる。その声の正体は言うまでもない。去年から片思い中の藤沢朔馬先輩だ。
「ちょっと、聞いてほしいことがあってさ…。」
「はい?」
『こっちこっち』と言うように、静かな廊下に連れ出された。
(これってもしかして、こここ、告白だったりして…?いやいやいや!!自惚れし過ぎだって!そんな都合のいいことあるわけないって!)
心の中での自問自答に私はますますパニックになっていく。
「ごめん、こんな時間にこんなところに連れ出して。」
「いえいえ!大丈夫です…!」
私がかぶりを振ると先輩は安心したのか、ほっと吐息を漏らした。
そのしぐさ一つ一つに胸が締め付けられるように苦しくなった。
こんなにも朔馬先輩が好きになったのは、去年の春がきっかけだった。
「えっと、こっちかな……」
入学したばかりのころ、図書室までの道が分からず、戸惑っていた。
「大丈夫?」
ふと振り返ると、すらりと背の高い、爽やかで優しそうな顔をした男の子が私を見下ろしていた。
「えっと……」
「なんか、迷ってる?」
そう言って、私の目の高さに合わせて腰をかがめて私に尋ねた。
(私、子ども扱いされてる…?)
最初はそう思っていた。
「どこかに、行きたいとか?あっ、迷惑だった?」
私が不審に思ったのが伝わったのか、その人は慌てて後ずさった。
私は一瞬大丈夫ですと突っぱねるか迷ったけど、気にかけてくれたのに無下にするのはさすがに気が引けた。
「い、いえ!ありがたいです!えっと、図書室に行きたいんですけど、分からなくて。」
「あ、図書室?図書室ならこっちだよ。」
先輩は前を指さし、さっさと歩いて案内してくれた。
(世話好きなのかな。)
そんなことを思いながら、先輩の後をついていく。
時折、ちらっと振り返って、私の歩幅に合わせてペースを合わせてくれる。
(優しい人だな。…すごく気を使ってくれる。)
「ここだよ。また分からなくなっちゃったら掲示板に地図が張ってあるからそれを確かめたらいいよ。」
「はい!ありがとうございます!」
先輩は、「よかった!」と、爽やかな笑みを浮かべたあと、「じゃ。」と、片手をあげて帰っていった。
それから私は図書室までまっすぐ行けるようになった。
梅雨に入ると、傘を忘れた時にたまたま会った先輩に折り畳み傘を貸してもらったことがあった。
(先輩の名前、藤沢朔馬っていうんだ…)
折り畳み傘に書いてある名前を見て初めて名前を知った。
その後、ちゃんと傘を返しに行ったけど、その時周りにいた女子から刺さる目線に殺意を感じて、先輩がモテモテなこともはっきりした。
(まぁ、それはモテるだろうなぁ。先輩かっこいいし、優しいもん。)
そう思えば思うほど、なぜか胸がギュッと苦しくなった。
それからのこと、先輩に合うたびにドキドキして、これが”高”だということに気づくのにはあまり時間はかからなかった。
そういうことで、去年から片思い中の朔馬先輩にドキドキの雰囲気を出されて、心臓がはち切れそうになっているのです。
「その、俺さ、…この学校に、す、好きな子がいるんだけど……。」
「えっ……。」
その言葉に私は頭を殴られたような感覚がした。そんな私はお構いなしに、朔馬先輩はさらに言葉を続けた。
「その子に…いつか好きですって言いたいんだけど…その、一条さんは、誰かに告白されるとしたら、どういわれたら、嬉しいのかな…?」
朔馬先輩の、ゆでだこのように真っ赤に染まった顔を見るのは初めてで。
(誰かにって、朔馬先輩に告白されるのが一番うれしいよ。)
「私は、ストレートに、好きですって面と向かって言ってもらったら嬉しいけど、その子がそうだとは、限りませんし…悪魔で私の感想です…。」
「そ、そっか!ありがとう。参考にさせてね。」
まだ赤い顔で、恥ずかしそうに笑う朔馬先輩がまぶしくて、朔馬先輩に好かれている子がすごく羨ましいと思った。
「はぁー、なるほどねぇー」
お弁当をつついていた手を止めてうなずく紬を見て、私はまたため息をはいた。
「先輩がモテてることは知ってたけど、まさか好きな人がいるなんて…」
自分で言ったことだけど、その言葉がまた追い打ちとなって私を苦しめる。
ちらりと紬たちに目をやると、二人はやわらかい笑顔で私を見ていた。
「…え?」
驚いて顔を上げると、佐那が言った。
「紳士の藤沢先輩でも、恋愛相談ができるほど信頼できる存在の人はかなり少ないと思うわよ。」
佐那の言葉に続けるように、紬も言った。
「そうだよ。朔馬パイセンにとって、琴葉がトクベツであることには変わりないんだから。ね?」
紬は佐那にニンマリと笑いかける。
「そうね。」
佐那も微笑ましそうに私に目をやる。
二人の中で何かが通じ合っていることを感じて、キョトンと首を傾げる。
「まぁ琴葉、心配しないで。琴葉には”五日”いいことがあるよ。」
バチンとウインクをかましだす紬。
「なにそれぇ、私には”いつか”、じゃなくて、今、良いことがあってほしいのにー!」
私の叫び声は、青い空の下、この屋上に響き渡った。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
これからも頑張って続けていきます!
是非二話も読んでみてください!




