熱々の焼き鳥
今夜のお花は貸し切り営業。
普段はカウンター五席のこぢんまりとした店内も、訪れたお客さま方の妖力のおかげで、ぐんと広がっております。えぇ、もちろん想定内です。
(いつも新鮮な食材を届けてくれる、小鬼配達員さんたちには、本当に助けられておりますからね)
「キュウ、じゃんじゃん焼き鳥を焼くんじゃ!」
「はいはい、黒さん。今焼いておりますので、少々お待ちを」
すべての小鬼たちが頭が上がらぬ存在、鬼神社の神様・黒鬼の黒さん。神様としての務めの傍ら、妖たちの暮らしを支える「小鬼運輸」の社長業までこなす、たいへんお忙しい方です。
(本来、副業はご法度なのですが、黒鬼さんには大神様から特別なお許しが出ております。一応、私もですがね)
小鬼運輸への注文方法は、いたって簡単。
注文書に欲しい品を書き、妖力印に力を込めるだけ。すると、その紙がひらりと宙に舞い、あちらへと飛んでゆきます。
(スズとランもよく、お菓子を頼んでおりますよ)
「焼き鳥が焼き上がりました。スズ、ラン、奥の席に十人前お願いね」
「はーい、ただいま持っていきます」
「運ぶっ!」
今日は開店早々から、スズとランにも働いてもらっています。小鬼さんたちは焼き鳥が大好物で、他に目もくれず次々とおかわりを頼むので、手間はかかりませんが手数はかかります。
一方の黒鬼さんときたら、刺身の盛り合わせに煮付け、たこわさ、塩辛、天ぷらまで、酒の肴を次々と注文なさる。
「黒さん、お刺身とたこわさです」
「おお、ありがとう。美味そうじゃのう」
「すべて、今朝小鬼さんたちが届けてくれた食材ですよ」
「ガハハハ、そうじゃったな! 今や全国に名を馳せる小鬼運輸、手に入るもんなら何でも運ぶぞ!」
「そのおかげで、私もこうして店が続けられております」
「キュウ様、焼き鳥のおかわりをお願いします!」
「おかわりー!」
「はい、今ちょうど焼けたところです。スズ、ラン、小鬼さんたちに持って行って」
私は焼き鳥を焼き、黒鬼さんの料理を作り、スズとランは焼きたてをせっせと運ぶ。黒鬼さんもよく召し上がりますが、小鬼さんたちの食欲も、なかなかどうして負けてはいません。
「お前ら、どんどん食えぇ!」
(ああ、これは今夜も日をまたぎそうですね)
今宵、「お花」の灯は閉店時間を過ぎても、消えることなく。小鬼たちの笑い声が、夜の帳にふわりと溶けてゆきました。