曲げわっぱ弁当(中編)
しばらくして、スズとランが一匹の小さな狐を抱えて戻ってきた。まるで壊れものを扱うように、両腕でそっと、大事そうに。
「キュウ様、声の主を見つけました。この子、お弁当を食べる力も残っていないようで……いまにも消えてしまいそうです」
「……たすけて……」
自分たちと同じ狐だと気づいたとき、スズとランの目に涙が浮かんだ。だが、その狐の顔をじっと見つめた次の瞬間、二人はそろって小さくため息をついた。
「……一先輩。やっぱりまた迷子になったんですね。こちらに来ると連絡があったのは、二週間も前でしたよね?」
思わず、私の口調が厳しくなる。普段は穏やかな私が怒るのを見て、スズとランは驚いた顔をしていた。
「何度お伝えしても、お供狐を連れて来ないとはどういうことですか! その結果がこれですよ。うちの子たちまで泣かせて……私も“先輩は大丈夫”なんて言葉を信じるんじゃなかった……!」
迷子になったまま誰にも見つけてもらえず、そのまま力を失えば、神の資格を剥奪され、元の場所に戻されてしまう。そんな危機的な状況でも、先輩はいつもと変わらない様子だった。
『たくさんの人は無理でも、この手の中に収まる人たちを元気づけたいんだ』
そう語っていた先輩。けれど、極度の方向音痴なのに、そのことを気にする様子もなく、神様学校のころから、何度も迷子になっては仲間に助けられてきた。
私の怒気に、スズとランの腕の中の一先輩は、しゅんと耳を垂らす。
「……ごめん、キュウ。前に来たときと、周りがずいぶん変わっていてね。目印にしていた公衆電話も、たばこ屋も、駄菓子屋も、みんななくなってた。近くまでは来られたと思うんだけど……力尽きちゃった」
「えっ、この辺りがそんなに変わっている⁉︎」
たしかに最近、たばこ屋の場所にコンビニができたとスズとランが話していたような。
「それも当然です。キュウ様は、店と社の往復しかしませんからね」
「うん……」
「ですが、一先輩。次からは必ず、お供狐を連れてください。それから……まずは、生姜焼きを食べて、力を取り戻してください」
「食べたいんだけど、力が入らない。だから、キュウ……食べさせて?」
一先輩は、口をぽかんと開けてこちらを見上げる。
(……ほんとうに、いつまで経っても変わりませんね)