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焼きサバ

 カウンター席に、久しぶりの顔――羅生さんがふらりと現れた。黙って熱燗を手酌で口に運び、ツマミはいつもの、ピリ辛こんにゃくと薬味たっぷりの冷奴。


「ふう……ようやく来れた。締め切り前、この店のピリ辛こんにゃくが無性に恋しくてな。頭の中がそればっかりだったよ」


 他の店で何度か代わりの品を頼んだが、やはり「お花」の味には敵わなかったらしい。


 こんにゃくはスプーンで小さくちぎり、さっと湯通し。ごま油に唐辛子を入れ、弱火でじっくり香りを引き出す。湯を切ったこんにゃくを投入し、醤油、味醂、砂糖で炒め煮に。汁気がなくなるまで火を入れると、甘辛く、ピリリとした一皿が出来上がる。


 スズもランも大好物だ。


「お気に召して何よりです。羅生さん、今日はサバもございますが、焼きましょうか?」


「おお、いいね。頼むよ」


「塩サバでよろしいですか?」


「ああ。あと……ピリ辛こんにゃく、おかわり」


「かしこまりました」


 塩をふり三十分ほど置いたサバの水分を丁寧に拭き取り、もう一度軽く塩をふる。グリルで皮目をパリッと焼き、大根おろしを添えて皿に盛った。


「塩サバ、お待たせしました」


「うまそうだな、ありがとう」


 熱燗をもう一本。しばらくして羅生さんが、ふと言った。


「残った塩焼きサバで……茶漬け、いけるかな?」


「もちろんです。少々お待ちください」


 焼きサバの身を丁寧にほぐし、骨を取り除いてご飯にのせる。熱々の出汁を注ぎ、千切りの大葉と炒り胡麻を散らして仕上げた。


「お待たせしました。焼きサバ茶漬け、どうぞ」


「……これもまた、うまそうだ」


 茶碗を手に取り、一口、二口と運ぶうちに、無言のまま一気に食べ終えた。


「ふう……美味かった。ごちそうさまでした。塩サバの茶漬け、なかなかいいな」


「お粗末さまでございました」


「さて、帰るか。ここでうまい飯を食うと、いい案が浮かぶ。また来るよ」


「またのお越しを、心よりお待ちしております」


「早く仕事を終わらせて、また来たいもんだ」


 羅生さんは片手を軽く上げ、暖簾をくぐって夜の街へ消えていった。

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