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5話:キンちゃんファミリー

「わたしもついていくわ」


「ついてくる?」


「最上階にいくんでしょう? 魔女に会えるなんて夢のようだもの。 そしてあわよくば服を仕立てあげるのよ!」


「⋯⋯さすがマダム」


 ふふふっ、それにどうせ今日はお客さん来ないもの、“マダム・カリン・トンの不思議な服屋さん”は今日はもう閉店閉店っ!


 と、豪快にいいのけると、ショーケースのカギをガチャリと しめ歩くカリンさん。


 パワフルが服を着てるような女性だ。わかいころはさぞジャジャ馬だったのでしょう。口が裂けてもきけないタブーワードだけど。


 おもに最初の五文字。


「さあいきましょう! ⋯⋯といいたいところだけど、問題はどうやって最上階にたどりつくかよねえ」


「2階までしかボタンがなかったもんね、エレベーター」


 そうだ、それでぼくはこの階にきてみたんだった。


「このホテルはそのあたりが複雑なのよね。 どの階に移動するにも一階ロビーを経由する必要があるの。 ほら、ひとめをさけるお客様が多くいらっしゃるでしょ」


 てきぱきと帰り支度をすませながら声をひそめると、カリンさんはちいさめのカバンを肩からななめにかけて、真っ赤なコートをはおってからぼくをふりむく。


「だけど5階までなら案内できるわ。 もう三十秒はゆうにたったわね。 いきましょう」


 つづきは歩きながらね、それにしても赤と赤でおそろいになっちゃったわね、とさしだしてきたカリンさんの手をにぎって、ぼくは“透明化”の魔法を発動すると、その手をはなす。

 窓をちらり。うん、うつってないからだいじょーぶそうだ。


「この階はご覧のとおり、ショップやレストランにバーやエステが並んでるの。 あとはゲームルームとか⋯⋯お客様に楽しんでもらうための場所ね。

 だから2階だけはロビーの正面エレベーターから誰でもこれるようになってるのよ」


「じゃ、ここからうえは客室?」


「29階まではそうね、そのはずよ。 というのも5階をこえると、お客様とその階を専属で担当するスタッフ以外ははいれない仕組みになっているの」


「シーツ交換とか、掃除のひとは?」


 ぼくは最初、そのひとたちのうしろにくっついてく作戦をたてていた。


「すくなくともわたしは見たことがないわ。 各階層に直通するエレベーターはロビーの見えないところに入り口があるから、そこも徹底してるんじゃないかしら」


「へええ、お金持ちが多いとたいへんだ。 30階からうえは、カリンさんもどーなってるか知らないの?」


 僕の頭の中にはいま、スーパーV.I.Pならぬお金持ち妖怪たちが悪だくみをひろげる、秘密の社交場が思い浮かんでる。

 きっとあの別館の最上階みたく豪華絢爛な部屋で、おっほっほっほっほ! おぬしもわるよのぉ! なんて高笑いが夜な夜なこだましてるんだろう。


「ときどき、そこにお泊まりになさるお客様がわたしの服を買いにきてくださるの。 『うえ(・・)に泊まってるのは内緒よ』なんていってね。 だけど、庶民的な方も多くいらっしゃるのよねえ。 ほんと、どーなってるんだか」


 ぼくが「妖怪は化けるのが得意だから」という横で、カリンさんは下唇に指先をあてると、天井を見つめる。


「歌姫がいるのは60階。 このホテルの本当の最上階よ。 そこに一ヶ月ものあいだ連泊されていたというんだから、有名人ってすごいのね」


「彼女は魔女だから。 魔法で洗脳してたりするんじゃない?」


「あなたこわいこと考えるのね」


「現代っ子はリアルだから」


「そうなのよねえ冷静というか。 おばさんにはわからないわ」


「カリンさんはぜんぜんわかいよ」


 うむ。たまには頭をなでられるのもわるくはない。


「このレストランの奥よ。 そこに、スタッフだけが利用できる階段があるの。 もちろん5階までね」


 2階フロアの一番奥にある、とても大きなレストランだ。

 カリンさんについて、厨房の一角にきた。


「ちょっとまってねカードキーをだすから」


 分厚い黒塗りのドアの持ち手のうえには、うすい穴がある。

 が、ちょっとまった。


「カリンさんほら」ぼくはその穴に手をさしこむ。


「透明人間って⋯⋯便利ね」


「まったくだ」


 ぼくたちはするりとそこをぬけると、階段を一番うえまでのぼって、またドアをすりぬけた。ほそく暗い通路を歩いてもう一枚のドアをぬけると、そこは客室がならぶ、よくみるホテルの廊下だった。


 とはいえ、高級感にあふれるのはゆうまでもいくらい。等間隔でめっちゃでかい絵画が壁に並んでるし。


 そしてまたぼくがやらかしたのは、絵画を追って視線を横に移動したときだ。


「バカたれえッ! ホテルではしずかにせんかい!」


 すぐ真後ろでドスがきいた声がして、ブルったひょうしに集中力がきれてしまったんだ。


「ってえなとーちゃん頭なぐんなや! アホなったらどーすんねん! つーかとーちゃんの声の方がよっぽどやかまし⋯⋯てメトじゃねえか!!!」

 

「おう芽兎? ワシのお腹にうまりこんでなにしとんや? お前、曲がり角でぼっとしとったら事故にあうで事故に」


 ワシのお腹がやらこーてよかったのお!と、一応はホテルの招待客として気を使っているのか小声で(それでも一般人の普段の声量に近い)ぼくに耳打つ巨体。そのハリのいいお肉からぼくは後頭部をはなす。


「⋯⋯⋯うわあ、キンちゃんファミリーだ」


「なんでいやそーな顔すんねん」「誰がキンちゃんファミリーや。 ⋯いやワシの家族さかいおおとるやないかい」


「もーーーおにいちゃんもパパも声がおおきいってば!」


 たいへんだ、マダムの顔がたこ焼きかぶりついたハトみたくなってる。ぼくは熱気をはきだすようにため息をついてから空気をいっぱい吸った。


「⋯⋯⋯こっちがぼくの同級生の野香馬詩(やかまし) 楽生(らくしょう)で、こっちがそのおとうさんのキンちゃん、最後にでてきたのがひとつしたの妹の笑歌(しょうか)ちゃん14歳です。

 そしてこっちはワケがあってぼくと一緒に歌姫の部屋を目指してるマダムのカリンさん。

 あとはそうですねぼくは日月(にちげつ) 芽兎(めと)です。メトって呼ばれてます。短距離走のあと、青白くなった顔を見たラクショーがメントスってあだ名をつけたのがはじまりでした」


「うわっ、こいつめんどーなってかってに紹介はじめよったで」


「なんで自分の紹介までしとんねん。 なつかしわメントス」


「うわあ、カリンさんすごくきれえ」


「笑歌ちゃんも美人さんねえ。 べっぴんさんっていうのかしら?」


 ふう。 


 カリンさんが適合能力にたけたマダムでよかったよかった。



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