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第92話 元バイオ工場潜入

 昼下がりの日光があたりを支配する中、楓達は工場の門扉の前でバイクを降りる。

 目の前の鋼鉄製の門扉は全高5メートル位あり中の様子は見られない。

「門の前にタイヤ痕、門扉の開いた痕・・・取っ手には真新しい手の痕。どうやらここに何者かが入ったのは間違い無いな。横に通用口があるからそっちから入るか?」

 ひと通り調べた楓が美夏と美冬に聞く。

「そうね、時間が惜しいから切り開きましょ。楓頼める?」

「ああ」

 そう楓が答えて、闇切丸を使って鉄製の扉を切り開くと油断無く中を覗う。

「工場の入り口まで、30メートルくらいだな。多分来客用の事務所のあるのが正面で、左右に工場と思われる建物がある」


<工場の上面図>

 □は工場スペース ■は事務室や来賓用のスペース

 □□□□□□□□□□□□

 □□□□□□□□□□□□

 □□□□□□□□□□□□

   ■■■■

   ■■■■


   正面

 楓、美夏、美冬


「遮蔽物伝いに正面ドアに接近しましょ。対人戦を考えてトラップに注意ね」

 その言葉通り、3人が若干大回りをして正面ドアの両脇に身をひそめる、ここに来る前に割れた窓から中の様子を覗ったが中にはガランとした部屋の中に、いくつかの埃まみれのロッカーや机が置いてあるだけだった。

「楓、ドローン持ってきているわよね?自動操縦で動かして」

「わかった、航路はどうする?」

「そうね・・・高度は最大50mから10mの範囲を飛ぶ、動きはエンドレスエイトでこの工場をずっと見るようにしましょ。美冬、精霊の異常を感じる?」

「うーん、やってみるー」

 そう目を虚ろにして、宙を見る美冬が少しして頷く。

「風の精霊によると、気流を乱している存在がいるみたい・・・うん、硬いらしいからマイクロバスかも」

「まだここに町長達は居るみたいね。ドローンの映像はあたしで見るから、楓はポイントマンをして、美冬は精霊の動きに注意しながら進みましょ」

「りょうかーい、要所要所で感知魔法を使う?」

「その時は美冬に頼むわね。それじゃ、楓は先行お願い」

 美夏にドローンのコントローラーを渡した楓がシグザウエルを構えてドアを開ける。

 中は埃が多く、それに複数の足跡が残っており奥へと続いている。

「痕跡の消去は出来なかったみたいだな。お・・・これは簡単な見取り図か?」

 そう受付の机に置いてあった薄汚れたの見取り図を見ると、大体の部屋の配置が分かった。

「何かをするには、やっぱり地下よね。まず地下への入り口を探しましょ」

「ああ」

 再び楓が先頭になって、開け放されたドアを抜けて廊下へと進む。

 明かりが乏しいので、アンダーレイルにマウントしたライトを点けて死角を潰しながら慎重に進んで行く。

 3人の先に不意に淡い光の空間を見える。

 そこには階段が上下にあり、1つは地下に向かっている。

「これは吹き抜けか。屋根が抜けているから外光が入って来ているんだな」

 壁に隠れながら楓が吹き抜けを見渡すと、微かな殺気が2階から滲んでいる事を楓が感じ取る。

 ハンドサインで美冬に感知魔法を使うように指示をして、楓はセーフティを解除して体のバネを溜める。

「楓、右上に敵が2人で位置は離れている。ここからの直線距離は20mくらい・・・魔力の存在は無いよー」

 美冬が楓の耳に囁いて感知魔法の結果を伝えるのに頷く。

「情報魔法の展開頼む、待ち伏せが居るという事はこの先に他の人員が居そうだな」

 そう言うとすぐに美冬が情報魔法を使い、楓の視界に美夏のものと違うインターフェイスが浮かんでいく。

 美夏のものとの違いは、表示される文字などがポップ調である事だったりする。

 美夏はドローンの情報分析しつつ、五感で周囲を探っている。

「っ」

 意外にしっかりしたコンクリート製の階段を素早く上ると、その先の通路から銃声がして楓のすぐ傍を銃弾が通り過ぎて行く。

 掩蔽しながら楓が奥を見て、銃撃が切れた瞬間突撃する。

 ガゥン、ガウン!とセミオートの銃撃が楓を襲うが、それを楓は最小限の動きで回避して距離を詰めて行く。

 ざわっと狼狽の気配を感じながら、2階の一室に身を低くして入り込むとMAC10を構えた敵がさらに引き金を引こうとする。

「はぁ!」

 一気に接近をした楓の方が早く、シグを至近距離から連射すると腹部に銃弾を受けた敵が口から血を吐きながらうつ伏せに倒れる。

 9ミリパラベラム弾を3発腹部に受けた敵の様子をそのままに、楓の背後にあたる部屋から飛び出して来た新たな敵が銃撃を加えて来る。

「くそ、味方がいるんだぞ」

 簡素なスチール机に隠れて敵の視線を切る、この机では弾丸は簡単に抜けるので隠れられるのは2秒ほど。

 すぐに机の反対側から出て、銃口を向けて射撃をするが回避されてしまうがこれは予想通りだ。

「ぐぁっ!ま・・ほ・・うか・・・」

 廊下に居た敵を、階下から情報魔法経由で発射された光の矢が貫いて行動不能にする。

 戦闘時間は30秒程度だが、銃撃音はこのどこかにいる町長達には気が付かれただろう、そう思いながら敵の所持品や武器を調べると二人ともブレイカーと言う事が分かる。

「人を守る義務があるブレイカーがアホな事しやがって・・・」

 苦悶の声を上げる敵ブレイカーの2人を鋼線ロープで拘束して武器は回収する。

「楓大丈夫?」

 通信機から階下にいる美夏の声が聞こえる。

「ああ、敵はブレイカー2人。武装解除をして拘束してある。これから戻るよ」

 そう言って、階下に戻った楓が返り血で染まっている状態を2人は心配そうに見る。

「俺は無事だよ、多分連中は戦闘力のあるブレイカーをここでの迎撃に置いたと思う。多分だが残存戦闘力はほとんど無いんじゃないかな、何をしにここに入ったが分からないが」

「尋問する?」

 そう問われて楓は少し考え込む。

「そうだな、情報が欲し・・・今、悲鳴が聞こえなかったか?」

「え?」

「楓にい、地下にいるノームが逃げ出しているよ。何か異常な存在が居るみたい」

 精霊の様子を探っていた美冬が報告をする。

 悲鳴のような音と、精霊の動きの変化の二つの要素が揃えば何も起きていないワケが無い。

「2人とも、これから地下に突入する。泉隊長に状況報告をしてくれ、俺は簡単な目印を付けて来る」

 そう言って、楓が周囲の壁に後からくる部隊に対して目印を書いてから戻ると、美夏が通信を終えていた。

「準備はOKか?」

「ええ、十分に気を付けて行きましょ。地下についたら生命感知を使うから警戒よろしくね」

 そう3人が地下に着くと、閉じられた扉の前の床には複数の足跡が乱れてついていて、誰かがここを通ったのは間違い無い。

「万能なるエーテルよ、命の息吹を感じたまえ!」

 楓の視界に、美冬の情報魔法経由で美夏の感知したこの周辺の生命の情報が表示される。

 魔法発動時の検索条件に人間クラスの生命を指定しているので、表示されているのはほぼ人間だろう。

 その数が8人、もしこの中に要救助者が居ればいいが、と思っている楓の耳にハッキリとした悲鳴が届く。

「ああぁぁ!た、たすっ!」

「食わないでくれ!若返るならこのエルフを喰えと言っただろう!」

 その言葉を聞いた楓は、闇切丸に「硬化(ハード)」と「切れ味増加(シャープネス)」の魔法を展開させて、目の前の鉄扉を易々と切り裂く。

 バァン!と大きい音を立てて、奥に倒れた扉を踏み越えて楓が先行すると視線の先に何人かの人間とエルフが奥から逃げている状態で、その背後から異形の怪物が迫っていた。

 身長は2メートルほどで骨と皮だけになった身体に、血に汚れたドレスを着ている様子が異常だ。

 そして、顔は骸骨になっているが眼球だけが残っている。

 手は両手とも鎌のようになっていて、右手がでっぷりと太った老人の腹に突き刺さっていた。

 接近してくる楓達に注意を向けずに、その怪物は老人に噛みつきジュルジュルと液体を啜る音を立てると、その老人の身体が空気を抜いた風船のように急激に萎んでいく。

 その様子に不快感を覚えつつ楓が視線だけを移動させると、右に防衛隊の元隊長の三島がボロボロになった大鷹高校の制服を着た1人の女性エルフを自分の前に突き出している。

 床には血にまみれた中年の男女が倒れ伏していて、その横には別の女性エルフの腕を掴んでいる白衣を来た若い男性が2人へたり込んでいる。

 エルフの2人は特に抵抗する様子は無いが、虚ろな目をしているので何らかの薬物や魔法を使われているようだと楓は見立てる。

「楓!生命反応の1つはアレよ。気を付けて!」

「了解。まずはアイツを倒す、美夏と美冬は下がって支援、周囲の参考人とエルフを守ってくれ」

 怪物を殲滅対象にし、この事件に関わりがある人物を参考人と区別をして伝える。

「分かったわ。作戦中のアイツの名前を付けるわ、夜叉でいくわよ」

「情報魔法を俺の精神に同期させてくれ、俺の思考ギリギリまで潜って良い。まずエルフの保護を優先する」

 そう言って、楓は闇切丸を脇構えにして廊下を進んで行くと萎んだ人間だったものを投げ捨てた夜叉が三島に襲い掛かろうとしていた。

 その三島は目の前の惨劇を見て逃げる余裕も無いようだ、もし逃亡したとしても容易に追いつけるだろう。

「アア・・・アタシはドウなったノぉぉぉ!若さを得るには、エルフを喰えば良かったんじゃナカッタの!?」

 夜叉の口から発せられた言葉の内容に怒りの感情が心を占めて行く中、繰り出された鎌を弾き返して夜叉の胴を薙ぎ払う。

 しかし、切り裂かれた傷が煙を出しながら塞がって行く。

(回復魔法?)

「アアアアッ、喉が渇く・・・渇くぅぅ!」

 口をガバッと開いて楓に噛みつこうとするのに合わせて、闇切丸を口に叩き込みながら再び硬化の魔法を刃に纏わりつかせる。

「ガアアアッ!」

 刃を噛み砕こうとした牙が、硬化されたそれに阻まれて多くの牙が砕けてしまう。

 堪らず苦悶の声を夜叉が上げる仕草に隙を見つけた楓は闇切丸を後ろに引き、刺突を放って刃を夜叉の腹部に潜り込ませる。

「でぇいっ!」

 引き締まった肉を掻き分ける手ごたえを感じながら刃を押し込むと、夜叉は怒りと苦痛の咆哮を上げて左右の鎌を素早い動きで楓に振り下ろす。

「くぅ!」

 刃を抜くタイミングが遅れてしまい、右の鎌が楓の左腕を捉える。

 メキメキメキッと硬い音を立ててボディーアーマーの装甲が砕け、防刃繊維のアンダーウェアを切り裂いた所で刃が止まる。

 何も装備していない状態だったら、胴までバッサリと切られているくらいの威力に戦慄を覚えている楓の耳に魔法の詠唱が届く。

火焔(フロック)郡鳥(ファイアバード)!」

 楓の危機に美冬が炎の精霊に命じて、小鳥程の大きさの炎の塊が群れを成して夜叉を襲う。

 一般的に室内で火焔系の魔法は火事の原因になるので禁止だが、夜叉の再生速度を見て火焔でそれを止めようと美冬は考えたのだろう。

 追撃を諦めた夜叉は距離を取ると、背をかがめて再び攻撃の構えを取る。

(あの鎌が厄介だな、腹の傷の回復が遅いが魔力を帯びた攻撃を撃ち込まれると遅くなるのか?ならっ)

 睨み合った1秒程度の間に、楓はどう攻めるかを決める。

「シャァァァァ!!」

 大振りの高威力の鎌が左右から襲って来る、狭い空間を上手く使って楓の回避スペースを封じようとしている。

 美冬の情報魔法経由で表示されている、自分の視線を表す仮想レティクルを右の鎌に固定し、

「美夏!防御!」

 そう叫んで防御を捨てた全力攻撃で、夜叉の左肘を両断すると硬い音を立てて鎌が千切れて宙を舞う。

 同時に左からの鎌が楓の首を薙ごうかという瞬間、不可視の障壁に阻まれて動きを停める。

「壱の型・斬躯!」

 その障壁へ反射的に夜叉が鎌を押し込もうとしようとした動きを見せた時、一旦右に流れた闇切丸をそのまま体を回転させ、遠心力を伴った刃が両膝の骨を断ち切る。

 足に深刻なダメージを受けて動ける二足歩行タイプの生物は多くない、これで機動力の多くを削ったはずだ。

「あああぁぁ!!」

 苦鳴を上げながら前に倒れ込んだ夜叉が身を起こす寸前に、その脳天へ切れ味増加(シャープネス)を纏わせた闇切丸を振り下ろす。

 グシャッという頭蓋骨が砕ける音がして、夜叉の頭が砕けて脳漿や体液が飛び散り楓の顔や身体を汚す。

 脳がやられたのにも構わず、夜叉の傷口が煙を出しながら再生しつつあるのを見た楓は、シグザウエルを引き抜くとマガジンの全弾その傷口に撃ち込む。

 弾丸を打ち切るとマガジンを落としてスペアのそれと交換し、夜叉の首を掴んで露出した延髄から弾丸を体内に向けて打ち込んでいく。

 もう1度同じ事を行い辺りが硝煙の臭いに包まれる頃には、夜叉の頭部はほとんど原型を留めていなかった。

「楓、やり過ぎよ。どうしたの?」

「こいつは頭蓋をやられても再生しようとしていたからここまでやってみたんだよ、これで再生はしないだろうな」

 新しいマガジンを装填したシグザウエルを右手に、左手に闇切丸をぶら下げた楓が三島と研究者の3人に向き直る。

「三島センパイ、さっきぶりですね。不思議なところで出会ったのですけど。詳しく話をしてもらえますか?」

「あ・・・君は、如月君?ははは、確かにさっきぶりだよな。いや、俺は何も知らないんだ、町長に連れてこられただけだよ」

 必死にごまかそうとするが、目がかなり泳いでいるのを見て楓はニッと笑みを浮かべる。

 血で汚れたその顔は、地下の少ない明かりに照らされ凄絶な笑みへと変わる。

「もう、そんな事を言っている場合じゃないんですよ。アンタは重大な犯罪に関わっているんですからね」

 そう言った向けた楓に三島は掴んでいたエルフを突き飛ばし、そのままへたり込む。

 咄嗟に闇切丸を床に突き立てて、右手でエルフをなるべく優しく受け止める。

「美夏、作戦本部へ連絡をしてくれ。状況の共有と応援部隊の依頼をよろしく」

 そう話した後、自分でもゾッとするくらいに冷たい声になっている事に気が付くが、エルフへの酷い扱いと心中の黒い感情を消す事が出来ない。

「うん、分かったわ」

「楓にい、久しぶりに怖くなっている・・・」

「美冬はエルフの介抱を頼む、俺はこいつらの拘束と尋問を行っておく」

 美冬はこの自分の状態を苦手にしている事を知っているので、顔は向けずに苦労して普通の話し方で希望を伝える。

「うん、分かった。回復は任せて。多分防衛隊のエルフさんよね・・・んー?」

 楓からエルフの女性を受け取った美冬が、バイタルを取りながら怪訝そうな声を上げる。

「どうした?」

「この人達、生徒手帳を持ってるよ。えと、やっぱり大鷹高校の生徒みたい。もしかして要救助者かも」

「それは良かった、それ以外の要救助者がいるかは。お前らが教えてくれるよな?」

 この状態でも、逃げようと楓達の様子を伺っていた三島と研究者が「ひっ」と声を上げるのを見て、益々楓は目つきを厳しくする。

「さっきのエルフを喰ったとは何だ?鉛玉を喰らいたくなかったらさっさと吐けよ」

 そう楓は据わった目で主に三島を視線で射抜いたのだった。

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