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第88話 如月姉妹本部へ

 本部に詰める要員が慌ただしく動く中、カイヤは公表されている大川町周辺の警察部隊の展開場所、ギルドの動きをディスプレイの1面に映し出す。

 そして、別のディスプレイを2面表示にして楓が通信で送って来た情報を元に、今日の楓の行動をした箇所を表示し、もう1面には宝翔学園から大鷹高校への移動ルートを複数表示する。

「地上からは1時間半はかかりそうネ、飛行であれば30分もかからないカ・・・」

 手早く支援する方法はいくつかあり、それを比較しながら支援策を詰めて行く。

そうしていると、美夏と美冬が本部を見渡した後、カイヤを見つけてスタスタと歩いて来て美夏が口を開く。

「特殊遊撃隊、本部に到着。カイヤ、状況に変化はあったの?あ、美冬は適当な椅子を借りて座って」

「はぁい…」

 まだ魔力欠乏気味なのだろう、気だるげに椅子に座る美冬。

美冬が座ったのを見て、カイヤがそれに答える。

「今のところは無いワ。ドローンの飛行ログの解析待ちネ。それでこの画面を見て、これが楓君の報告を元にした大川町の状況ヨ。正直、ここまで情報のズレが起きている事は意外だったワ、それを見て明日の遠征の部隊編成の変更も必要かを相談したいのよネ。現時点で遠征に組み込みが可能な部隊は3小隊、これは兵站も含めて動けるという意味ネ」

 美夏と美冬が来るまでのわずかな間に、カイヤはPCを使って各部隊の状況を分析し、リソースのリストアップを終えていた。

 その様子を見ていた他の隊員は、カイヤの指揮能力が卓越している事を再認識していた。

「ちょっと見せて」

 そう美夏が画面をのぞき込み、それ以外の表示内容を見て考え込む。

「カイヤ、今日の時点で救援をできるの?」

「ウン、今はそっちのリストアップをしてもらっているケド、ウチの規模でもそれに耐えられる隊員は10名ぐらいね」

「ふーむ・・・」

 白い指を自分の顎に当てて、美夏は新しい情報を頭に入れて検討を進める。

「敵の規模は分かっているの?打ち漏らしがあるって言うけど」

「そうネ、大鷹高校の情報が正しいとすればゴブリン10匹、ゴブリンマジシャン3匹、ホブゴブリン2匹、オーガ1匹がいるみたいね。それらを撃破した情報は入っていないワ」

「今起きている通信妨害、ドローン妨害への政治的な対処はギルド支部長、団長と副団長がやってくれているのよね」

「ウン」

「そう、それなら。明日の部隊編成の変更は無しでいいわね、どこの連中が邪魔をしているか分からないけど、団長達が動いているなら妨害は数時間で収まるはず。今日、これから救援部隊の出撃はお願いしたいわね。楓は独自で動いていると思うけど、あまり一人で居る状況を続けたくないのよね」

 楓君が寂しがるからかな?とカイヤは思って美夏の表情を見る。

 しかしその表情は濃い翳りを帯びていて、カイヤは自分の予想が合っていない事を悟る。

「特殊遊撃隊の判断は、今言った通り。救援部隊の希望は打撃力、機動力があって少数人数のチームが良いわ。多くなればそれだけ出撃までに時間がかかるからね。カイヤ、候補を上げる事は出来る?」

 モニターに向けた姿勢はそのままに、目だけをカイヤに向けて美夏が聞く。

 その瞳の色は、いつもの紅に加えてモニターの色を受けて妖しい紫紺になっていた。

「ウン。それでリストアップするネ」

 そう2人が話していると、水月姉妹が本部に入って来たのをティスが出迎える。

「あれ、水月さん達はもう日向神社の警備は終わりなの?予定だとあと2時間半後の帰りのはずだけど?」

「はい、神人頭のあの方が姉にクレームを入れて来たので、口論になりました。宮司さんが仲裁してくれたのですが、それ以上その場に居るのはお互いに良くないので、神社の許可を得て先に帰ってきました。なお、神人頭の加藤真二郎さんは頭を冷やせと、かなり叱られてましたよ」

 怜悧な表情を崩さずにレナが報告をしている、瑠華は?と見るとぷくっと頬を膨らませていた。

「まったく、射撃位置を変えるのは位置を悟られないようにするって言っているのに、そのたびに文句言うんだもん。それに言う事に事欠いて『こそこそ隠れていないで、正々堂々と戦え!』てスナイパーに言うのは、アホかと思ったんだもん」

 それを聞いて、ティスは軽く頭痛を覚えながらため息をつく。

 日向神社との関係は良好だが、神人頭に他の神社から引き抜かれて来た加藤の起こすも揉め事は、HSSでも問題視されつつある。

 とはいえ、今はそれどころでは無いので棚上げをするティスだった。

「それで、ティスさん。何があったの?」

 カーミラと呼んでいる対物ライフルの入ったケースを床に置いてから、瑠華が聞いて来る。

 それに対して、隠す事ではないのでティスが伝えると瑠華は楽しそうに瞳を輝かせ、レナは表情を崩す事は無く自分達の装備の点検に入っていた。

「何それ、ウチの備品に手を出して来た人が居たの!?」

「そうなの、誰がやったのかは分からないけどね。今は如月君の支援作戦を練っているところなのよ。2人は装備を返して報告書を出したら帰っていいわよ」

「はぁい、それじゃあちゃちゃっとやるねー」

 そう瑠華が貸与タブレット端末を開こうとすると、美夏が声を掛けて来る。

「ねえ、水月さん達はそれほど疲れてないのかな?」

「うん、学校と神社を往復したくらいだから、全然元気だよー」

 対物ライフルを持って移動をした少女の言う事ではないが、そこは敢えてスルーする。

 報告書を書くためにタブレット端末の画面をタップしながら、ニコニコと瑠華が答える。

「それじゃあ、ウチの弟を助けてくれない?具体的に今から大川町に飛行魔法で移動後、現地の楓と合流もしくは支援をお願い。これはHSSの正式な作戦と考えていいわ」

「うん、いいけどー。レナちゃんはどう?」

 あっさりと請け負った瑠華は、レナに聞いている。

「はい、大丈夫です。選定理由を教えて下さい」

 それに対して、美夏はカイヤに先ほど言った希望を満たす隊員だという事を説明する。

「そう言う事でしたら、わかりました。私達は寮住まいなので、寮長に連絡をすればすぐに動けます。作戦継続時間、装備などはどうなりますか?」

「それは、アタシは答えるネ。作戦時間は長くても明日の夕方まで、必要な糧食と装備はあと30分で届くワ。魔力補給用のポーションは支給するから、飛行魔法で行って頂戴」

 それに加えて現地の状況を手早く伝える、詳細は装備が整うまでに伝える予定だった。

「わかりました、もとか隊長には連絡を任せていいですか?準備を進めたいので」

「ええ、オネガイね」

 双子が準備をしに本部から出て行った直後、SNSなどを調べていた要員から報告が入る。

「SNS、掲示板サイトを中心に調べていたが、ここ1時間のHSS関連の書き込みは団長と副団長の目撃の書き込みが多い。期間のレンジを伸ばしていたところ、3週間前までの掲示板サイト、SNSのログを解析、アングラサイトまで潜った結果、大川町の防衛隊についての愚痴スレッド、SNSの複数のアカウントを発見。内容はざっくり言うと、防衛隊の物資不足、人員の補充無し、不十分な治療、防衛隊の人員、エルフの行方不明についてがメインです」

「ナイス!内容はある程度予想通りね、信ぴょう性の裏取りをよろしくネ。それが終わったら医療関連の書き込みを調べテ」

「了解。人使いが荒い・・・」

「そっちの調査は、追加の要員を招集してネ。あたしは各所への連絡をしているわ」

 カイヤはそう指示を出して、指揮用PCを使って水月姉妹が抜けた状態での部隊配置の変更を進める。

 時空振動の確率が上昇しつつあるので、襲撃が起きた場合の編制を練り直す。

「水月さん達への神人頭の当たりの強さは、どうしようかしらネ。協定があるから、明日の部隊派遣はシシリーさん当たりにするかナ。その前に神社から何か謝罪があればいいんだケド」

 頭痛の素を思い出してカイヤは額を指先で突っつく。

「ネギの人が、加藤を引き抜いたらしいケド。この様子を見ると、神社にとっては逆効果なのじゃないかな…。もとかに相談してみるカ」

「カイヤさん、寮長への連絡から戻りました。出撃の装備品の受け取りは兵站班でいいんですか?」

 まだむくれている瑠華を引きずって来たレナがカイヤに聞く。

「うん、そろそろ準備が出来ているハズ。行ってきてくれる?」

「了解」

 そういったやり取りの約1時間後、瑠華とレナの2人は宝翔学園から紅色に染まる空へと出撃をしたのだった。

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