第87話 支援作戦開始
15時頃、HSS本部。
楓の偵察活動開始の通信を受け取ったティスは、第2捜査隊の要員を招集しドローンからの映像、飛行ログが表示されているPCの前に集まっていた。
また、県警の不穏な動きについてはSNS、ネットサイトへの書き込みをチェックする要員も呼ばれ、複数のモニターを見ながら監視活動を開始している。
なお、ちょうど本部に居たカイヤもその後ろでパック牛乳を飲みながら状況を見守っていた。
「画像、ちょっと乱れているね・・・あ、次からの画像はちゃんとした角度で録れてる。楓君が角度の悪さに気が付いたのね。ほとんどドローンの使い方を教えてなかったのに、やるじゃない」
「今のところ飛行は安定している、このまま継続監視を続けて・・・うわ、ゴブリンとホブゴブリンが居るじゃん。なんでこの数を打ち漏らしているんだよ」
映像を確認していた要員の一人がぼやく。
「ただ、この規模では単独で人類の町は襲えない、どれだけの数がいるかが分かればいいんだけどね」
そうしていると、ドローンが森の奥にある建物群を捉えたところで画像が乱れてブラックアウトする。
「いや、何だって・・・ドローンが落ちた?」
「石川君、ログを解析。佐原君は至急、通信を如月君に送っテ!」
急な状況変化に戸惑っていたティスの後ろから、カイヤがいつもの様子とは違った鋭い声で指示を出す。
それを受けて、要員達はそれぞれの役目を果たすために行動を開始する。
「如月君、聞こえますか?如月君?ダメです、完全に通信途絶・・・妨害の可能性が高いわね」
ティスがヘッドセットから楓に通信を試みるが、ノイズが聞こえるだけで全く反応が無い。
そうしていると、ログを確認していた石川が声を上げる。
「ドローンのログを確認した。墜落の前に30秒程度、ドローンに照射された周波数の情報が取れているから、すぐに照会かける」
カタカタとキーボードをせわしなく打鍵する音が響く中、カイヤは将直に通信を入れるか少しの間迷う。
その様子を見たティスがメモ帳に今の状況を書いてカイヤに見せる。
「これをスルーシちゃんに見せれば、会議をしていても副団長が気が付くはず、やっていい?」
「ウン、アリガト」
メモをスルーシに見せてティスが戻って来ると、石川が声を上げる。
「ログをある程度解析した、妨害用の周波数をかなりの出力で発信している、これは民生用というより警察、軍かブレイカーギルドレベルの組織じゃないと持っていない奴だな」
ディスプレイを睨みつけながら、石川が答える。
この段階では、県警が妨害を行ったとは断言できない。
しかし、大川町の管轄は鹿谷署という事、自分達が連携している岩戸署とは違う命令系統にある事、楓からの情報で県警がサーバーを接収(とHSSは判断していた)していた事を考えると、ほぼ黒に近いグレーの状態で警察組織の一部がドローン妨害をした可能性が高い。
(ここは踏み込んでみるカナ)
唇に中指を当てて考え込んでいたカイヤは、方針を決めてティスに話しかける。
「今の情報を、スルーシに見せていいワ。文面は“如月隊員との長距離通信が途絶、妨害の可能性有り。通信ログの一部解析完了・・・ジャミング機器の出力は県警の使用しているタイプに酷似”でオネガイ」
「いいの?かなり踏み込んでいるけど?」
ティスが注意を促すが、それに対してカイヤは、
「そうね、でも状況を積み上げると警察が噛んでいる可能性があるワ。そう考えない場合より、この方針で行った方が良さそうなのヨ。ま、岩戸署に迷惑をかけたら、ゴメンナサイをアタシがするワ」
パチッとウィンクをして、カイヤがおどけたように言う。
「はあ、その時はあたしも行くわよ・・・。了解」
ティスがスルーシに新しい紙を見せた後、猫用のスティック型のおやつを与えているのを見ながらカイヤは次の手を考えていると、HSS用のPCに将直からの通信が入ったお知らせが表示される。
『神代だ、状況はどうだ?』
佐原が受話ボタンを押すと、スピーカーから将直の声が流れる。
「ちょうど次の手を考えていたトコ、神代君はこっちに戻って来るノ?」
『そのつもりだったが、市内に規模の大きい虚無の気配をマナが察知した。実体化する前に出現位置の予測をするため、俺達は哨戒してから戻るつもりだ。カイヤには、大川町への作戦指揮権を一時的に渡すから頼まれてくれないか?遠征は予定通り行う事には変わりがないから、増員の検討と楓君への支援作戦を考えてくれ』
「ラジャ―。逐次連絡は必要?」
これは自分が指示をする事を都度、将直に連絡をするか?という問いである。
『不要だ。カイヤの指揮能力は信用しているからな。俺達の指示や支援が必要な以外は、後で報告をしてくれればいい。代わりに俺は、今の虚無が実体化した場合の戦闘指揮をする。それと、レセプトの突き合わせはどうだった?』
「神代君、ティスです。レセプトはほぼクロだったわ、大川町総合病院は、少なくとも診療報酬の不正を働いている事は確定って柚月先生が言っていたわ」
『なるほど。何故そんな事をしたのか、とウチのドローンに手を出して来た事、大鷹高校の防衛隊に支援が上手く行っていない事、それらを繋ぐと何かわかるかもしれないな。それについては、宮岡さんの情報を待って検討しよう。それじゃ、カイヤ頼んだぞ』
「アハハ、信用してくれてアリガト。期待に応えるワ」
通信を切ると、その場に居る隊員がカイヤを見つめていた、熱い視線というワケでは無く指示を待っているという視線だ。
「さてと、聞いた通りアタシが指揮をするワ。まずティスは如月姉妹に、チャットツールで楓君との連絡が取れなくなった事を説明シテ。校内にいるなら、本部へ来てもらってもいいワ。次に緊急支援部隊の編制をするから、今動ける隊員の候補を佐原君は出しテ。検索条件は、戦闘力と機動力があって少人数でも動ける隊員でネ。石川君は引き続きログの解析、それが出来たら最優先でアタシに伝えテ」
そう言って、カイヤは指揮用のブースの席に座る。そこは6面ディスプレイと通信設備、指揮用のPCが設置された場所だ。
「HSSの皆様、楓君の救援作戦開始よ!」
そうカイヤが声を掛けると、本部の空気がピリッと張り詰めて各自がそれぞれの作業を始める。
そうしていると、如月美夏と美冬が本部の入り口から入って来たのだった。




