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第83話 ドローン墜落

放課後、楓は授業終わりのタイミングで防衛隊詰所を訪れた。


「ああ、如月君か…今度はどうしたんだ?」


 午前中より疲労が見える三島に黙礼を返して、詰所の机にPCとドローンのセットを広げる。


「これからドローンで偵察活動をします、三島隊長や防衛隊で動ける方と見た方がいいと思うので、小隊長クラスを招集できますか?」


「偵察だって?そんな急いでやる事なのか?明日でもいいんじゃないか?」


 乗り気ではない三島の態度に、不審なものを感じつつ口を開く。


「三島隊長、行方不明者が出ている状態で捜索もしていないのは問題ですよ。余力が無ければ頼る組織はHSS、ギルド、県警、軍と色々あったでしょう?それにこれはウチの団長からの指示なので、こちらの責任で進めます。いいですね?」


 強い視線でジッと三島を見ると、何か言いたかったのだろうモゴモゴと口を動かしていた。


「こちらは準備をしていますので、防衛隊に連絡と招集をお願いします」


「わかった、出て来るから待っていてくれ」


 そう詰所を出て行く三島の背を見送って数分後、楓は連絡をするのは通信をすれば良かったのでは?と思ったが後の祭りだった。


 そして10分ほどが経ったとき、ドアを勢いよく開けて鷹田が入って来る。


「よっ!如月、三島に言われてやって来たぜ」


「お疲れ様です。鷹田先輩だけですか?」


「おう、うちは小さい所帯だから指揮するのは隊長の三島と副隊長の俺だけだな」


「小隊長クラスは居ないんですか…それで三島先輩は?」


「ああ、なんか教頭と一緒に校長室に向かっていったのを見たぜ」


「校長室…そう言えば俺は校長には会ってないですね」


「ああ、なんか町長にべったりの小役人って感じだよ。意味も無くこっちの作戦に口を出す事があるんだよな」


 楓はそれを聞いて今日1日で分かった情報を頭の中で組み立てて行く、その結果この学校と町は内部が腐っていると断じるしかない。


 それをHSSに影響させず、この学校の未来をどうしたらいいか、までは考えているがそれ以上は美夏が来てから考えようと思考を一旦止める。


 この状況に精神が当てられていて、どうも思考がヤバい方向に落ち込みつつあるので一旦思考にストップをかける。


「現場にそう言う事をするのは良くないですね、三島先輩はそれを止めないんですか?」


「ああ。あいつも他の先生の指示には反対するんだが、校長には弱いな。そんな事よりそれで偵察するのか?結構小さいドローンなんだな?」


 きらきらとした目で机の上のドローンを見る鷹田に、ちゃんと説明しないと収まらないだろうな、と諦観しつつ楓は説明を始めていく、結局三島が戻って来たのは20分経った時だった。


「三島隊長、遅かったですね。偵察の様子を見てくれるのは防衛隊の隊員は三島隊長と鷹田先輩の2人だけですか?」


「ああ、そうだ。動ける隊員は警戒態勢に入っているんだよ」


 その言葉は嘘ではなさそうだ、校長室に行ったという事が気になるが追及している時間はない。


 ドローンとPCを接続、さらに通信回線でHSS本部へと映像と飛行ログを同期させる。


「それじゃ、始めます」


「ちょっと待った。HSSとそれをつなげているのか?」


「当然でしょう?本部に情報を共有しないと、明日からの作戦に影響しますよ」


「いや…それはそうだが。明日記録をした媒体を渡せばいいじゃないか?それに俺達に見せる理由は何なんだ?」


「媒体については搭載していますが、情報は早い方がいいのでリアルタイムで伝えるために通信回線を使います。次にこういう事はちゃんと現地の防衛隊に共有をしないと、疑念を持たれる場合がありますからね」


 そう答えて、ゲームパッドを改造したコントローラーのスティックを操作するとドローンが外へ飛んでいく。


「テスト飛行後に、来訪者が潜んでいそうな箇所を偵察します。バッテリーは25分程度なので急ぎます」


 そう楓が宣言をして、ドローンを学校の周囲に飛ばして1週回るのコースを取る、途中20枚程度の画像を撮っておく。


 PCに表示された画像を見ると、ちゃんとした角度で取れなかった画像はブレが起きていたので、それを頭に入れて南西の森林地帯へとドローンを向ける。


 カメラからの映像に、森林がグングンと迫って来て木々の上をドローンは飛んでいく。


 そうして、数分飛行すると木々の中に小さな広場がいくつか見えて来たので、そちらへとドローン向けるとその広場にホブゴブリン1匹、ゴブリン5匹の姿が見える。


「!」


 連中は運良くこちらを見ていなかったようだ、枝にぶつからないように慎重にドローンを動かして画像を撮ると広場の一角に長方形の朽ちた建物が見えた。


 詳しい分析は後になるが、工事現場などで事務所に使われるようなプレハブか既製品のコンテナハウスかもしれない。


 一度ドローンを上昇させて次に見えた広場へ向けると、そこにもゴブリンが3匹屯していた。


「これでホブ1、ゴブが8匹ですか。かなり取り逃がしているみたいですね」


 視線を三島に向ける事もせずに楓が呟く。


「?」


「どうした如月君?」


 上昇させたドローンのカメラの奥に明らかに大型の人工物…建物群が見えたので楓の動きが止まる。


「鷹田先輩、これは何かわかります?」


「うん?あー…これは懐かしいな、俺が中坊の時まで稼働していた工場だぜ。確か…バイオなんとかをやっているって言ってたな」


「気になりますね…残りの来訪者か行方不明はあそこに居るかもしれません。バッテリーはギリギリ持つかな」


 そう言って、ドローンを進めて行くと急にドローンの姿勢が崩れ木々の中に突っ込んでしまう、コントローラーを操作したが、ドローンが全く反応しない。


 カメラからの映像を見るとさっきの広場の近くの木に落ちたようだ。


「くそっ、なんなんだ!?」


 思わず毒づくが、事態はそれでは改善しない。


 バッテリー残量が怪しいので、カメラを止めてドローンに位置情報を定期的に飛ばすだけのサスペンド状態の命令を飛ばす。


「どうしたんだ?」


 三島が心配そうに聞いて来るが、楓は飛行ログを見つめる…が自分はそれを読み取るスキルが無いのですぐに諦める。


 とりあえず墜落した座標をメモして立ち上がる。


 ログの解析は本部のだれかがやってくれるだろう、長距離通信をHSS本部にしようとするが電波が安定せず通話が出来ない事に顔をしかめる。


「通信が邪魔されていますね」


 それを聞いた鷹田が自分の通信機を調節し、自警団へと短い会話を行う。


「短距離通信は大丈夫そうだな。俺らの周波数を教えておくぜ」


「ありがとうございます。人為的なのかわかりませんが、妨害の発生源があるかもですね」


 鷹田から聞いた周波数を通信機のメモリーに入れる、これで防衛隊にだけだが通信が確保されたことになる。


「そうなのか?人員が居れば調査出来るんだが」


「いいえ、そちらは今のシフトで動いて下さい」


 PCの蓋を閉じ、物理的にロックを掛けて楓は立ち上がる。


「俺がドローンを回収してきます、座標位置から換算すると森林と畑の境界から400mくらい侵入します。支援が必要な場合は通信を入れますのでお願いします」


「お、おい。敵の姿があっただろう?一人で行くのか?」


「ええ、ドローンが墜落したら回収しろって団長に言われますので。アレ、結構高いんですよ」


 実際の値段は知らないが、神代に言われた事をそのまま三島に伝える。


「それは危険すぎる。出撃の許可は出来ない」


 そこで初めて隊長らしく三島が指示を出すのを、楓は一瞥して口を開く。


「三島隊長、あなたの許可は必要ありません。これはHSS団長の指示なので、責任はこちらにありますから出撃の可否は俺が行います。通信が繋がりにくいですが抗議は本部にお願いします」


 手早く装備を身に付けながら楓は答える、自分の出撃を止めて来たタイミングといいリーダーシップの欠けている様子といい、この時点で楓は三島に抱いていた不審はかなり大きくなっていた。


「こちらの指示を聞かずに出撃をして、支援要請をするのはずいぶんと勝手だと思わないのか?」


 表情を険しくして反論をしてくる三島に、自分が同じように表情を険しくしないように努力しながら楓は答える。


「HSSがこちらに支援に来る条件の中で、お互いに支援する事が入っていますよ。俺は先に保健室での治療支援を既に行っています。それなのにHSSからの要請は断るんですか?」


「そうだなー。村上先生は凄く喜んでたし竹田も顔色が少し良くなっていたから、俺達はHSSに借りがある状態なんだよな。それに三島、なんかお前はさっきから如月君の邪魔をしているようにみえるぞ」


 自分のライフルのチェックをしながら鷹田が切り込む、どうやら鷹田は支援に前向きのようだ。


「楓君は保健室でも重傷者の治療を手伝ってくれていたし、信用できると思うぜ。少なくとも学校をHSSとして助けてくれるのは間違いないんじゃないか?」


 楓もこの半日の活動で色々と分かった事があるがの学校を助ける姿勢にブレは無い。(色々あったとは言え、こんな所でブレると美夏に怒られるだろう)


「あと1時間で夕方になります。夜間活動はぞっとしないので俺は行きます」


 そう言って、もう一度通信をHSS本部にするが回線が上手く繋がらないのを確かめる。


「18時過ぎには帰投予定です、置いて行く荷物には触らないで下さい。先輩達を信用していますが、何か荷物などにあった場合はそちらの責任になりますよ」


 最後に闇切丸をホルスターに収めて詰所のドアを開けてバイクの所まで行き、戦闘用ヘルメットを被り、エンジンをかける。


「如月ぃ!ヤバかったらすぐに通信いれろよな!」


 頭上から大声を掛けて来た鷹田に強く頷いて、楓はバイクのスロットルを回して森林地域に向かって行った。

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