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第79話 単独出撃

 AM5:00、如月家では楓が遠征の最終チェックを行っていた。

 第1捜査室と兵站班へは自分だけで先行する事を伝えていたので、学園には寄らずに自宅から大鷲高校に向かう手はずを整えている。

 自分の学用品、装備品に加え3日分の戦闘糧食をバックパックに纏めている。

 その他の遠征用品は後発の第1捜査室、美夏と美冬が持ってくるので最小限に抑えている。

「じゃあ、先に行って来る。美夏ねえは美冬を看ていてくれ」

 簡単な朝ご飯を食べていた食卓から楓が立ち上がる。

「分かったわ。くれぐれも無理をしないようにね。攻めと引きのタイミングは間違えないで」

 玄関まで付いて来た美夏が楓にいつもの念押しをする。

「ああ、美夏ねえが居ないから感知魔法のフォローが受けられないから気を付けるよ」

「作戦行動時は、GPS、ボディカメラは出来るだけ使ってね。カメラは容量の問題があるから要所要所で使う事。あとは…ドローンは借りられたけど2台までだからバッテリー容量の問題があるから使いどころに注意して」

「そうするよ。…美夏、最後に2つ確認させてくれ」

 自分の呼び方が「美夏」になった事で、美夏の意識が瞬時に戦闘状態へと移行する。

「なに?」

「もし、県警や軍から横槍が入った場合はどうする?カイヤさんから聞いた“県警の動きが鈍い”の件が気になっているんだ。まだ不確定だが、鈍いだけでなく妨害が見られたらどう動けばいいか考えていたんだが」

「うん、聞かせて」

「行き当たりばったりになるが、県警の誰かが遠征先の地域で何か画策していた事がハッキリと分かった場合は県警と対立する、そうで無かった場合はサボった理由を後で問い詰めるでどうだ?」

「カイヤが感づいているかわからないけど、ちょっとあたしも匂うものを感じるのよ。だから方針はそれでいいわ。楓だけで県警の実行部隊とぶつかりそうだったら撤退して情報を持ち帰る事、そうではない場合でも多勢に無勢になる可能性が高かったら撤退をしてあたし達との合流を目指して…これ小隊長命令よ。で、あと一つは?」

「命令と来たか…了解した。もう一つは防衛隊の情報更新がされていないと言う事は想定外の事態が起きていると考える、そうして考えた最悪のパターンとして防衛隊の誰かが死亡もしくは行方不明になっていた場合はどうする?」

「楓は人為的な隠ぺい工作が起きていると考えているのね?」

「ああ。それがはっきりとしたら県警、自衛軍が敵に回るかもしれないからな。両方を相手取るにはギルドでは力不足だと思う、ただ県警にしろ自衛軍にしろその全体が今回の遠征地域に手を出しているわけでは無いと思うんだ」

「そうなるといいわね、確証があればその判断は間違いないと言えるんだけど」

「だから、俺が今日そのキッカケを掴んでみる。アクションを起こせばリアクションが付いて来るはずだ、その先は美夏に工作を頼む事になるけど…」

 戦術的な動きは得意だが、戦略的なそれが苦手な楓が言いよどむ。

「分かったわよ、その先の事はあたしがやるから楓は思い切りやってきなさい」

「助かる。ま、生き残る事を優先しておくさ」

 そう不吉な事を言う楓を瞳を細めて睨みつけた美夏は、すぐにその表情を改める。

「そんな事は言わないの、戦いだから死と隣り合わせだけどね。楓を生き返らせる事態にはならないで頂戴?黄泉返しをしている時にあたし達の護り手がいないのはきついからね」

「そうだな、じゃ行って来る」

 荷物を持ち上げて楓は扉から出ていく、この後はバイクに荷物の積み込みをするがそこまでは美夏は手伝えないから、見送りはここまでとなる。

 バタン、と閉じたドアを見て5分ほどそこに佇んでいた美夏は、ほっと溜息をついて睡眠時間を確保すべく自分の部屋へ戻って行った。


 ◇◇◇


 AM6:30、県道59号線の路上を楓の駆る中型二輪が疾走(ただし法廷速度くらいで)していた、車体は頑丈さを重視した武骨なフレーム、各種キャリアを着けられるアタッチメントを多めに配置しタイヤは汎用性を考えてオフロードタイヤを履かせている。

 オンロードでの走行性能はオンロード車に劣るが、学園付近でも神鎮の森を移動する事を考えてオフロード仕様にした車体に仕上げている。

 ヘルメットには一般的になりつつある、HUDを装備しているのでナビゲーションシステムの情報はそこに表示されているので、ハンドルに設置する場合より視点移動が減るので緊急事態に対応しやすい。

 そのナビゲーションシステムが、目的地の大鷹高校へ残り8キロの表示をした時にHUDに注意情報が表示される。

 そこは片側2車線の県道のカーブが続き、山の斜面と崖が迫って来ている場所で左右の視界が森林に遮られて悪くなっている。

 路肩にバイクを止め、単眼鏡で木々の間などを見ている楓の感覚が自分を見ている視線を感知する。

(この視線は人間じゃない。来訪者か?)

 感知した方向にレンズを向けて見ると何かが茂みを揺らしている様子が見て取れた、自分の位置からは崖下になり県道からはかなり急な斜面が10メートルほど続いている。

(追跡は無理だな、メモを記載っと)

 端末を起動して、マップにその情報を書き込むとエンジンをスタートさせてその場を離れる。

 その後は楓の感覚に引っかかるものは無く、10分走ると山間部の町が見えて来てその中心部に急造の要塞化された大鷲高校の姿をその目に捉えた楓はスロットルをさらに握り込んでその中へと進んで行った。

 大通りという雰囲気の通りを走っていると、建物や道路の破損や修繕の様子に視線が行ってしまう。

 岩戸市と比べると修繕が出来ている範囲が狭く、破壊された箇所が目立ってしまっている。

 この事から、建物や壁の防御効果は低下していると考えられるだろう。

 これは人員が居ないのか、それとも物資不足のどちらか…もしくは両方が考えられる。

 その予想が正しかった場合、大鷲高校付近は間違いなく苦戦している事になる。

 周囲を見ながらバイクを進める楓は、7時過ぎに大鷲高校正門前に楓は到着した。

 バイクを止めていると正門の警備員詰所からは自警団の一員と思われる中年男性が出て来て、バイクから降りた楓を警戒する表情で見ている。

「おはようございます。HSSの如月と言います、大鷲高校へ支援に来ました」

 何か言われる前に楓は、誠実で堂々とした態度でその男へ声を掛ける。

「HSS?到着は明日じゃないのか?」

 虚を突かれた表情をする男を見て、楓は頭の隅にもやっとしたものを感じる。

「ええ、先行部隊です。…連絡済みですが、話が通っていないんですか?」

「そうだな、学生同士の連絡は生徒に任せていたんだが、昨日も出撃があったから漏れていたかもしれんな」

 あくまでも誠実に話す楓に、男は警戒を解いて来たようだ。

「ここの防衛隊は、疲弊気味という事ですか?県警や自衛軍は来ないんですか?」

「ああ、あいつらは後方からあれしろこれしろって命令するばかりであまり人も物資もよこさないんだ。この町がギリギリの状態になっているのによ」

「…」

 考え込む姿勢になった楓を見て、男が内情を言い過ぎたのか少し慌てたように付け加える。

「それでも、踏みとどまっているのは生徒のおかげなんだ。学校に入ったら職員室を訪ねてくれよな、もし生徒がだらしない状態でも、その…見捨てないでくれ」

「ええ、分かってます。出来る限り力になりますよ。それでは」

 正門前にバイクを放置するのは良くないので、学校内の玄関に置かせてもらおうとバイクを転がしながら楓が校庭脇の道を進むと、いくつかの視線が集まるのを感じる。

 強い興味、警戒、無関心なものがあるがとりあえずは反応せずに玄関へと着く。

「君はHSSの団員かな。大鷲高校へようこそ、校長は居ないので教頭の私が対応させてもらう」

 玄関には生え際が後退したいわゆるバーコード頭の教頭が立っており、値踏みをする目で楓を見ている。

「HSS特殊遊撃隊の如月楓です。先行部隊として貴校の支援任務に来ました、良ければ防衛隊の生徒と話をさせてもらえますか?」

「それはいいが、今日来るのは3人と聞いていたがどうしたのかね?」

「昨日、こちらでも来訪者戦があったので、その影響です。明日には到着するのでお気になさらず」

 正門の自警団と教頭の情報が食い違っている、その事を心に書き留めながら前田の話を受け流す。

「肝は据わっているようだな、見ての通りこの学校と町は来訪者の襲撃を受け続けている、キミらでなんとかできるなら頼んだよ」

「ええ、そのためにまず防衛隊との会議の許可をいただけますか?」

「わかった、話は通しておこう。校舎裏の部室棟の2階に防衛隊本部があるから尋ねてくれ。ああ、授業は希望者だけ出てもらっているが。教師や生徒の数が足りないからほとんど休講になっている」

「わかりました、ありがとうございます」

 何故、教師や生徒が少なくなっているのか、来訪者との戦いで負傷などをしていると考えるのが自然だろう。

 ただ、授業が出来なくなるレベルというのはHSSに入って来ていない情報だった。

 バイクをまた転がして部室棟を目指す楓は、教頭、自警団、防衛隊、自衛軍、県警のそれぞれがどんな関係にあるのかも考えていた、はっきりと分かる事はこの町は前線にもうなっている事、下手をするとHSSが巻き込まれる事でリソースを割かれ、泥沼に引き込まれるマズイ状態になるかもしれないという事だった。

(この想像が正しかったら、まだやりようはあるな。そして情報共有がズレているのも気になる、本格的に動くのは姉さん達が来る明日にするとして、今日のうちに集められるだけ情報を集めよう)

 そう結論づけた楓の目に、プレハブ二階建ての部室棟とその2階に掲げられた鷲をあしらった部隊章が飛び込んで来たのだった。

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