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第77話 カイヤの説明と相談

 楓達が詰所に入ると、美冬が窓のブラインドを降ろした後に風の精霊を使って遮音魔法使って詰所内部の音が漏れないようにする。

 楓はドアに「会議中・用事のある方はノックして下さい」と古びた札を下げてからドアを閉め、念のため鍵を掛ける。

 秘匿性の高い会議となると判断した2人がテキパキを動いていくのを見ていた美夏がテーブルを片付けて飲み物などを並べる。

 カイヤはその様子をあっけにとられて見ていたが、ハッと気が付いて自分のタブレットを取り出す。

「どうしたの?」

 そう美夏に問われて苦笑混じりにカイヤが答える。

「ううん、こういった会議に手慣れているのネ」

「ああ、そうね。地元だと自警団の集まりに駆り出された時に団のおじさん、おばさんに仕込まれたのよ。5年くらい前から地元がDゾーンからCゾーンに移行しそうになった時点で、対人防諜の仕組みを入れたの」

「それは、リケンって奴が絡んでるの?」

「そうね、人類の居住がしやすくなるCゾーンになると地価が上がったり、経済の活性化になるからねスジの悪い連中も入り込むから防諜はかなり重要になるのよね。ま、素人に毛が生えたレベルなんだけど」

「でも、堂に入っているわヨ?」

「それはどうも…そろそろ本題に入ろっか」

「うん。それでは今HSSが要請されている遠征任務について説明するワ」

 タブレットとプロジェクターをつないでホワイトボードに画面を映し出す。

 宝翔学園を中心とした埼玉県の地図が表示される。その地図は地域の学校がランドマークとしてされておりその横には簡易的なグラフが表示されていた。

「これはHSSと相互支援関係にある学校をメインにしたマップね。このグラフはタップすれば詳細なものになるけど簡易版では、その学校の防衛組織の人数と充足率、直近の戦闘の損害が表示されているワ。赤からグリーンで色塗りをされているのはゾーン分けヨ」

「なるほど、やはりDゾーン以上のゾーンに近い学校は充足率の低下と損害率が高いんですね」

「ええ、踏みとどまっている地域もあるんだけど来訪者の襲撃が多い場所は、それが原因で人口の流出が起きる事はここ数十年で分かっている傾向ヨ。それで空白になった地域に来訪者が定着して、さらに危険なゾーンが増える…というスパイラルになって人類はいくつかの地域を世界中で来訪者に渡してしまっている結果になっているワ。神代君が団長になってからは、それに危機感を抱いて戦力に余裕があるHSSから各地域に支援部隊を出している、これが遠征というワケ」

「なるほど」

「遠征先は危険度から見て、トリアージをするんだケド。さっきの会議の内容から団長の考えている事を実現すると仮定すれば…ゾーンの危険度が上がりそうな場所がメインになりそうネ」

「それだと、どこになりそうなの?」

「うーん、候補はいくつかあるから団長と詰めないとだケド。ここね、西松山市と大川町の交差する地域がこの頃来訪者の襲撃が多いワ。それに地域奪還も進んでいない箇所があるのよ、大鷲高校が踏みとどまっているけれども、ウチに救援要請を送って来たワヨ」

 マップに大鷲高校周辺の地図がアップになり、詳細な戦闘詳報が表示されていく。

 半年前は問題なく来訪者を撃退していたが、高校3年生の卒業と共に損耗率の増大が見られている事から引継ぎに問題があったのか、入学した生徒の戦闘力が水準に合っていないかだったのだろうと美夏は推測する。

「来訪者の襲撃コース、パターンは分かっているの?」

「それがね、ここ3週間は戦闘情報の更新が出来ないくらいに、防衛組織が迎撃で多忙みたいヨ」

「警察、自衛軍はどう動いているの?Eゾーン拡大がニュースになるくらいだから、自治体から要請があれば支援に行くはずでしょ?」

「うん、それは間違いないワ。大鷲高校付近の場合は県警、自衛軍の動きが鈍い…正確に言えば追撃をあまりやらないので来訪者の取り逃がしを許しているのヨネ」

「それ、不自然じゃないですか?」と美冬。

「来訪者はできるだけ追撃して、全滅させないとその地域の安定は出来ない事は広く知られているはずです、定着しているのであれば生息地になっている所に踏み込んでの殲滅戦が必要なのに…何故?」

「不自然ですね。カイヤ室長、それがこの話を特殊遊撃隊に持ってきた理由ですか?」

 楓の鋭い眼光がカイヤを射抜く。

「隠しても仕方ないから正直に言うわね、返事はイエスよ」

 おどけた仕草で両手を上げてカイヤが答える。

「遠征が得意な第1でも、こういった何かある地域の活動は不測の事態を呼び込むのよ。だから特殊遊撃隊と第1の合同作戦にしたい、というのがこの遠征のあたしの構想なの」

 それを聞いて楓達が少しの間考え込む、HSSとしては何かがありそうだという所までは感じているが、それに迫る決定的な証拠をつかみたいという所だろう。

「状況は分かったわ、それでは特殊遊撃隊は第1の遠征に同行するわ。それで出撃はいつ?作戦期間はどれくらい?同行するメンバーは?」

 矢継ぎ早に質問を重ねる美夏にカイヤが答える。

「決断が早いワネ。同行するのは第1の1番隊。銃持ち1人、魔剣使い2人、攻撃系を得意とする魔法使いが1人、回復系が使える魔法使いが1人の5名チーム、距離が近いけど兵站班のサポートが得られるように手配するわ。遠征の目的は当該地域の来訪者の根拠地となっている場所の特定、できれば壊滅をする事。作戦の発動は1週間後で期間は5日間と予定している、遠征時の授業は端末で受けてネ」

「了解よ。楓、美冬は何かある?」

 そう美夏が尋ねると、楓が挙手をして口を開く。

「特殊遊撃隊だけでも、出発を1日早められないですか?どうも定着している来訪者の襲撃パターンを見ると嫌な感じがするんです」

 そう言いながら楓は、頭の後ろをさすっている。これは楓が嫌な予感を覚えた時の癖だ。

 そして、その予感は当たる事が多い。

「この戦域図を見ると、来訪者は大鷲高校を半包囲しているように見えます、そして別動隊を作れるくらいに来訪者が繁殖していた場合は、半包囲に対応している大鷲高校の防衛隊の補給線を遮断するために出てこれそうなポイントが複数ありますね。攻勢に出る正確な時期は分からないけですが、急いで手当をしないといけないと思います」

「フーム、それは経験からかな?」とカイヤ。

「そうですね」

「とはいえ、それだけでは第1を動かす根拠として弱いワ」

「ですから、俺達が保険として先行するんです、言葉通りになった場合は第1に救援を要請します」

「それならいけるかな、承認を団長に取るのを忘れないデネ」

「了解」

「それで、現地であたし達の動きをカイヤに共有しておくけどいい?」

「ウン」

「最初は第1と現地の防衛隊と一緒に来訪者の迎撃、それと定着している連中の撃滅を行うわ。事態が落ち着いたところで根拠地の探索に入るかしらね、調査後に気になる箇所があったらそこを狙うつもりよ」

「もし特殊遊撃隊が単独行動になった場合の対応策はあるノ?」

「そうねぇ。今朝内示があったんだけど、弟の銃器使用ライセンスが降りたの。C級だからサブマシンガンまで使えるから、ウチの部隊単独でもそれなりに戦えるようになるわよ」

「グレイトッ!だけど、普通のライセンスがE級からじゃないノ?」

「ちょっと弟は銃器使用の経験があってね、詳しくは言わないけど」

「ミステリアスな弟さんなのネ、ちょっと気になるカナ。ま、冗談はいいとして出発までには準備を整えておいて頂戴ネ。整備班、回収班、兵站班に同行が必要だったら声を掛けてね」

 そう言って、カイヤが立ち上がる。

「色々とレクチャーありがと、カイヤ」

 美夏も席を立って、カイヤを出口まで見送る。

「あと、通常の業務と来訪者の迎撃はやる必要があるからお願いネ」

「わかりましたー」

 一緒に見送りに来た美冬が手を振ると、遮音魔法が解除され外部の音が4人の耳に届く。

 それはいつもと一緒の学園のざわめきだったが、危機感を含んだ濃密な会議を終えた3人にはそれが日常へと戻る音と認識されていた。

「さて、色々と準備しないとね。楓はギルドから貸与されたハンドガンは使わないんだっけ?」

「ああ、恐ろしく使い込まれたヤツだから、すぐにジャムるはずだよ。篠塚屋にあとで行って来るから2人は先に帰っていていいけど?」

「ううん、あたし達も挨拶をしたいから一緒に行くわ。美冬もそれでいい?」

「はーい、大丈夫だよー」

 そういつも通りに答えた美冬に、美夏は微笑みを返しながら残りの業務を片付け始めたのだった。

久しぶりに「篠塚屋」が出てきましたので、補足です。

篠塚屋は岩戸市の再開発地域近くに店を構える鍛冶屋です。

銃器から魔剣といった幅広く品物を扱い、腕も確かなお店です。

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