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第76話 遠征への招待

「はあ、なんなのよ…もう」

 そうボヤく美夏を見て、楓も同感だった。

 入学してからすぐに不快な思いをさせられた吉永の再来は、それを思い出させる苦いものと言っていいものだった。

「美夏ねえ、助かった」

「ううん、良く凌いだわね。偉いわ」

「あのー。とりあえずは解決でいいのかしらね。あたし達は要らなかったかな?」

 そう、如月姉弟の会話にもとかが口を挟む。

「いえ、集まっていた生徒の解散をしてもらったので助かりました。タイミングもバッチリでしたので、さすがもとかさんですね」

「えへへ。それほどでもあるよ」

「で、もとかさん。そちらの方は?」と楓がカイヤを見て言う。

「ああ、こちらは第1捜査隊の隊長のカイヤ・ファリエよ。一昨日まで遠征で居なかったんだけど、戻って来ていたの」

「ヨロシク、如月ブラザーズ…?シスターズ…うーん、クランでいいかな」

「あはは、混乱させてすみません。ファリエ隊長、俺達の事は名前で呼んで下さい」

「そうさせてもらうワ。アタシの事もカイヤでいいワ」

「それではカイヤ隊長、この後時間ありますか?」

「アラ、それはお茶のお誘いかナ?」

 そうカイヤが言うと、美夏と美冬からザワッとした気配が上がるが、それを後ろ手で抑える仕草を楓はしながら言葉をつなげる。

「遠征と言う事は、Eゾーン内の学校への支援活動の事ですよね?その話をお聞きしたいのですよ、特にEゾーンの来訪者から得られる魔法道具について」

「へえ、遠征に興味があるなんてHSSでも珍しいわネ。あたしはいいけど、団長直下の部隊でしょ?許可を取らなくていいの?」

 そうカイヤが言うと、その背後から将直の声がする。

「俺の許可だったら問題無い、カイヤは説明を頼む」

 その方角を向くと、将直がマナと歩いて来ていた。HSS団長と副団長が揃って特殊遊撃隊詰所に来た様子を見て、まだ残っていた数人の生徒が驚きの表情を浮かべる。

 その中に、見知った顔を見て楓はため息をつくが今はそれどころではない。

「団長、第3捜査隊の4番隊の件は聞いていますか?」

「何かあった事は知っているが、詳細はまだ聞いていないな。なにしろこっちに向かっていた所だったしな」

「栗原隊長の通信機から、やり取りは中継してもらっていましたけどね。内容は耳が痛いものでした」

 そうマナが銀髪をかき上げて耳に着けていた通信機を見せる、もとかを見るとペロッと舌を少し出して収音性能を高めた通信機を取り出して楓に見せる。

「さすが情報戦の第2ですね。特に団長から補足が無ければ、さっきの件についてはお任せするので言いません。それではファリエ隊長に遠征の件について色々と聞いていいんですね?」

「ああ、まず分からない事は全てクリアにしてくれていい。如月隊長、カイヤからの話を聞いたうえでさっきの会議の話を特殊遊撃隊に共有をしておいてくれ。どう動くかは期日までに聞かせてくれ」

「了解したわ団長。一つだけいい?」

「なんだ?」

「第3との件、ウチの弟が武力を使ったのは事実なんだけど、それに対しての咎めはあるのかしら?」

 瞳をすっと細めて、美夏が将直を見つめる。

「ふむ…。状況からして如月楓は…ああ、言いにくいから特殊遊撃隊の如月姉弟の事は名前呼びでいいか?」

「…ですよね。はい、良いですよ」

「助かる。それで楓君と美冬さんは完全に被害者だ、理不尽な暴力に対して防衛しただけなので問題無い、喧嘩両成敗というやり方を盲目的にする学校が多いが、ウチではそういう事はないからHSSとしては大丈夫だ」

「それを聞いて安心しました」

「じゃ、俺達はこれで本部に帰る。何かあったら相談してくれ」

「皆さん、お騒がせしましたね。それでは」

 そう挨拶をして、HSS団長と副団長は整備棟へと足を向けて去って行った。

「話がぶつ切りになっちゃったけど、弟から話があったようにカイヤさんはお時間あるかしら?」

「うん、今日は非番だしいいわヨ。どこで話す?」

「それじゃ、散らかっていますが詰所でお願いします。飲み物などを買ってからね」

 そう美夏が伝えるともとかとカイヤは了解の返事をする。

「はー疲れたわ。楓、あたしは買い出しに行くけど何か欲しいものある?…どうやらあんたに話がある人がいるから詰所に居て」

「わかった、甘いコーヒー頼む」

 買い出しメモをとった美夏が去っていくと、まだ野次馬としてその場に残っていた梶大雅、小鳥遊ちせ、アリシア・フォッシが楓に話しかけてくる。

「よう、楓。大活躍だったじゃんか」

「大雅…なんで野次馬をやっているんだよ」

「そりゃ、目の前で見世物が起きれば見ないわけないじゃん」

「ちせもアリシアも一緒になっているし」

 そうジト目で楓がちせ達を見ると、ちせは困ったように微笑む。アリシアはそんなちせの後ろに隠れる。

「楓君、この子達は?」

 もとかとカイヤが尋ねてくるので簡単に、大雅達を紹介する。

「へー。HSSとブレイカーに興味があるのね。でも、3人ともHSS入団必須生徒じゃないよね」

 宝翔学園の生徒の一部には、経済的な理由や入学試験免除の代わりにHSSに入る事が必須になっている生徒がいる。

「それはそうですけど、ちょっと事情がありまして。…大雅、アリシア、あの話をここでしていい?」

 そうちせが言うと、2人は頷く。

「HSSに入った場合、所属する部隊を希望出来るんですか?あたし達は楓君と一緒の部隊がいいのだけど。部隊への配置について栗原隊長は知っていますか?」

 そう言い放った言葉に、もとかは少し瞳を見開きカイヤは面白そうに楓とちせ達を見渡していた。

「結構方針は決まっているのね、そういうの好きよ。基本的に入団試験でわかった特性に合わせた部隊に配置されるのが普通ね。特に回復魔法使いはその重要性もあって、どの部隊も取り合いになるからね」

「そうですか…」

 それを聞いて回復魔法使いの素質があるアリシアは、がっくりと肩を落としていた。

「でも、そうね。本人と部隊のメンバーが強く希望する場合はそうはならない事もある、やる気を落としてまで意に沿わない部隊に配属した場合はパフォーマンスが得られないのは実証済みだから入る前に希望を伝える事は重要よ」

「それで第1捜査隊はもとかの所に、遠征の才能があるレイ君を取られちゃったじゃなイ」

 じとっとカイヤがもとかを見つめる。

「あれはしょうがないでしょー?それでも、できるだけそっちに同行させて遠征地点の情報収集と情報戦をしてもらっているからドローにしておいてよ」

「ハイハイ」

「で、話を戻すけどあなた達は、特殊遊撃隊に入りたいという事でいいのかな?それだったら、美夏に希望を出して了承がとれれば第1段階は突破出来る。次に入団試験で、特殊遊撃隊に入るだけの技量を示す事…うーん、これだけやれば希望通りにいくんじゃないかなー」

 もとかは宙を見つめて色々と思い出しながら、間延びをした口調でちせ達に伝える。

 その言葉を聞いて、ちせ達3人の顔が明るくなる。

「やったじゃん、これで問題無さそうじゃないか?」

 大雅が笑顔でちせの肩を叩くと、その強さに顔をしかめてちせが口を開く。

「痛いよ!この馬鹿力!」

「おっとと。すまんすまん」

「ちせちゃん、回復魔法を使おうか?」

 肩をさすっているちせにアリシアが提案するが、ちせは笑って断る。

「うん、君達3人は前衛と後衛のバランスがいいわネ。第1に欲しいくらいだワ」

 そうカイヤが評する。

「美夏がそろそろ戻って来るから、ワタシ達の話の前に美夏に希望を伝えてみたラ?その後の手続きは本部の事務班に聞くといいわヨ」

「わかりました、ありがとうございます…カイヤ隊長?」

「アハハ、自己紹介がまだだったわね。まあ、カイヤでいいわヨ。よろしくね、多分HSSに入る皆さん」

 そう言って、制服のスカートの裾をつまんで礼をする、外見に似合わないその仕草が意外に優雅なのでもとか以外はその様子に目を奪われていた。

「カイヤ隊長、そのスカートの長さでそれをやると下着が見えそうなんですが」

 きっぱりと楓が言うと、それが狙いだったかのようにカイヤが艶然と微笑む。

「それは言わないデー」

「はいはい、純情な後輩をからかうのはそこまで」

「はあ、もういいっす…」

「そうだ、楓。さっきの吉永?だっけ、あの小隊長が言っていた楓が低ランクの魔剣使いって何の事なんだ?」

 そう大雅が言うと、主に美冬の視線がずーんと重くなって大雅を見る。

「あ…あれ、まずった?」

 どうやら地雷を踏んでしまった事に大雅が気が付いて、表情に焦りを浮かべる。

「別に馬鹿にしているわけじゃないから気にしないさ、美冬もそんな目で大雅を見ないでくれ、大雅が泣いちゃうぞ?」

「いや、そこまで俺も弱くはないんだが…」

「楓にい、分かった」

「ま、あのセンパイの言う通り、俺の魔剣使いとしてのランクは低いんだ。それだから高ランクの魔剣は使えないとされているんだよ。また、魔剣を使いつぶすイーターと呼ばれている、それが理由で入手できる魔剣の制限をされていて、入手できるものは大体が低ランクのものが多い」

「それは酷くないか?魔剣の有無で勝敗が決まる戦闘もあるって良く聞くぜ。そんな差別をされていればかなり不利だろう?」

 楓の経験を自分に投影したのだろう、大雅が憤って言う。

「ただ、例外があってね。自分で見つけたものは入手の優先度が高いし魔剣と相性が良ければそのまま持つことも可能だから、それを狙っていくつかの魔剣は所持できている。まあ、あの手この手で奪われる形になる時もあるけど、ブレイカーランクを上げたから前よりはマシだよ」

「でも、それって命の危険が高い状態が続いていたってことでしょ?そんな差別はどうにかならないの?」

「どーにかなっていたらー。楓にいは今も苦労してないよねー」

 そう美冬が眉をひそめてぼやく。

「まあ戦いの時は俺達姉弟で、足りない場所はカバー出来ていたから今のままで良かったんだよ。この学園に入った後の戦闘で手持ちの魔剣や魔道具のストックが減っているから補充したいと思っているんだけどな」

「へえ、そんな事を考えていたのネ。美夏の考えも聞かないとだけど、遠征任務をやってみない?難易度は防衛戦より高いけれど、鹵獲をした魔道具関連は遠征をした人員に優先的に渡されるから横取りされにくいわヨ?」

「ねえ、カイヤ。ちょうど良いからって、第1の任務を特殊遊撃隊に任せたいとか思っていない?」

 カイヤの頬っぺたをつついてもとかが言う。

「何のコトかしらー?」

 視線をわざとらしく明後日に向けながらカイヤがはぐらかす。

「ただいま。なんか話が盛り上がっている感じ?」

 買った物を入れたビニール袋を入れて運んできた美夏が合流する。

 随分とカイヤ達と仲良くなったんだな、と楓は思いながら美夏に今までの事を説明する。

「なるほどね、カイヤの任務については分かったわ、この後話しましょ。大雅君達の方は、本部で聞いてもらった方がいいから行ってもらえるといいかな。ティスさんが居れば一番ね」

 言外にまだHSSの関係者ではない大雅達に、内部の話を出来ないという事を匂わせながら美夏が言う。

「あ、それならあたしが連れて行けば話がスムーズに行くから、そうするわよ」

 それを汲み取って面倒見のいいもとかが言う。

「遠征の件で第2との打ち合わせが必要だったら、カイヤの説明の後にまた設定しましょ。じゃあ、梶君達は付いて来て」

 そう大雅達をHSS本部へと連れて行くもとかを見送って、楓達はカイヤとの会議のため特殊遊撃隊詰所へと入って行った。

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