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第74話 魔剣使いの兄、魔法使いの妹を守る

 美夏が去った後、さすがに寝ているのはマズイと思った楓は、詰所に放置されている魔導鎧を直して使えないか調べていた、魔剣の声が聞こえる楓だがそれ以外のものについてはあまり感じ取れない為、魔導鎧のどこが壊れているのかを調べる方法と言えば、様々な測定器を使っての地道な作業になる。

 しばらくそれを見ていた美冬は、楓と自分のために買い出しに行っている。

 単独行動だが、制服のポケットに懐中時計型MLPと護身用の大型ナイフをホルスターに入れて持っていたので、滅多な事にはならないだろう。

 そう魔導鎧の調査をしていた楓の耳に、美冬が誰かと言い争っている声が届く。

 すぐに工具を放り出し、闇切丸を掴んで詰所から出ると美冬がHSSの汎用武装に身を固めた5人の集団に包囲されかけていたところだった。

 その一人は見覚えがある…と言うより不快な記憶を思い出す吉永という高2の男子生徒。

「ウチの美冬にまた何の用ですか?第3の吉永センパイ?」

 美冬と吉永の間に割り込んで、美冬を守る位置に立って吉永に詰問する、その声は既に切り付ける刃のような鋭さを持っていた。

「それはすまなかったな、美冬さんに急ぎの用があってね」悪びれずに吉永が嘯く。

「それにしてはマトモな様子には見えないですね。そう言えば今日は引きつれている人が居るんですね。4番隊の隊員ですか?」

 少し距離を取りながら不快感を込めた楓の言葉に、背後に控える完全武装の隊員で気が大きくなっているのか尊大な態度で吉永は答える。

「ああ、俺が率いるHSS随一の来訪者撃破数を誇る第4番隊だよ」

「4番隊はフル装備での待機命令は出ていないですよね。非番なのに何故そんな恰好を隊員に差せているんですか?」

「我々4番隊のモットーは、常在戦場だ。いつでも出撃できる状態にして、いち早く戦場に駆け付ける事で実績を上げて来た」

「その代わり、4番隊の損耗率もHSS随一ですね。平均の損耗率3割は部隊として壊滅状態を続けていますね」

「ははっ。それならば解決策がある、その話で来させてもらったんだ。単刀直入に言おう我が4番隊の損耗率を減らすために、特殊遊撃隊から有能な回復魔法使いの如月美冬さんを引き抜きたい、代替の回復魔法使いはウチ専属の回復魔法使いを出そう。美冬さんの回復能力は、3人しかいない特殊遊撃隊には過剰だろう?人員交換と行こうじゃないか」

「そちらの部隊には、今までに5名の回復魔法使いを入れ替えていますよね。それも離脱した人は魔法の過剰使用で長期の魔法使用を禁じられてしまったのは知っていますよ」

「何故それを知っているんだ?だが来訪者に勝つには我が隊の戦力を維持する事がHSSを支えていると自負している。そろそろ4番隊の回復魔法使いのメリザンドは休養が必要だ、消耗した魔力にあった規模が小さい部隊に行けば人員の有効活用と言えるだろう?」

 自分の考えに自信を持っているのだろう、滔々と語る吉永。

その言葉に、背後に居たエルフの女子隊員が身を強張らせる、どうやら彼女がメリザンドらしい。

すると楓の袖を美冬が引っ張る、そっちを振り向くと美冬も瞳に氷炎をちらつかせていた。

 自分を道具扱いしようとする吉永の精神性に恐れを感じていると見たが、どうやらそうではないらしい。

美冬は自分と同じ魔法使いがかつての魔導紛争以前の魔法使いのように道具として使われている事を許せないと怒を強く感じているようだ。

 それを見て楓は目の前の吉永に対して、HSSの序列を無視して徹底的にやる事に決めた。

「センパイ、隊員の人事権は隊長にあります。この場合は特殊遊撃隊の如月隊長に言うのが筋ですね。それに、今は隊長クラスの会議中ですね。小隊長のセンパイが人員について交渉する事は出来ないんじゃないんですか?」

「それはそうだが、事後承諾というやり方だ」

「それは越権行為ですね、話にならないのですぐに出直してもらえます?」

「はぁ!?俺達の戦力拡充の必要性は分かっただろう?だからメリザンドをやるから、美冬さんを我が隊に入れるべきだ」

「自分の家族を人を道具扱いする部隊に入れるとでも?俺に言わせればそんな部隊は百害あって一利なしですね」

 きっぱりと言い切ると、吉永の顔が紅潮する。

「美冬、如月隊長に連絡をしてくれ」

「うん、あたしもそろそろ限界だからそうするねー」

 いつもは控えめな美冬だが、ここまで意思を見せる事は相当に怒っている。

「話はまだ済んでいないだろう。俺に逆らうとどうなるかわからないようだな」

「そんな事、知っているわけないじゃないですか。馬鹿なんですか?」

 正直、全く知らない事で威張られても困るので、会話を止めるためにあえて強い言葉を返す。

「おい」

 眼まで怒りで真っ赤にしたそう吉永が背後に声を掛けると、2人の隊員が携帯端末を取り出した美冬を止めようと距離を詰めてくる。

「何をしている、全員でかかれっ!」

 吉永が咆哮を上げると、びくっと体を震わせて残りの2人が動き始める。

「アンタは来ないのか?」

 後ろに飛びのいて距離を取る楓、美冬は息が合った動きで楓に追随していた。

「俺が出るまでも無い」

「学校内で馬鹿な事をしやがって、HSS規則と校則に反している自覚はあるんだろうな」

 自分につかみかかって来た男子隊員の腕を捌いて最後通牒を行う。

「ふん、違反などのマイナスは功績によって相殺する、これまでもやって来た事だ。ほとんどのHSS隊員は我が部隊に借りがある、何も言わせないさ」

「アホか…俺の家族に手を出したことを後悔しろ」

 そう言った瞬間、楓の意識が完全に戦闘モードに切り替わる。

 同時に拳を振るって来た2人の隊員のパンチを避け、右の掌底でバランスを崩した左側の隊員の顎を拳で突き上げる。

 無言で崩れ落ちた隊員をそのままに、警棒を抜いて上段から振り下ろして来たそれをかわして右肘をボディーアーマーの継ぎ目に撃ち込む。

「がふっ」

 脇腹を強打してたまらず膝をついた隊員に追撃はせず、遅れて接近する2人の隊員に向かって怒号を飛ばす。

「こんな小隊長に付き合うのが、お前らのやりたい事か!?」

 ビクッと止まった2人へ言葉を続ける。

「仲間を襲うためにここに入ったわけじゃないだろう?目を覚ませ!」

 剣術の気合声の要領で発した言葉に、今度こそ動きを止める4番隊の隊員。

「お前ら!命令を聞けっ!さもないと…」

「戦闘中に“敵”から意識を外していいのか?」

 その声に反射的に吉永はパンチを繰り出す。

「ふっ!」

 楓はパンチを弾くわけでもなく、そのまま掴む。

「力で勝てると思うなっ」

 吉永は腕を引こうとするが手首に激痛が走り動きが停止、完全に関節が決められているのでそのまま腕を引かれて楓と肉薄する態勢にされてしまう。

 そして吉永は激痛に耐えて後ろに飛びのくかどうするか躊躇をする、その隙を見のがさず楓がドンという地面を震わせるほどの踏み込みを行う。

「はぁっ!」

 左の拳を吉永のプレートキャリアの胸に押し付けた瞬間、吉永の全身に激しい振動が走り、脳が振動に耐え切れずに意識がシャットダウンする。

「は…ぐぁ…」

 ドサッと地面に倒れ込んだ吉永のそれ以上の抵抗が無い様子を確認して視線を4番隊の隊員達へ向ける。

「アンタたちの隊長は倒したけど、これ以上戦うか?」

「いいえ、止めておきます。…ごめんなさい」

すぐに答えたのはメリザンドだった。

ちょっと入院していました。

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