66 放課後の戦後処理(おかたづけ)1
授業を終えた美冬は、特殊遊撃室詰所に一番早く着いていた。
鍵を開けて、室内に入ってすぐに窓を開けて空気の入れ替えをする。長らく物置と使われていたため、まだジメッとした湿度に美冬には不快を覚えていた。
「除湿機を買うか、除湿ができる魔法を覚えるかどうするかなー」
自分の魔法特性で、そういった使えるかわからないが魔法を網羅した呪文の超巨大データベースの世界魔法大全を調べてみる価値はあるかもしれない。
回復魔法、精霊魔法だけではなく支援系統の魔法を覚える事は、これからの活動にも有効だしと心の中で思いつつ特殊遊撃室用のPCを起動する。
このPCの使用については、室長の美夏からは制限されていないので本部からのメールも【室長限定】と書かれたもの以外は見ることが出来る。
この部屋に着いた順にPCを起動する事は、姉弟の中で決めているので指示待ちの状態が起きないように先にメールを始めとした情報を飲み込む事を優先した結果の運用だ。
「ええと、今回の作戦の報告書の提出に報酬の連絡、ギルドも情報を聞きたがっているからそのすり合わせをしたい…とね」
そうメールを読んでいると、美夏が到着して話しかけて来る。
「美冬、鍵開けお疲れ様。何か指示が来てる?」
それに対して、メール内容をかいつまんで説明する美夏、そこに楓が合流して3人で対処を考える。
「まあ、報告書は早く作らないとね。報酬の内容は総額で70万円、今回は魔石も手に入らなかったから赤字ね…うーん、交渉するとアレがバレそうだから呑んでおくかな?2人はどう?」
「俺は賛成。ただ魔石や代えの武器を手に入れるために、何らかの収入手段を探っておきたいな」
「あたしも賛成、それ以外も楓にいと一緒」
「そうね、3日の休養指示は出ているから動けないけどその間は装備の修理を進めましょ。確か整備部と顔合わせをしてくれって指示があったから、整備実習棟まで行くかな」
自分達の行動の方向性をまとめに入る美夏。
「動き方はわかったけど、出撃も禁止なんだっけ?」
「自衛やどうしようもない事態以外はそうよ、理由は体力、魔力の回復に加えてPTSDの発症を防ぐという事よ。今回はあたし達が魔力枯渇気味だからありがたいわね」
「地元とはやっぱり違うな…」
そういった休養の態勢が無かった地元と比べて、ここの運営は上手く行っているのだろうと楓は思う。
「そうね、それじゃ作業に入りましょ。楓は装備の破損状態の見積もりをお願い、業者に出さないといけなさそうだったら報告をして。美冬はあたしと報告書の作成、戦闘時の移動情報の落とし込みをお願いね」
そう3人が作業に入って1時間ほどが経過した後に、特殊遊撃室詰所のドアがノックされる。
美冬がドアを開けると楓のクラスメイトの小鳥遊ちせ、アリシア・フォッシの2人が立っていた。
「あ、小鳥遊さんアリシアさん。こんにちはー」
「こんにちは、美冬さん」
育ちの良い仕草で挨拶をするちせ、一方アリシアはペコっとお辞儀をする。
「それで、どんなご用ですかー?」
「えっとね、前にここに魔導鎧があるって聞いてね。ちょっと見せて欲しいと思って来たの、今は大丈夫かしら?」
「えっと、美夏ねえ。大丈夫なのかな」
言外に、本部に無許可で部外者に中を見せていいのか?と示している事を悟った美夏。
「ちょっと本部に聞いてみるから、待っていてもらえるかしら?」
「わかりました。急にすみません」
こう言った場合「そんな事すら、自分で判断出来ないのか」という輩が往々にして居るが、ちせもアリシアも無理を通す幼稚な精神性とは無縁のようだ。
きちんと、急な訪問になった事とそれによって相手に手間をかけさせた事を理解している。
「ううん、大丈夫よ…。本部、こちら特殊遊撃室詰所です。ちょっと相談したい事が…」
そう内線で話をしている様子を見ながら、楓は2人に話しかける。
「それにしても、急にどうしたんだ?」
「うん、うちの両親の会社が色々やっているのは知ってるっけ?」とちせ。
「いや、前に繊維の会社から色々と手を広げているって少し聞いたくらいだから詳しくは知らないんだ。どんな会社だっけ?」
「それで合っているわよ。それでね、親の干渉が強いって前に言ったけど覚えている?」
「ああ」
数日前の会話を思い出して楓は頷く。
「まあ、家庭の中で自分の立ち位置を考えていたら、何か自立できる方法が欲しいのよ。そこで、魔法の装備品について知っておきたいから、ちょ~~~どいい所に如月君がHSSに居て装備関連の事を教えてくれたから、今回会いに来たのよ」
「自立、ですか?」
美冬がくいっと小首を傾げて聞く。
「そう、このままだと勝手に婚約者を決められて、政略結婚の道具になっちゃうのよね。そんなのは嫌だからウチの事業の中で実績を上げて立場を強化したいのよ。生臭い話だけどね」
「あー…理解したよ。親と言えどもその言いなりになりたくないっていうのは、なんかわかるよ。それでフォッシさんは?」
「私は、ちせに引っ張られて来た…です」
小さい体をさらに小さく縮めた風でちせが正直に答える。
「ああ、納得したよ。興味あればだけど、フォッシさんもHSSの後方支援の人達と会うのもいいんじゃないかな」
「そうそう、ブレイカーにも興味があるんでしょ?HSSを見ておいても良いと思うわ」
オーバーリアクションで、ちせが前のめりにアリシアに言う。
「ブレイカーの説明を聞いたけど、生活時間の多くをブレイカー活動にとられそうでしょ?だから、似ている組織のHSSを見るのもどうかな、と思ったのよ」
「ちせさん、そのセリフはついさっき考え付いたんじゃないか?」
「あー如月君、そういう疑いの目で見るのはいけないなー」
「楓にい、楽しそうね」
蚊帳の外に居た美冬がジトッとした感じで話の輪に入って来る、黙々と作業をしていたが寂しくなったらしい。
しっかりと自分の作業を終わらせたようで、リストのデータがアップロードされている。
「あ、美冬さんごめんね」
芝居がかった謝罪のポーズを見せるちせ、その様子に美冬は毒気を抜かれたようにぼそっと答える。
「いえ、いいんです。はあ…」
そんな美冬の様子を見て、楓ははたと気が付いた表情で美夏、美冬を見て言う。
「そう言えば、特殊遊撃室は全員如月なんだよな。判別しにくいから、下の名前で呼んでもらうようにするか?」
「あ、さんせーい」と美冬。
「わたしは異論無いわ」と内線の受話器を置いてから頷く美夏。
「あ、それじゃあ。あたしはちせでいいわ」
「わ、私はアリシアでいいですっ」
なし崩し的にそれぞれの呼び方が決定してしまうが、お互いの距離を縮めるのであればいい考えだろう。
「じゃあ、これからはそう呼んでもらいましょ。本部の許可も出たから整備班と解体班に会いに行くけど、ちせさんとアリシアさんも来る?」
「ええ、是非!」前のめりが継続しているちせ。
「あ、はい。行きます」さっきから流されまくっているアリシア。
「それじゃ、決まりね。楓はみんなの先導してあたしはすぐに追いつくから」
詰所の鍵をひらひらと見せながら美夏が言う、鍵閉めを自分がするというサインだ。
そう言った美夏を置いた形になったが、楓達は特殊遊撃室詰所を後にしたのだった。
宝翔学園のマップを作りましたけど、アップできないでござる




