表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/95

63 それぞれの夜3・HSS本部(午後9時)

 聖典騎士団の拠点への強制捜査をしたその日の夜、HSS団長の神代将直は各種報告を分析していた。

その中で注目しているものは、やはりもとかが瀕死の重傷を負った事だった。

 致命傷レベルの傷は、回復魔法のエラーで体に不調が起きる場合がある、その為岩戸総合病院に今夜は入院している。

 病院からの一報では、身体的な問題は無いため精神的な不調を治せば大丈夫だ、とあった。

 再開発地域という不測の自体が起きやすい場所とはいえ、有力な武装集団を受け入れる土壌があった事は、今までにある程度安定をしていた状況に浸っていた衝撃を宝翔学園上層部へと与えていた。

 おもむろに将直は内線をかける、その先は校長室だった。

 宝翔学園の校長になる事が決まった後、学園からかなり近い場所に居を構えている御手洗校長は、深夜まで学園にいる時がある。

「御手洗校長、神代です。本日の件について、近日中に理事会の開催をHSSからお願いしたいのですが。よろしいですか?」

「ああ、神代君。今日は大変だったね」

「いえ、それはまず栗原にその言葉をかけて下さい」

 脳裏に好々爺然とした初老の御手洗の顔を思い浮かべながら、将直は自分の意思を伝える。

「もちろんだよ。理事会については早急に開くようにしよう。新学期に入ってすぐに状況が動いたな」

「ええ、ですが私が言っていたように、再開発地域の状況はいつ爆発しても仕方のない状況でした。座視をしていた方の責任はともかく、HSSとして事態は急を有します。以前お伝えをしていた作戦も理事会の議題に乗せたいのですが?」

「その件も了解した。だが、大掛かりな準備も必要だろう?」

「それも含めて、実行までに時間が必要です。まず動く承認を頂きたいです」

「分かった。しかし君は本当に高校生なのかね」

「…先生のご存知の通り、高校生ですよ」

「そうだったな。現場の君達が動いてくれたので、あとは大人の動く番だ。まかせてくれ」

「はい、お願いします」

 そう内線を切った将直は、机の上に乱雑に散らばった報告書を眺めつつこれからの事を脳裏に浮かべる。

 ドアがノックされ、ティスとマナの2人が入って来る。

「団長、もう帰りましょう?ティスさんを送っていくから、一緒に来て欲しいんだけど?」

「ああ、分かった。臨戦態勢は解除したんだが、この性分だからな」

「もう、今からワーカーホリックにならないで下さい」

 ティスが手早く、机の上の報告書を纏めながら言う、ちゃんと時系列に纏めているのはさすがというところだ。

「さ、団長と副団長。帰りますよ」

 学内ではティスは、2人をHSSの序列で呼んでいる。各自のスタンスによって違うが、学外になると年齢に合わせた付き合い方が出来るティスは、将直とマナにとって付き合いやすい相手と言える。

 そのティスの自宅は、岩戸市駅の南口にある一軒家だ。

 将直とマナの帰る神代家は北口の方にあるのだが、この時間なのでそこまで送る事は将直とマナにとっては苦では無い。

 学校乗り入れのバスの時間は終わっているので、正門の守衛に挨拶をした後に駅前に続く大通りの歩道を歩んでいく3人の姿が深夜でも喧噪の終わらない中心街の中に溶け込んでいく。

「そう言えば、カイヤさんが遠征の予定を早めて、明後日には戻って来るそうですよ」

「そうか。無理しないと良いが」

「カイヤさん、もとかさんと仲が良いですから矢も楯もたまらずって言う気持ちだと思いますよ?」

 カイヤ・ファリエは貴族の血筋のドイツからの留学生だが、HSSの活動にどっぷりとハマってしまい、主に学外活動をメインにする第1捜査室に所属をしており、遠征と呼ばれる他校への支援で学校を空ける時がある。

 学外であれば、戦闘力のある第3捜査室なのでは?という疑問があるが、組織のバランス的なものとHSSは防衛組織という事から、第3捜査室は学園、エルフ居住区の防衛にリソースを割いている。

 この為、HSS設立をしてから数年後に近隣の学校に向けての援軍が出来る人員を揃えたものが第1捜査室となる。

「それなら、作戦指揮はカイヤに任せられるな。俺はどちらかと言うと、前面で戦うのが性に合っている」

「団長、それでも団長の指揮が良いって言う子もいるので、全部カイヤさんに任せるのはやめて下さいね」

「ああ、分かったよ」

 話をしながら駅を抜けて、住宅地に入ると周囲の喧噪は遠くになり3人の足音と話声だけが辺りに響く。

「今回の件、後は片付けだけになったと思います。明日からまた処理の協力をお願いしますね」

「ああ、任された」

「はい、団長が逃げそうになったら捕まえておきますから」とマナが請け負う。

「ふふ。それじゃ、送ってもらってありがとね」

 そう玄関を開けて自宅に入ったティスを見送って、将直とマナは踵を返す。

「何か駅で買っていく?」とマナ。

「そうだな、いくつか文房具を見たいが・・・。次の休みにしよう」

「わかったわ」

「マナ」

「うん?」

静寂(サイレンス)を頼む」

「はい。万能なるエーテルへアクセス。我らの音を消したまえ」

 そうマナが呪文を唱えると、マナを中心にして半径3m以内の対象(この場合は自分達)の声が外側に漏れないようになる。

「明日以降の動きについてだが。今回の聖典騎士団の件の一旦の区切りをつける予定だ、マナの意見はを聞かせてくれ」

 そう言いながら、マナの手を握る将直、それに応えてマナもそうする。

「それが良いと思うよ。ギルド、警察の情報をもらってからの判断になるけど彼らには打撃を与えたでしょうし、現在の緊急対応を縮小して通常の態勢にするのはいいと思う」

 手をつなぎながらマナは自分の考えを口にする。

「なら決まりだな」

「各捜査室への褒賞、被害のあった場合の補償もできるだけする事も進めましょ」

「そうだな、朝一で報告書の提出指示を出そう。いつもながら、戦いっていうのは手間がかかるな」

 顎に手を当てて、将直がぼやく。これはマナの前でしか見せない姿でもある。

「戦闘無しの条件で、回収部隊の創設も考えます?」

「そうだな、実績に応じて授業のカリキュラム変更も理事会も考えるだろう。今回の連中の浸透は各所に衝撃を与えていると思う、ギルド、警察、軍も馬鹿じゃないから何らかの動きはあるはず…俺達はその動きに負けるわけにはいけない」

「そうね、来訪者が来る世界があるとしたら、そこを狙いうちにできれば先制攻撃も出来るのにね」

「俺達はいわばカウンターテロ組織である、受け身になりがちだがまずこの地球で対処できる連中に対しては先制できるようにしよう。来訪者の来る世界とのつながりが取れたとすれば、その世界への遠征となるので俺達にとっては負担が増すだけだ、今の態勢でいいと思う」

「そう…」

「マナがHSS団員の被害に心を痛めているのはわかるさ」

 そう話していると、神代家に近づいて行く見慣れた風景に2人の緊張は解けてゆく。

 非公式だが、HSSトップのこれからの方針についての話し合いは終わった、あとは普通の高校生の少年と中学生の少女に戻る時間だろう。

「数日ぶりの家ね、お父さん達は首を長くしているんじゃない?」

「からかうなよ、さっきから携帯にメッセージが入りまくりなんだ」

 将直の両親は、一人っ子の将直に若干過保護の傾向があり、将直はそれをあまり好いていない。

 しかし、血のつながりのないマナを将直が連れて来た時に事情を詮索せずすぐに戸籍を取り、自分達の養子にした事には感謝をしている。

 当時(今もだが)子供だった自分にはできなかった事をしてくれた両親だ。

 その愛情はマナにも注がれていて、この家に来た時に周囲全てを拒否し、無気力な状態だったマナもそれに心を解いて今の控えめだが自分を出すときは出せる性格の少女に育った。

「ただいま、父さん母さん」

「ただいまです」

 その家に、静寂の魔法を解除した将直とマナは声をそろえて帰宅を告げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ