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60 調査、片付けと将直がマナを怒らせた

 HSS本部に詰めていた、団長の神代将直と副団長の塔依代マナは、楓の通信内容をスピーカーで聞き終わると同時に行動を開始した。

 まずは、矢継ぎ早に支持を出す。

「ティス、現場の確保、調査と第2の1番隊と特殊遊撃室の支援は俺達2人でやる。エルフ居住区へ展開している第3の東達には現状で待機。ギルドと警察へは俺達が出る事を15分後に連絡、もし自衛軍から連絡があったら俺の通信機に回してくれ。マナ、出るぞ」

 その様子を見ていたマナは、引き締まった表情で防御系の魔法を帯びたローブと、愛用の杖を握って立ち上がる。

「分かったわ。スルーシはここの置いておくけどいい?」

「ああ。今は眠そうだしな」

 そう将直の視線を受けたマナの使い魔である黒猫のスルーシは、大きくあくびをする。

「もう、緊急事態なのに」

 そう呟いて、マナは将直にもう一つ問いかける。

「移動はどうする?」

「飛行魔法で行く。俺の魔導鎧とマナの飛行魔法を使うから、屋上カタパルトを使おう」

「了解」

 そう2人は本部を出て、屋上への階段を駆け上がる。

 宝翔学園の校舎は、いびつな形をした6角形をしている。広い廊下の形を基準にして、その辺や角の位置に校舎が付いている作りになっている。

 これは学園を作った初代理事が、城郭マニアだったのでいわゆる星形を目指した結果らしい。

その中の短辺を南向きにした、第2校舎の屋上には他のいくつかの校舎と同様に飛行魔法の補助にする魔法を動力にする人用のカタパルトが設置されている。

「カタパルトは、あたしが動かすから将直が先に行って」

 そう言いながら、マナは短い詠唱をすると杖の先に生じた魔力の渦をカタパルトの動力に流し込む。

 目の前に情報魔法で表示したウィンドウに、カタパルトを制御する魔法的なOSの情報が表示されて、自分と将直の重量が2回分のカタパルト使用に耐えられることが分かる。

「将直、カウント3で行きます。そちらの飛行魔法の準備はどう?」

「ああ、もう発動出来るから射出を頼む」

「はい、ツー、ワン、ゼロ!」

 カタパルトが起動し、将直が射出されていく。もし飛行魔法が失敗している可能性も考えて様子を見守っていたが、ちゃんと飛行をしているのを確認して同じように自分を射出する。

 通常は、自身の魔力消耗を避けるためにカタパルト要員がいるが、今は急ぐのでマナが代理をした形になっている。

 空中を飛翔する将直の姿を目に捉えて、速度を上げるとその横に並ぶ。

「ねえ!警察とギルドには15分遅れの情報共有だけど、15分の余裕だけでいいの!?」

 高速で飛びながら、マナは本部では言わなかった問いかけをする。

「ああ、今の状況では現場に駆け付けるには時間がかかるだろうしな。ウチも第2の室長の重傷の事態が起きたんだ、ギルドも警察も文句は言えないはずだよ」

「呆れた、他の拠点の処理に時間がかかる事を見越しているのね」

「そこはまぁ、先に現場を荒らされるわけにはいかないからな。特殊遊撃室からの情報も気になる、新型の敵の痕跡を今は先行をして調査をしたい。それに、ギルドも警察も同じような事やっているさ」

「もう…。無駄な喧嘩はしないで下さいね」

「それは分かってるさ、出せる情報は出すから借りを作っておくさ。しかし、あのもとかが重傷を負うレベルの敵か…」

「ええ、深刻な状況だと思います」

 そう話していると、目的の敵拠点が見えてくる。屋根が破壊された状態になっているのでわかりやすい。

 地上からの攻撃を警戒して、1度そこを飛び越えたうえで急旋回をかけ、その穴から建物内に突入する。

 ぎゅっと内臓が圧迫されて、気が遠くなるがギリギリのところで飛行魔法を制御してブラックアウトを防ぐ。

 そうして、明るさを取り戻しつつある視界の中に如月弟姉妹を捉える。

もとかは、彼らの傍にある台の上に楓の上着を掛けて横たえられている、胸が上下しているところをみると生存している事は確かのようだ。

 それに安堵を覚えつつ、将直は口を開く。

「特殊遊撃室、今回はお疲れ様だったな。疲れているところ悪いが、状況を教えてくれ」

 魔導鎧のヘルメットのバイザーを上げて、将直が銀髪を白髪になった美夏に話しかける。

「ええ、分かりました。ふう…」

 ため息をついて立ち上がる美夏。

「ああ、座ったままでいい」

「そうですか?それじゃ、言葉に甘えさせてもらうわ」

「美夏さん、美冬さん。その髪は?」

その前にマナが口を挟む。

「うん、もとかさんを回復させるためにちょっと無茶をしただけよ。今は魔力枯渇状態になっちゃったから、疲労が激しいの」

「それは大変じゃないですか!まず、このポーションを飲んで下さい!」

 ややしかりつけるような表情で、マナは美夏と美冬に自分のベストから取り出した特製のポーションを渡す。

「これ…かなり貴重な奴じゃ?」

 美冬が瓶のラベルと入った液体から感じられる魔力を見て驚いた表情をする。

 ポーションと一口に言っても、品質には差があり値段もそれに伴って増減する事が多い。今回、マナが差し出したものはHSSの副団長のマナにふさわしい品質のものだった。

「そんな事はいいですからっ!お二人からは魔力がほとんど感じられません。このままでは危険です、早く飲んで下さい!!」

 その剣幕に負けた美夏と美冬は、蓋を開けて飲み込んでいく。

「うえ、にっが…」

 あまりの苦さに美冬が渋面になるが、体内の魔力が少しずつ賦活しつつあるのを感じて、一息つく。

「マナ、そろそろいいか?」

「ええ、良いですけど。団長も相手の状態を見てから事情を聴いてくださいね」

 知り合ってから数日だが、楚々とした印象のマナが血相を変えて怒っている様子はなかなかに迫力があった。

「すまない、悪かった」

 素直に謝る様子(手も合わせていた)の将直の姿を見て、自分もすまない気持ちになった美夏はおずおずと口を出す。

「えっと、やせ我慢していた私達も悪かったから、副団長もそれくらいにして…」

「あ、そうでしたね。すみません、本当に大丈夫ですか?」

「ええ、魔力は戻りつつあるのでお話くらいなら大丈夫です」

「分かりました、よろしくお願いします」

 そうマナに促されて、美夏はもとかの蘇生を巧妙に隠しながらここで起きたことを報告する。

「旅団の異端制裁官と司祭か、大物登場という感じだな」

 顎に手を当てて将直が言う。

「ええ、それらがこの街にまで食い込んで来た事は重視するべき事態ですね。もし、エルフ居住区を襲撃されていたらどうなっていたか」

 そう言って、自分の杖型MLPを突っつきながらため息をついたマナ、その視線の先には下半身だけ残して行ったザイツェフの下半身が断面を晒しながら転がっている。

「それで、水月瑠華の射撃で司祭は破壊か…。まず俺達がその現場を調べるから、特殊遊撃室はここの確保を頼む。もしギルドや警察が来たらこっちの優先権を主張して捜査を止めて問題ない。また1番隊も応援に回す」

「特殊遊撃室了解。発見したものは、手元に確保ですか?」

「ああ、手持ちのバッグにできればビニール袋に入れて保管をしてくれ、ギルドと警察がゴネたら現物の写真を見せて後で共有すると言っていけばいい。俺の名前を出しても構わん」

「わかりました、調査はお気をつけて」

 そう美夏が言うと、将直達は部屋の奥の扉を開けて出て行くのを見送って美夏達は作業を始めたのだった。



「こちら団長、水月レナ応答してくれ」

 外に出た所で、将直は通信機の周波数をレナの通信機に合わせて連絡をする。

『こちらレナです。感度良好、何か指示ありますか?』

「ああ、瑠華が射撃をして敵に止めを刺したと聞いたが、その場所をナビしてくれ」

『正確な位置は目視していませんが、位置はそこから約150メートル、道路を3時方向に行った箇所と思われます』

「分かった、俺達が向かうから索敵を頼む。そっちで狙えない場合は俺達で対処するから、逃げる奴がいたら狙ってくれ。団長より以上」

『了解、お気をつけて』

 通信を切り、マナを促して駆け足でレナの行った位置へ向かう、すぐに着いたそこには旅団の司祭の遺骸と金属の残骸が転がっていた。

 対物ライフルで撃たれたそれらは、原型をとどめているものは少ない。

「マナ、これらに何らかの魔法的な追跡措置やこちらの情報を収集しているものがあるかを確認してくれ」

「分かったわ」

 そう言って、マナはいくつかの感知魔法を展開し探査を開始する。

「…少なくとも、この付近には無さそうですね」

「サンキュ。あとは衛星を使っているかだが…」

 少し雲が流れている上空を睨んで、その先に展開されている民間の地形観測衛星(実のところ偵察衛星)への懸念を口に出す。

「この周囲に、光軸乱射(ライトカモフラージュ)を使うので30分はごまかせるから、それでいい?」

「それでOKだから頼む」

 それを聞いてマナが光軸乱射と言われる、周囲の空間の光の屈折率をランダムに変える魔法を使うと空が歪み魔法が成功した事を将直は知る。

「それじゃ、調べるか」

「はい」

 遺骸や残骸のうち、原型のあるものを中心に調べてそれを保存用のジッパー付きのビニール袋に入れて行く。

 その中の、金属で出来た部品を見た将直はナイフを取り出して突いてみるが、目立った傷が付かないのを見て表情を少し険しくする。

「これが如月の言っていた敵の足?部分になるのかな。通常の鋼ではほとんど効果が無さそうだな…。これに有効なのは魔剣か魔法だな、もちろん物理の場合はこれを上回るダメージを与えれば大丈夫そうだが、ウチの装備では限られるだろうな」

「この敵に対抗する事だけを考えればね。次期の配備計画を見直す?」

「今から全て見直しは厳しいな、変更が出来るところの絞り込みと配備先の選定をする必要はありそうだ」

 一度決まったものを変更する事は、HSSにおいてもかなりコストがかかる部類の作業になる。

 だが、それを怠ったために出る被害の可能性を秤にかけると後者が圧倒的に重い。

「色々と動かすには、生徒会と理事会を説得する材料が必要だな。ここの調査も柊先生にお願いをしよう。今日の授業が終わったらギルドと共同調査という事でお願いすれば大丈夫なはずだ」

「そうね、でも回収したその金属を見せて現場の様子を聞いたら真っ先にここに飛んできそうだけどね」

 ある意味、歴史に関して執着気味の柊の性格を知っているマナは微笑みながらそう答える。

「うん?」

 怪訝な声を上げた将直の視線の先を見たマナが首を傾げる。

「どうしたの?」

「ああ、微かにこの路地に向かった足跡があるんだ」

「どこ?あたしはわからないけど」

 マナよりフィールドワークに長けた将直の言う事なら間違いが無いだろう、と思いながら聞く。

「微かだが、多分新しい…。しかし追跡は厳しそうだな、瑠華の射撃で起きた衝撃波でここら辺の粉塵やゴミが舞い上がって、痕跡が覆いつくされている」

 地面にほとんど顔を付けた態勢で、路地の奥を見る将直。

「レナさんに、不審な人物が居たかを確認しますね」

 そう将直の返事を聞かずにマナは通信機でレナに連絡をする、すぐに通信機を切って将直に向き直る。

「レナさんは、誰も見てないみたい。射撃によって生じた土埃などでほぼ観測が出来なかったとも言っていたわ」

「そうか。マナ、この足跡から追跡系の魔法でなんとか追跡できないか?」

「うーん…。それがね、追跡に必要な情報が足りていないのよ」

「マジか?」

「そう、隠蔽されたのかわからないんだけど。この人物と仮に言うけど、その人を関連付ける情報そのものが魔法的に見て無理だから、あたしの追跡魔法が効果を発揮できない」

「ふむ…。この情報だけは記録をしておこう。不確定な情報だからウチだけの秘匿情報として扱う。もしギルドがこれを発見したら、その時は共同捜査を持ちかけよう」

若干、黒い事を言う将直だがグレーな領域が生じる事には慣れている。

「了解、団長。それでこれからどうする?」

「ギルドが来るまでここの現場保存と臨時でHSSの指揮管制を行う。ギルドと引継ぎ次第学校に戻ろう」

「そうね、ティスさんにはこちらから連絡するわ。将直は周辺警戒をお願いね」

 騒ぎが終わったと見て、この地区にたむろしている半グレや犯罪組織、その他のいわくつきの連中の視線が自分達に集まって来ているのを2人は感じていた。

 無駄に仕掛けて来る事は無いと思いたいが、HSSのトップを潰す事を目的とする連中もいるだろう。

「ああ、頼まれた」

 そんな連中に見せつけるように、愛刀の屠龍を引き抜き、左手は魔導鎧に付けている大型拳銃に手を掛けてそれぞれの視線を睨みつける。

 すぅっとそれら視線が順々に消えていくのを見つつ、将直は警戒を続けていた。

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