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59 【幕間】黒い剣士

 自分へ射撃が命中した瞬間、ブツッと意識が消失しつつあるのを感じたザイツェフは死を覚悟して、自分の信じる神へと祈りを捧げていた。

 聖典に描いてあった御使いが自分を、その(かいな)に抱かれる様子を幻視した時、消えかかっていた意識が戻り自分が再開発地域の路地に佇んでいる事を知る。

「これは・・・回復したのか?」

 自分を見下ろすと、下半身は失っていたが射撃を食らう少し前の状態に戻っているようだ。

「は、ははは。我が神はその信徒を見捨てなかったのだ!」

 胸中を狂おしい程の喜悦が満たす、抑えきれない全能感に支配されたザイツェフは、天を仰ぎその先にいるはずの神へと感謝をする。

「こうしては居られない、早くこの場を離れなくては」

 我に返ったザイツェフは、機械の脚をせわしなく動かして再開発地域の裏路地を進んで行く、とその眼前に人影が立って居るのに気が付いた。

 その人物は、左手に懐中時計を持ち、全身が黒ずくめの服を着ていた。

 背中には幅広の大剣を背負っている。

 薄青の髪をミディアム気味に伸ばし、彫りの深い整った顔が印象な男だ。

 服には様々なベルトやポケット状のもの付いており、その姿はGスーツを着ている飛行士を思い起こさせた。

「貴様は誰だ?」

 そう問いながら自分に残っている武器を確認しながら立ち止まる。

 背が60センチほどになったザイツェフは間合いを取り、その人物を見上げながら問いかけた。

 その男が、懐中時計を宙に放るとそこに立体映像でザイツェフの詳細な情報が表示され、それを見たザイツェフは動揺を心の内に収めながら凝視せざるを得ない。

 その情報は教団関係者以外では知り得ない情報のはずだ、それを知るこの目の前の男は敵だろう。

「お前は、聖典旅団司祭位のザイツェフだな。気が付いていないようだが、お前はループする存在として固定されている」

 バチンッと、その男が背中の鞘のストッパーを外して長大な剣を引き抜く。

 その剣は刃の幅が50センチほどあり、その腹の部分がガラスのような透明な物体でてきていた、刃先の部分のみ金属で出来ている異形の剣、鍔元の付近から透明な部分へ水が流し込まれるように光が集まって行く。

「ループだと?それはクリハラモトコの役目だったはずだが」

 目の前の男が何故、それを知っているのかが気になるが詮索は無理だろうと結論づける。

 まずは、この場を切り抜ける事が重要だ。

「もう彼女にはその役目は無いんだ。彼女が助かったから代わりにお前が選ばれたんだよ」

「なんだと?」

「おかしいと思わなかったのか?対物ライフルの連続射撃を受けて、さすがにその身体でも耐えきれずに、お前は死んだはずだ、しかし今はその数分前の状態にお前は戻っている」

 その言葉を認識したザイツェフは、全身を震えが襲う。

「そんなはずはない、我が神が我が旅団が私を見捨てるなどっ!」

 司祭以上の位階を持つものは、聖典旅団の教義の一つで定義されている贄の一つである「ヴァズヴラチーツァ(遡行者)」には成らないと約束されているはずだ。

「だが、いまのその状態はそれを裏切っている」

 目の前の男がザイツェフの体中に浮かび上がった、西洋魔術と呼ばれる魔法系統の文様を示す。

「それを知るお前は何者なのだ!」

「俺は魔導紛争の丸の内攻防戦に派遣された部隊の一人で、如月中佐の部隊にいたんだよ」

 そこで眦を上げてその瞳に怒りの色をたたえる。

「お前達がやった、あの魔法使いの暴走事件。そのせいで俺以外の部隊の人員は全員行方不明だ、その中俺は如月中佐に助けられた。そして中佐が暴走する魔法使いを止めるために突入した時に言われた事を守るために、お前のような奴を狩る者になったんだよ。名前はファングとでも呼んでくれ。お前達の教義でやっている事は自体が、この世界に様々な歪みを呼んでいる。それを潰すのが俺の目的だ」

 ザイツェフは気が付くと、目の前のファングの剣の透明だった部分が全て光り輝いている。

「だからと言って、タダでやられるものか!」

 金属の脚を全て撃ち出して先制攻撃をかける、それぞれの脚には体液で出来たワイヤーを付けて、思考誘導で確実に命中を狙う。

「あと10秒以内に、お前から遡行者権限を消滅させなくてはいけいない」

 撃ち出されたザイツェフの脚を全て切り落としたファングが間合いを詰めて、輝く剣でザイツェフを両断し、その身体を空へと斬り上げる。

 そして、その大剣から発射された光がザイツェフを包むと、バキィィィンッという耳障りな音を立てて文様が破壊される。

 そのまま、空中に飛んだザイツェフと呼ばれた物体は12.7ミリ弾で粉砕されていく。

「この近くにいるスナイパーとスポッターはいい腕をしているんだな」

ファングは感心をした後、自分の剣を見て頭を抱える。

「しかし、司祭と言ったがループの(かいな)をへし折るのに干渉力を使いすぎじゃないか、これは」

 剣に満ちていた光は、半分ほどに減っていた。

「また、干渉力を貯めるためにこの世界の来訪者を狩るか」

 そう呟くと、狙撃で砕かれたザイツェフの身体の破片が舞う中、ファングと名乗った男は腕を上げて破片の中から割れたアミュレットのようなものを掴み、暗い路地へと歩みを進めて行く。

「この街周辺には、まだ遡行者の気配があるな」

 懐中時計を取り出し、その長針と短針が激しく回転をしているのを見てカバーを閉じ、目の前に情報魔法で周辺マップをウィンドウ表示し、いくつかの光点が明滅しているのをじっと見つめる。

「ここに、どれだけ遡行者が来るつもりかわからないが、中佐の子供達を殺されるわけにはいかない」

 マップを見つめていた時、自分からすぐ近くに淡い光点が現れたのを見て表情を険しくする。

「ああ、そっか。さっきの男が消滅した事をこの近くで交戦していた中佐の子供達は知らないんだな。下手をすると、聖典旅団の信じる神にロックされちまうか…。今晩までに、フォローしないとまずいな」

 だが、と胸中を苦い思いが占める。

(俺には中佐のご家族に会わす顔が無い)

 見方によるが、如月に庇われた形になったファングは中佐の家族に非難を受ける可能性があると思っている。

 苦い思いを抱えたまま、ファングの目の前では路地が終わり日が差す明るい道路が広がっている。

ファングの足先が、日向に出た瞬間その姿は掻き消えていった。

今回は難産でした…

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