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57 蘇生魔法使いの守り方

 美冬が使う蘇生魔法の最終段階は、蘇生対象の肉体の完全に近い回復と肉体への魂の定着の工程を済ませる事だ。

 肉体の回復度合いが高ければ高い程、魂の定着がしやすく蘇生後の回復魔法の使用が抑えられる。

そして、魂の再生を担っている美夏は蘇生対象の記憶の影響を受けつつ、自我を保たなけれればならず、それは死の瞬間の記憶までも精神に同期させる事になる。

「美夏ねぇ。肉体の回復は99%大丈夫、そっちは!?」

「ふっうぅ…。もう、だい、じょうぶ…」

 もとかの死の記憶が繰り返し意識に映し出されるため、苦悶の表情を見せながら美夏が薄く目を開ける。

「じゃあ、カウントスリーでいくわ。2、1、ゼロッ!黄泉の女王よ!その御前に逝った者を返したまえ!」

 美夏が蘇生魔法の最終工程を展開すると、もとかの肉体が淡い光に包まれて行く。

「もとかさん、戻って来てね!過去情報再生(パスト・リザレクト)!」

 その肉体に、美夏が再生をしたもとかの魂を埋め込むキーワードを発すると、空中に浮いていた光る魂がもとかの胸に吸い込まれていく。

情報定着(データフィックス)!!」

 間髪を入れずに、肉体全体へと魂を行き渡らせて定着をする…ぐんぐんと自分の魔力が消費されていくのに耐えつつ、魔石からの魔力供給をしていくが、次々と消滅していく魔石を見て多分足りない事を悟る。

 魔力が尽きた場合、精神と生命そのものを削る必要がある。

(それでも、この蘇生は成功させないといけないわ)

 そう思って、美夏は魔力の出力バイパスを生命へ切り替える。

「くうっ」

 生命そのものを削られ、力が抜けて行くところを魔法制御だけは手放さないように精神を集中させる。

 美冬も同様にしているのを気配で感じながら、蘇生魔法の完成まで耐えていたところ、美夏と美冬の手を優しく握る剣ダコらけの手の存在を感じると、そこから魔力が流れ込んで来る。

「かえで…?」

「駆けつけるのが遅れて悪かった。これで足りるか?」

 楓自身も魔力を使っているので、苦しいだろうがそんな事をおくびにも出さずに力強い笑みを2人に向ける如月家の長男。

「楓にぃ、無理しないでよ…」

 その美冬の言葉に楓は苦笑をした気配を見せる。

「俺はいいから、仕上げを頼むぜ」

「わかった…最終定着…完了っ」

 そう呟くと、清冽な鈴の音が響いたと同時に周囲に強い光が満ちて行く。

「…はぁっ」

「うう、きつかった…」

 床に手を付いた美夏は、自分の銀髪が色を失って完全な白髪になり、美冬も同様の状態になるのを霞む視界で把握する。

「2人とも、お疲れ様。少し休んでいてくれ」

 楓は動けない姉と妹の代わりに、結界器を回収して自分達が蘇生魔法を使った証拠になるものを回収、破壊を速やかに進めて行く。

 そうして周囲に残ったのは、ザイツェフが残した一部の器具と薬剤の瓶、ザイツェフの下半身くらいになった。

 蘇生魔法は今の世界では公的に発見されておらず、それを知られる事は3人にとって不利な状況しか生まない。

 今までの蘇生魔法の痕も、同じように証拠を消去し必要な関係者以外の記憶は母の秘術で封印をしてきていた。

 そして、今回はどうするかと楓は考えていると。

「ありがと、楓」

 立ち上がった美夏と美冬が、こっちを見ていた。

 蘇生魔法の使用で白髪になった姿を見ても、エルフの少女と魔法使いの少女は姉妹と言われても似通ってないな、と思いながら楓は口を開く。

「美夏ねぇ。もとかさんの記憶は()()()()()()()()()?」

「今回は、死の寸前ってところね。矛盾を避けるためにはそれがギリギリだったわ。多分、ザイツェフとかいう奴と戦った記憶は残っているはずよ」

「そうか、もしもとかさんがアレを覚えていたら。その時は、わかってるよな?」

 楓にとって、最優先事項は姉と妹を守る事である。その障害になるものは、蘇生させた者でも例外ではない。

「楓にぃ、早まらないで。なんとかなるから、ね?…ううん、なんとかするから。私は大丈夫よ」

 オレンジに近い茶髪を姉と同様に真っ白にした美冬が、酷薄な表情を見せる楓を安心させるように微笑む。

「だから、その表情はやめてね」

「…ああ、分かったよ。もとかさんが目を覚ましてから決めよう。それじゃ、本部に連絡をするが…。俺の見落としはないか?」

「うん、大丈夫よ。さすがね」

 美夏の声を聴いて、それに笑みを返しながら楓は本部への通信を開く。

「本部、こちら特殊遊撃室。敵拠点の制圧完了、こちらは栗原室長が敵と交戦、重傷を負ったため回復魔法を使った結果、救助に成功。なお、敵の幹部らしき戦闘員を殺害、一人は逃走。支援を願います」

『こちら本部了解。もとかさんと第2の1番隊の状態は?』

 ティスの緊張した声が聞こえてくる。

「もとかさんは無事だが、酷い重傷だったため回復魔法の影響で気絶中、バイタルはほぼ正常値。1番隊は損害が増える可能性があるため、退路の確保を依頼している。彼らは?」

『水月姉妹の支援に向かいました。その後、こちらに戻って来る途中です』

「1人幹部を逃したが、追跡は出来ている?」

『いえ…。特徴は?』

「人間ではなさそうだ、上半身だけになって腰椎のあたりから、金属製のクモのような足を出して天井を伝って逃走した」

『え…。それは、本当!?』

「ああ、その特徴のある化け物を見たら、交戦はやめて追跡だけにしてくれ。危険だ…そして、応援部隊を送ってくれるか?それまでは現場を確保するが、それでいいか?」

『はい、まかせます。支援の指示を水月姉妹に依頼するので、連絡を緊密にしてください』

「了解」

 そう本部への通信を切った後、すぐに楓は水月姉妹へと通信チャンネルを開いたのだった。

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