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55 決戦、そして

 楓達は明かりの少ない通路を進んで行く中で、魔力、体力を回復するポーションを飲みコンディションを戻して行った。

 途中、壁の割れ目があったので、美冬はそこに居た風の精霊を小型の密閉ボトルに封じていた。

これで精霊力のほぼ無い室内でも精霊魔法を1回だけだが使う事が出来る。

 床の埃を見ると、もとかの足跡が奥へと続いている、それから推測できるもとかの様子に美夏は違和感を覚えるが、奥から感じる異様な気配にその疑問を口に出す事は止めていた。

 角を曲がると通路側に少し開いた鉄扉があり、そこから光が漏れている。

「中には多分1人だ」

 気配を探っていた楓が2人に告げる。

「それじゃ、もとかさんは?」

「分からない、生命感知を使うと敵にバレる場合があるから中の様子を見て突入する。美冬、風の精霊で俺を押し出す事はできるか?」

「うん、行けるよ」

「楓、中を確認したら援護位置のあたし達にハンドサインをお願い」

「わかった」

 そう楓が扉のところからミラーを出して中を確認する、その中には台に載せられた2人の女子生徒の姿、そしてその1人は光を失った双眸をこちらに向けていた。

 そして、聖典旅団の司祭服を着た男の姿、そいつは楽しそうな節をつけて独り言をつぶやいていた。

「予定の邂逅まで20分も無い。部下どもが来る前にループスタートの儀式はやっておくか。まず、死体の消去をしようか」

 そいつは右手に掴んでいた臓器のようなものを無造作に台に置き、薬品瓶を持ちその中身をあらためた時。

「!」

 楓が「緊急・突撃」のハンドサインを送る、次の瞬間自分の周囲に膨大な空気の流れが生まれ、一気にその背が押される。

 ゴウッという大量の空気の動く音が聞こえ、ザイツェフが振り向くと白刃が自分に迫って来るところだった。

「新手か、無駄だ」

 もとかにしたように同じく、魔法の障壁(シールド)(シールド)を張って防御をする・・・が。

「無駄はそっちだ!」

 飛び込んで来た少年、楓が叫ぶ。

 その障壁が易々と刃に砕かれ、大振りに薙ぎ払われた刃をザイツェフが大きく飛び退って避ける。

「ぬ!?」

 ザイツェフともとか達を乗せた台の中間に割り込む楓が、闇切丸を構え直して冷え冷えとした目でザイツェフを睨みつける。

「もとか先輩に何をした?」

 そう楓が言った瞬間、濃縮された魔力を込められた5つの鏃がザイツェフに突進していく、それは複雑な軌道でザイツェフを翻弄する。

 2つが腹と左腕に命中し、それ以外のものは回避され壁に当たりそこを破壊する。

「美夏、美冬!支援はもういい、もとか先輩を頼む」

 楓はザイツェフから目を離さずに楓が叫ぶ。

「わかったわ。そいつは頼むわよ。美冬、悪いけどアレを使ってもらうと思う・・・もとかさんを助けるからね」

「はーい、了解」

 口調とは逆に緊張に青ざめた美冬が答える。

「ふん、我が神に反逆する無知蒙昧なモノめ。お前達は我が神の供物にしてやる。我が名はザイツェフ!貴様らの生涯を終わらせる名前だ憶えておけ」

「そうかい。色々と聞きたい事があるから血反吐を吐いても死ぬなよ」

その楓の言葉に反応したのかザイツェフは、腰に差していたサーベルを抜き放つ。

「こいつは魔剣使いか」

 サーベルは強力な魔力を帯びている事を確認し、楓はそれを観察する。

 護拳が右手を完全に覆う形になっていて、反りはそれほど無いタイプなので切り裂くというより叩きつける戦い方はしそうだな、と推測をする。

 闇切丸に魔力を流し、敵の魔剣に破壊されないようにコーティングを施す。

「ハッ!」

フェンシングのようなザイツェフ突きを最低限の動きで避けて、サーベルの上に闇切丸を落とす。

「えぇい!」

 突き出された力をいなされて、前のめりに態勢を崩したところを返す剣で斬撃を浴びせる。

「ぐむっ」

 辛うじてザイツェフが避けるが、司祭服が縦に切り裂かれ、その隙間からスリングベルトに吊るされたビゾンが見える。

「っ!」

 飛び退りながらサーベルを右に振って、楓の追撃を止めるザイツェフ。

「神よ!」

 足を止めた楓に突きの連撃を浴びせるザイツェフ、それを回避、回避、アーマーの表面に滑らせてダメージをゼロにする。

 そうして生まれた余裕で楓は袈裟懸けに切り付け、インパクトの瞬間切れ味増加を発動させる。

「ぐぅっ」

 刃が護拳を破壊しそのまま腕を切ろうとした瞬間、ザイツェフのサーベルから衝撃波が発せられて楓は後退する。

(マスター。敵の魔剣は衝撃系の魔法を付与されているようだ。遠距離攻撃は出来ないが代わりに接触するとかなりの威力を出す作りだ)

闇切丸が切り結んだ時に分かった分析結果を囁いて来る。

「了解、触れなければいいんだな」

「ハハハ、我が魔剣の威力はどうだ?異教徒より略奪したものだが、高ランクの魔剣だよ」

「・・・被害者はどうなった?」

「我が煉獄に落とした。異教徒に生を永らえさせる意味はないのでな」

「クズめ」

 それを聞いた楓が間合いを詰める、それを横切りで迎え撃つザイツェフ。

 多少隙が出るが、避ける空間は下にしか無い。

「!?」

 楓がジャンプをし、サーベルを飛び越えて闇切丸を振り下ろす。

「ぐぁっ」

 右肩に刃が食い込んだ時に、硬化(ハードコート)切れ味増加(シャープネス)を連続発動すると易々と刃がザイツェフの中に食い込んで行く。

「なんだ?」

 鎖骨を砕き、そのまま切り下そうとしたところ、やけに硬い感触に違和感を覚えて刃を引く。

 ガシャン!とサーベルを取り落としたザイツェフは、左手でビゾンを握って銃口を向けようとして来た。

「はぁっ!」

 突きを放って左腕に深手を負わせる、これで銃器は使えないはずだ。

「せぇい!」

 一瞬棒立ちになったザイツェフの胴に刃を走らせる。

 横一文字に司祭服を切り裂き、さらに続けざまに両足にも斬撃を放つとと、その部分から鮮血が噴き出す。

「抵抗はするな。もとか先輩に何をしたかを教えろ」

 たまらず膝を付いたザイツェフに闇切丸を突き付けて尋問をする。

「こんなガキに…。なんだその強さは」

「無駄な事を言うな、ループスタートとか言っていたな。それは何だ?」

「ループスタートとは、我らに託された神からの神聖な役割だ」

「何が神聖なんだ?10代の少女を酷い目に合わせる事が神聖だとは思えないが」

「ははは!お前は知らない・・・我らがこの世界を護っている事を!」

 急に恍惚とした表情で自分の使命について語るザイツェフ。

「どういう事だ?」

「それは我々の神が綴っている聖典の記述を修正すること!全てはその聖典に記された事がこの世界を形作っているのだよ」

「それがどうした?」

「我が神に近い枢機院が、この地域に聖典を穢す者がいる事を見つけたのだ。そして、我らはここに情報収集体を送り込んでいたのだよ。そのクリハラモトコがそうだ」

「話が見えないが、それでもとか先輩をどうしようとしたんだ?」

 ザイツェフが下手な動きをしないように、闇切丸にかけている魔法を継続使用しつつ先を促す楓。

ただ、言われた内容で怒りを覚えているので漏れ出した切れ味増加(シャープネス)の魔法が、ザイツェフの皮膚に傷をつけている。

「それは・・・貴様らが知る事ではない!我が旅団の中枢に来れれば別だがなぁ!!」

 瞬間、血まみれの足に力を入れたザイツェフが飛びかかってくる。

「ちぃっ!」

 反射的に胴を闇切丸で薙ぐ、普通なら内臓が飛び出るところだが、ガキッという固い手ごたえで刃が弾かれる。

(マスター!材質不明の金属の反応!)

「分かった!」

 間合いを取ってから斬撃を繰り出すと、ザイツェフの身体が上下に分断される。

「は?」

 下半身はそのまま床に倒れ伏すが、上半身が分離をして壁に張り付く。

 普通なら背骨のある部分から虫のような金属製の細い足が8本出ているようだ。

 それがシャカシャカという金属音をたてて這い上がり始めている。

「化け物め・・・」

 飛び上がって斬撃を浴びせようにも、ザイツェフは刃が届かない位置に居る。

「詰めが甘かったな。我らはその少女の事は諦めぬ、そして秘密を知ったお前達も死ぬまで追いつめてやるぞ。じゃあ」

 な、と言いかけた時、楓はザイツェフが落としたビゾンを掴んで射撃を始めていた。

 セレクターはセミオートの位置になっていたので、そのまま連射をする。

 いくつかが着弾し、バランスを崩したザイツェフはそれでも壁を這いあがっていく。

「くそっ」

 フルオートに切り替えて残弾を全て発射したが、ザイツェフは被弾箇所から火花を散らしながら屋根へと姿を消えていく。

「逃がしたか・・・。いや」

 呟いてザイツェフの残したサーベルを掴み、魔力を込めてから屋根へと投げつける。

 サーベルが屋根に触れた瞬間、衝撃波が発せられ爆発音がして大穴が開く。

 その数秒後、対物ライフルの発射音が聞こえて何か硬いものに着弾した音が聞こえて来た。

「なんとかなったか?」

 遠くから何かの断末魔が聞こえたような気がしたが、今は追撃より重要な事がある。

 もとかを救う事だ。

「美夏、美冬。もとか先輩はどうだ?」

 その声に、美夏が楓を見て首を横に振り、その瞳は涙に濡れている。

「死亡か・・・」

 もとかの亡骸をじっと見つめている美冬にも目を向けて楓は呟く。

「時間がないわ、楓は聞いて」

「わかった」

「もとかさんは死んでしまった。でも、まだ出来る事がある」

 そこで一度言葉を切る。

「美冬の魔法で、もとかさんを()()()()()()

 そう言って美夏は持っていたダッフルバックから、今まで貯めて来た魔石を周囲にジャラリと撒く。

「だから、私達を護って。楓」

 既に周囲には濃い魔力が集まって来ている、そして別な悪しき者の気配も。

「俺は美夏と美冬の選択を支持する。これより俺は対黄泉平坂戦に入る」

 そう答えて楓は闇切丸を鞘に収めたのだった。

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