表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/95

52 新たな敵

目標の建物は、3階建て工場だった。何かの部品を作っていたのだろう、旋盤っぽい工作機械やもっと大型な圧縮機のような機械が埃を被って置いたままになっている。

通路には足跡がついていて、この先に第2の部隊がいるのだろう、そのまま追跡すると射撃音が大きくなってきた。

「こちら特殊遊撃室、1番隊の誰か。応答をしてくれ」

『ザッ・・・こちらは1番隊だ・・・今・・・中!』

何かに通信が妨害されているが、通信は繋がる。

「応答はいい、すぐに合流する。誤射に気を付けろ」

そう言ってから、いくつかの角を曲がった後に5人のHSS団員の姿を見つける。

3人は開け放ったドアの左右からサブマシンガンを室内に向けていて、2人のうち1人は治癒魔法で手当をしている。

「状況は?」

美夏が副隊長と思われる男子生徒に話しかける。

「ああ、援軍は君らか。俺達は室長と共に旅団の幹部を追いつめたところだったが、突然現れた敵戦闘員が出現して室長と分断された状態になっている。はやく合流したいのだが、強力な対物理装甲に固めた戦闘員を突破出来ていない」

「そう、魔法は効くの?」

「ああ、だが重装甲の割に素早く接近されてしまって魔法を使う暇が無い。手持ちの魔剣は壊されちまった」

「わかった、ありがとう。私達はこれから中に突入をするわ、1番隊の皆さんは後方に下がって退路の確保と情報の中継をお願いします」

有無を言わせぬ表情で美夏が、1番隊へと命じる。

「いや、だが俺達のうち2人は人員を出せるが?」

「それだと、戦力の分散になっちゃうから危ないと思う。まず、安全地帯の確保をお願い。そして、第3の水月姉妹のスナイパー部隊に支援を依頼してください」

そう言われて、すぐに頷けない表情を一瞬見せたが判断は早かった。

「分かった、俺達はそう動こう」

「先輩、ちょっと壊れた魔剣を調べさせてもらえますか?あと、敵の武器は何だったんですか?」

「魔剣はこれだ、何かわかったら教えて欲しい。敵の武器はバスタードソードだ、銃器は持っていないようだが接近戦に特化した装備をしている。障害物が多いここでは十分脅威になっている」

「ありがとうございます」

そう礼を言って、鍔元付近で折れた魔剣の柄を触る。

(君は喋られる?)

意識を集中して、魔剣に語り掛けるが少しチリっとした感覚があっただけで反応は無い。

(そうか、もうお前は逝ってしまうんだな。いつの時代の剣かわからないけど、勇敢なる剣に感謝を)

心の中で、はなむけを言ってからそれから手を離す。

すると、楓の脳裏に凝縮した情報が流れ込む。

「っ…ありがとう」

とっさに意識を集中してその情報を反芻する、それはこの魔剣が最後に受けた攻撃の衝撃や敵の武器に込められた魔法の情報だった。

それがフッと切れると、魔剣は完全に沈黙した。

(闇切丸?)

『ああ、我も聞いた。最後にマスターに礼を言っていたぞ』

(そうか、魔剣も心安らいでいってくれていたら良かったんだが)

『無論だ』

楓が柄を触っていたのは10秒程度だった、そのまま礼を言って魔剣を返す。

「楓、何か分かった?」

「ああ、教えてくれたよ。敵の武器に仕込まれているのは高速(ハイ・)振動魔法(バイブレーション)重量軽減(ライト・ウェイト)浸食(イロウジョン)(イロウジョン)の魔法のようだ。それらを連続発動出来るから、高レベルの魔剣と使い手と考えていい」

「そっか。それなら作戦はいつも通り、楓は切り込んであたしと美冬が魔術で支援するわ」

「分かったー。でも、攻撃のメインは私達?」

美冬が自分を指差してから、首を傾げる。

「そう、楓は敵の攻撃を受けてあたし達に攻撃が来ないようにする役割。短期決戦をするから、美冬は劫火の鳥(ヘルファイア・バード)を最大出力で準備、あたしは電晶の連弾(ブラストライトニング)を使うわ。楓には最低限のバフしか掛けられないから頑張って」

「ああ、分かった…。行くか」

闇切丸を抜きながら楓が言う。

「本当に君達で大丈夫なのか?」

「ええ、一番隊の方々は先ほどの打ち合わせ通りに動いて下さい。時間が無いのでこの中にいる敵を倒した後は栗原室長のところに急ぎます。では」

「分かった。如月室長も気を付けてくれ」

 そう言って、第2捜査室1番隊が撤退していく。

楓達が踏み込むと、そこは30m×50mの空間に工作機械が点々と残されている空間だった。

奥には開け放ったままの鉄扉があり、その前に件の戦闘員が佇んでいた。

頭にはフリッツヘルメット、目はゴーグルに隠されて口元しかわからないが、シルエットは人型なので 人間なのだろうと楓は見る。

 身体全体を重装甲のボディーアーマーで包んでおり、右手には抜き身のバスタードソードをぶら下げている。

楓達の気配を感じたのか、やや俯き気味の姿勢だった敵が視線をこちらに向ける。

「俺達はHSSだ、この先に用があるので邪魔をすれば排除する」

「えいち、えす、えす・・・命令リョウカイ、排除スル」

 問答が出来ると思わなかったが、楓の警告に対しての言葉は物騒なものだった。

チリチリとした感覚が楓の首筋に走ると同時に、一気に間合いを詰めてくる。

 美夏達に攻撃を届かせないように、前に出てバスタードソードの突きを下からのすくい上げて弾き飛ばす、強烈な反動に負けず、そのままがら空きの胴体に切れ味増加(シャープネス)を発動した闇切丸を叩き込む。

「っくぅ!」

ガリッと言う音がして、ボディーアーマーの表面を軽く削った事に驚く。

「シネ」

 感情を込めない声と共に、戦闘員のバスタードソードが勢いよく楓に袈裟懸けに振るわれ、その刃の平に闇切丸を叩きつけて軌道を逸らす。

ガヅンッと音と軽い破裂音を立てて、バスタードソードが床に叩きつけられ小さいクレーターを穿つ。

「凄い威力だな」

そう言いながら、戦闘員の利き腕を狙って闇切丸を振るう、再び弾かれるが手ごたえから装甲の厚みを把握する。

(マスター、可動部の装甲は極端に薄い。それ以外の部分はかなりの物理攻撃に耐えられる)

「分かった。サンキュ」

 闇切丸に短く答えて、最後に楓が仕掛けたフェイントで態勢を崩した戦闘員に再び切りかかる。

楓の刀を受け止めた戦闘員が体を左に傾けながら、右ひじを突き出してくる。

「ちぃっ!」

それを避けて態勢が崩れた楓に、空を切る音を立てて戦闘員のバスタードソードがすくい上げの軌道で迫る。

数舜後に楓が両断される姿を想像して、戦闘員はニィィっという歪んだ愉悦の笑みを見せる。

「・・・フゥッ!」

楓の息吹が鋭く発せられ、ガギィン!と言う音でバスタードソードが止まる。

「!?」

戦闘員の剣は、楓が左手で数センチ抜いた脇差型の魔剣に止められていた。

その魔剣はバスタードソードから送り込まれた高速(ハイ・)振動魔法(バイブレーション)浸食(イロウジョン)の魔法によって、触れた箇所から急速に崩壊していく。

楓はすぐに魔剣を引き抜いて浸食(イロウジョン)が自身に及ばないように放り投げる。

破壊された魔剣に謝るのは後だ、それを許せる相手ではない。

「崩壊するのは、接触箇所を中心にした円状というところか。発動に合わせてこちらも切れ味増加を使う」

(了解した、フルパワーでは無いと無理だ)

「分かった」

 そう答えた楓の視界の中に、美夏の情報魔法による二つのウィンドウが表示される。

それぞれに美夏と美冬の魔法の準備状態がカウントダウンで表示され、美夏は残り20秒、美冬は残り15秒で発動完了になる予定。

 魔力の変化を感じ取った戦闘員が、楓に向かって突撃を仕掛けて来る。

先ほどと同様に浸食を刃に纏わせ、動きの少ない鋭い突きを放つ戦闘員の刃を半身で避けて闇切丸をそれに叩きつける。

ギュイィン、と金属の破砕音が響いた後、バスタードソードが真ん中から崩壊する。

「ナッ!?」

 動きが止まった戦闘員に向けて楓は連撃を繰り出して行く、狙いはさっきの連撃で見切った敵のボディーアーマーの装甲の継ぎ目だ。

右袈裟懸け、左すくい上げ、左右の手首、肘と連撃を繰り出す。

半分は弾かれたが戦闘員の脇腹、肘から血潮が噴き出す。

「ガアァ!」

 絶対的な防御に頼っていた戦闘員が、それを破られた衝撃で片膝をつく・・・その瞬間、美夏の劫火の鳥が発動する。

 両手で構えた懐中時計型のMLPの先から、劫火が噴き出し直ぐに鳥のような形になって、戦闘員に向かって飛び、そのまま着弾する。

「うるぉあああああ!」

 強烈な熱でアーマーの装甲が溶け、火だるまになっても戦闘員は立ち上がり楓に半ばから折れたバスタードソードを振りかぶる、それはこの戦闘で見せたどの斬撃より鋭かった。

「まるでバーサーカーだな。これ以上、先に行かせてたまるか!」

 身体を回転させ、遠心力を使い闇切丸を焼けてボロボロになった戦闘員の右腕に走らせる、血しぶきとともに両断された腕がバスタードソードを握ったまま床に落ちる。

「マダダ!」

 まだ無事な逆の腕で楓に掴みかかろうとする、その膂力で首を掴まれれば骨は簡単に折れるだろう。

次の瞬間、美夏の周囲に数十個現れた電撃を帯びた水晶が戦闘員へ殺到し貫通する。

「戻れ!」

 美夏が集中を解かずに、杖型MLPを左から右に振るった後に頭上に振り上げる。

一度、戦闘員を貫通した雷水晶が軌道を変え、再度戦闘員を貫く。

「ブレイク!」

 最後のキーワードと共に杖を振り下ろすと、食い込んだ雷水晶が爆発をする。

1個1個は小さい爆発だが、連続する内部からの破壊で戦闘員は体中から血を吹き出し、地響きを経てて倒れ込む。

「グ・・・グゥゥゥ」

それでも、ズタズタになった体を左腕で持ち上げて起き上がろうとする。

「この戦闘員は不死身か?」

飽くまでも戦闘を続ける意思を見せる戦闘員を前に呻くように楓が呟く。

「ワレハ、戦闘員デハナイ・・・エイコウアル。イタンセイサイカンダッ!」

「異端制裁官・・・?聖典旅団には神官兵って言うのがいるのは聞いてたけど」

油断なくMLPを構えながら、美冬が補足する。

「ハハハ・・・。フギナルコドモラニハ、ワカラヌ。ソシテキサマラノカオハ、オボエタ」

そう嘲りの声を上げる異端制裁官。

「そうか、俺達の情報を旅団に持ち帰るわけか」

底冷えのする声で楓が呟く、その言葉が消えないうちに轟音と風切り音が周囲に響く。

「俺はお前達を殲滅する。まずはお前からだ」

大きく薙ぎ払われた闇切丸に、異端制裁官の首が斬り飛ばされその意識が永遠に途絶する。

「…終わった。ももとかさんが心配だ。急ごう」

頬に付いた返り血を拳で拭って、楓が美夏と美冬に言う。

「分かったわ。また楓に手を汚させてゴメンね」

「楓にぃ…」美冬がそっと楓の手を握る。

「その言葉で俺は十分だよ。美夏は感知魔法をよろしく。美冬は視覚の警戒を頼む」

闇切丸の血を拭い鞘に収めた楓は、開け放たれた扉に向かって走り出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ