51 現場検証と引継ぎをする
美夏達が30分近く倉庫にある荷物を調べた結果、ここは複数の荷主もしくは組織から荷物を預かり、また別の場所に移動をさせる中継点として使われているようだ。
荷物からは偽ブランド品、違法薬物、窃盗品を始めとする犯罪に関わるものが見つかった。
そして中身が既に運び出され、空っぽになった木箱が楓の前に転がっていた。
「手広くやってるわね。美冬、この空き箱で何かわかる事は無いかな?」
それらを見て、美夏がこの3人の中で追跡技術が高い美冬に聞く。
「うーん。これは木箱だから・・・あ、凹みがあった」
内側の壁面を薄い手袋をして触った後、底面の凹みを指で探る。
そして荷物から黒のマーカーを取り出す。
「んー。はっきりしないけど、ここに銃器があったのは確かっぽい」
凹みの形を点や線でマーキングをし、出来上がった形を見て美冬が得意げに言う。
楓と美夏がそのマーカーの線を見ると、見覚えのある形に見えなくもない。
「これはビゾンか…。こっちはAK47っぽい形状に見えるな。これが連中に流れているとなると厄介だな」
「ここに突入をしてから、もう1時間になるわ。次の場所に行くことも考えるとギルドか本部から現場確保の要請をしない?」
「ああ、そうだな。警察はどうする?」
「それはギルドに判断を任せましょ」
「わかった」
そう言って、楓はギルドと本部に現在までの状況を説明をして応援の要請をテキパキと行う。
「美夏姉ぇと美冬、俺は敵の増援が来ないかを警戒する。次の行動を詰めてもらえるか?」
「わかった、おねーさんに任せなさい」
緊張感の無い様子(とはいえ、意識の無い負傷者が3人転がっている状態だが)で美夏が請け合う。
それを見て、楓は窓のブラインドを全て降ろし、その隙間から周囲の偵察を始める。
ここで起こした騒ぎは限定的なので、街や通りには目立った混乱は無い。
「本部。こちら特撃室、目標の拠点1を制圧。ここには3名の反社組織の構成員が居ましたが制圧。なお倉庫兼詰所という情報は正確でした。荷物は偽ブランド品、薬物など多岐にわたるものを確保。ここが重要ですが銃器を入れたと思われる木箱を発見。中身は既に運び出されています」
『こちら本部、了解しました。情報は団長に共有のうえでギルドにも話しておきます』
とティスが応答する。
「そっちから指示はある?」
『ちょうど良かった。ギルドの部隊は既に5つの目標を制圧していますが、最後の拠点へは敵が終結しているためタイミングを計るようです。こちらも特撃室だけではなく、第2の1番隊を援軍として派遣しました。規模はもとか室長を含め6人で内訳はサブマシンガンを持つ銃持ちを3人入れた制圧メインの部隊。対人戦の経験はまあまあというところね。周波数を教えておくから、これで連携をお願いするわ』
「わかったわ。でもここの武器が別拠点に流れていたらまずい事になる、第2には撤退か突入はやめるように強く言ってもらえる?もし進んでいたら、私達が撤退支援を担当してもいいし」
『ええ、その時の判断は任せるわ。よろしく』
通信を切って、美夏は作戦を考える。
「楓、ここにあった武器を装備をした部隊と、もとかさん達が戦ったら勝てると思う?」
「無理だな、魔法の支援があったとしても被害甚大がいいところだよ」
「そうよねぇ。じゃあ私達が加わったら?」
「被害は減るけど、立て直しに美夏ねぇと美冬がしばらく疲労で動けなくなると思う」
そう話している所に、通路を監視していた美冬が戻って来る。
「どうしたの?二人とも」
「いや、激戦になった場合の被害想定を考えていたんだ。美冬に回復を頼る事態にはしたくないと思ってね」
そう楓は言って美冬に代わって通路へと向かう。そろそろギルドの増援がくるはずだが。
「必要なら、あたしは回復役をしっかり務めるけど?」
くいっと小首を傾げる仕草は、同性の美夏でも癒されるものだった。
「そうだけど、まず被害が出ないようにって考えていたの。第2がもう交戦していた場合・・・まだの場合・・・」
ブツブツと脳内で要素を組み立てていく。
「HSSとギルドで動ける人が居るか打診。保険として出来るだけ打撃力を得た状態で私達も敵拠点に突入しましょ」
「それなら、ギルドはあたしが連絡するわ。怪我をしてもあたしが回復する事を条件にすれば、出してくれそうだし」
回復魔法の遣い手として、ギルドは過去の報告から美冬の能力について期待をしている節がある、それを考えての発言だったが美夏は眉を曇らせて美冬を叱る。
「こら、自分を犠牲にするような事を言わない。まず、ギルドに余剰戦力があるかを聞いて?」
「はぁい」
通信端末を操作し始めた美冬は、ギルドの受付係と話しているようだ。
「こちらHSSの如月美冬です。共同作戦について、お願いがあるのですが?…ええ、この拠点の確保と支援部隊を回せませんか?・・・・・・」
その様子を見ていると、いつもはぽやんとした美少女然としている美冬の表情が厳しくなっていく。
「わかりました、まずここの確保要員をお願いします。必ず対人対応ができるCランク以上の人が居る部隊で来て下さいね」
「どうだった?」
「はぁ・・・。ギルドは最後の拠点への敵の数が想定より多いので、そっちに注力するから回せないって。ここの確保は約束してくれたよ」
「わかったわ、ありがと。ギルドの判断を信じるしかないわね。それじゃ、あたし達は第2との共同作戦を進めるわよ。どれだけの敵がいるかはわからないけど、取りこぼしがないように確保しようね」
その言葉に楓と美冬が頷く。
ギルドの支援部隊が来たのはそれから5分後の事だった、そのまま引き継ぎの情報を渡して3人は次の拠点に急ぐ、朝と同じ移動方法で進んで行くとある地点から道、壁や建物が急に汚れや傷みが目立つものになってく。
「これが再開発地域か。篠塚屋から見た時は、やけにくすんでいた色と埃っぽい感じだったけど、これじゃあそうなるわな」
道に落ちているブロックの欠片を避けながら楓が呟く。
「ここまでハッキリと境界が分かれているのは、なんていうか不思議ね」
タブレットに表示したマップを見ながら、弟と妹をナビしながら美夏も答える。
「うー・・・。なんか気持ち悪い」
美冬は雰囲気や、光の届かない影の多さにプレッシャーを感じているようだ。
「大丈夫?ポーションでも飲んでおく?」
感受性の高い美冬には、市販薬と組みあせたポーションを飲ませる事もある。
「ううん、まだ大丈夫。それより第2はどこだろ?」
そう美冬が言った時、連続する銃声が響いて来た。
「!…奥の方・・・建物の中からの音・・・だと思う」
美夏が長い耳を動かして、音を拾っている。
「音からすると9ミリ弾ってところか、交戦しているなら急いで合流する・・・。本部、こちら特殊遊撃室、目標拠点近くに到着、なお第2は交戦している模様」
『こちら本部、状況了解』
「第2は下げなかったんですか⁉」
『こちらで伝えたんだけど、敵部隊に先に見つかったみたい、今は建物の外に向けて撤退中のはずよ』
「はずって?」
『通信にノイズが多くて、断片的な言葉しか拾えないの。君達もそうなる可能性があるから気を付けて。1番隊の周波数はこれに合わせて』
「了解」
これで作戦の難易度が上がった事だけが分かる。しかし、交戦している状態では時間をかけてしまうと第2の部隊が壊滅しかねない。
「戦力の補充が出来なかったのが痛いな、愚痴っていてもしょうがないから第2の1番隊の位置を確認したら早く合流しよう。二人ともそれでいいか?」
「私は問題なし」
「うん、大丈夫」
そう美夏と美冬が肯定を返すと、また楓の通信機が着信音を発する。
「こちら如月」
『はいはーい、こちらは水月瑠華ですよー。レナちゃんもいますよー』
かなり能天気に近い、ハイテンションな声が聞こえてくる。
「・・・」
緊張感を台無しにする声に、楓が色々とオーバフローをして硬直する。
『あれ、音が来ない。通信機が壊れちゃったのかな』
そのまま向こうの通信機をぶっ叩きそうな雰囲気を感じて、楓は再起動を果たす。
「何の用なんだ?瑠華ちゃん」
『あ、レナちゃんが怖い顔をしているから手短に言いますね。あたし達の戦力は要りませんか?』
「は?それは助かるが。君達は第3所属じゃないのか?」
『大丈夫ですわ。狙撃班は独立行動を認められていますし、状況はある程度私達は把握しています。問題はありません』
瑠華では話が明後日に飛びそうだったので、レナが通信機を奪い取ったらしい。
「それは助かるが、射撃支援という事でいいのか?」
『はい、今のGPS座標を教えてくれませんか?』
「わかった、位置は・・・」と楓は座標を教える。
『了解、位置を把握したので補足を開始します。直接視認は出来ないので、建物に入った場合の報告や座標の報告を都度教えて下さい』
「ああ、わかった。頼りにしている」
『もし、建物内での戦闘になった時に射撃支援が必要な場合は、何でもいいので分かりやすい目印をお願いします。煙幕でも信号弾のようなもの、建物を破壊してもいいです』
「その時は頼む、連絡は密にするからよろしく」
『はい。ご武運を。敵が外に出た場合は、こちらの判断で射撃します』
「それで問題ない、オーバー」
通信を切ると、それを聞いていた美夏と美冬が微妙にふくれっ面をしていた。
「なんだ、二人とも?」
「しーらない。急ぎましょ」
そう美冬を促して進んで行く美夏を、楓は首を傾げながら追っていったのだった。
作中のビゾン、AK47とは?
・ビゾンはロシア製のサブマシンガンです。作中ではビゾンベースの銃として扱います。
・AK47は、名銃と言われているカラシニコフですが、こちらもAK47ベースの銃として扱います。




