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47 柊と瑠華と

 激戦の痕も生々しい神鎮の森D-4区域にある広場に柊は一人で来訪者の死骸や、それに与えられた傷痕などを見て何が使われたのかを調査に来ていた。

 若いながらも岩戸市の歴史の権威と言ってもいいキャリアを持つ柊は、HSSの依頼を請けてこういう事をする場合がある。

 現代兵器の分野はまだプロに毛が生えた程度だが、主に過去の歴史の知識を使った魔法能力をもつ遺物の仕業かどうかを判断する事を求められている。

 魔法がこの世界に現れてから数十年になるが、魔法を帯びた武器や防具についてはあまり研究が進んでいない。

 主な原因としては、回収された魔剣などは武器として使われる事が優先されてすぐに失われてしまう事が挙げられる。研究者としては嘆かわしい事態だが、悠長に研究結果を待つより来訪者の迎撃が優先されてしまう現代では仕方がない面もある。

 そんな事を心の中で嘆いている柊は上半身を粉々に吹き飛ばされたオーガの死骸の前に立ち、傷口を検める柊。

「もう腐敗が始まっているか…。この傷は破裂具合から見るとグレネードランチャーですね」

 周囲の匂いに顔をしかめながら、マスク密着させる柊。

「この威力は、40ミリはあるな。M79あたりが流出しているのか」

 独り言を言いながら、防水紙のノートに次々と書き込んでいく柊、回収部隊を待たせるわけにはいかないのでその作業速度はかなり早い。

 来訪者との戦闘後は、回収の役割を持つ企業や組織がその片付けを担う事多くHSSも例外ではない、ただ今回の戦場はこの惨状を生み出した武装集団が逃走しているため、片付けを押し付けられた形になっている。

 次々と周囲の死骸の死因を記録し続けていると、ピピッと言う音とともに、胸ポケットに入っている通信機が鳴った。

『柊先生、どんな感じですか?』

 応答スイッチを押すと、将直の声が聞こえて来る。

「神代君ですか。死因の調査と魔石の回収はそろそろ終わりますよ。死因は軍用レベルの銃火器がメインですね。対物理系統の個体には魔法をぶつけているからバランスの取れた部隊がここに居たと考えていいでしょうね」

『そうですか。栗原の報告通りですね。連中にエルフ居住区に入られなくて良かった』

「うん、栗原さんの判断も良かったと思う。水月さんのフォロー・・・そして、如月君が関係者を捕らえられた事も重なってここに居た武装集団の企みを防いだのは大きいと思いますね」

『その目的については、取り調べ中ですが。エルフ居住区への団員の常駐も考えておきます』

「ええ、頼みますよ。連中の本体を潰さない限りは持久戦になるから手がかりがあれば多少のリスクを負っても対処した方がいいと思いますよ」

『わかりました。先生、ありがとうございます』

「それでは、報告はまとまったら渡すので待っていて下さい」

 そう通信機を切って、残りの死骸へと向かう。それはひと際体格の大きいオーガなので、調査用に使っている大型ナイフを取り出し傷口付近を切り開く。

 銃弾が体内に残留していれば、それから使われた銃器を特定しやすくなる。

「!」

 すぐにガチッという手ごたえを感じて、そこを見た柊は表情を険しくする。

「この個体は、保存しないとですね」

 そう言って、魔法文字を書き込んでいる魔法符を取り出してその表皮に貼る。こうする事で回収部隊はHSSの解析室へこの個体を運んでくれる事になる。

 なお、料金は上乗せされるのできちんとした理由が無い場合は、教師と言えども学園から結構怒られる。

「先生―」

「おや、水月さんじゃないですか。どうしました?」

 柊が振り向くとそこには、ガンケースを背負った水月瑠華が立って居た。

「さっきまで、栗原先輩や如月先輩達を支援していたんですよ。それでここを荒らしていた連中が、何をしていたかが気になったんです。先生が調査に出ているって本部に聞いたから、様子を見に来たの」

「それはいい心がけですね。でも、日向神社の支援はもういいのですか?」

 そう聞くと、瑠華の顔が曇る。

「ちょっと、嫌な事があったし支援の時間も来たので戻ってきました」

「ほう」

 少し気になったが、それを追及するより重要な事があるのでやめておく。

「それより、先生の調査では何かわかったんですか?」

 その質問に対して、今までに分かった事をかいつまんで柊は共有する。

「へぇ。本格的な連中なのは感じていたけど。もしかしてプロなんでしょうか?」

「そこは、これから調べないとですが。対処は早くした方がいいですね。情報はこれくらいですが、こんなものでいいですか?」

「ええ、ありがとーございます」

 ぺこり、と頭を下げてから瑠華は柊から離れて行く。

 そして、柊の姿がほとんど見えなくなったあたりで口を開く。

「プロ並みの武装集団かぁ。レナちゃんが聞いたら喜びそうだから、対応するなら参加したいなー」

 その表情は、女子中学生が戦闘という非日常に対して浮かべるとは思えないような妖艶な笑みだった。

過去エピソードの誤字修正と言い回し修正が重いです…

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