43 レナの空中偵察
ビョウビョウと、レナの耳に風切り音が響いている。
如月美夏、栗原もとかの2人からもたらされた情報を元に、レナは速度を上げ木々の天辺ギリギリを這うようにして高速飛行をしていた。
「っ!」
敵を補足する距離に近づいたあたりで急激に速度を落とす、乱れた空気が起こす気流を飛行気流操作で軽減させて、自分の急制動で起こるはずだった木々のざわめきを防ぐ。
そして飛行魔法を維持したまま目を付けた大木の幹に体を寄せて、小さいミラーを下へ向ける、すると数秒後その鏡面に数人の手足が映し出される。
(栗原室長の言う通りね、誰かわからないけどギリギリ補足できたわ)
敵の位置は掴んだので、気が付かれていない限りは追跡側が有利といっていいだろう、このまま敵の動きを探るが自分1人しかいない状態に軽い不安を覚える。
(敵が銃器を持っているなら、そもそも火力の面で不利。姉様と共同しても捕縛などは厳しい)
通信をすると敵にバレる可能性が高いので、じっとミラーを見つめて次の行動を考える。
敵はこのまま森を抜けて、日向神社を避けて市街地へと進むようだ。
自分をスコープで補足しているはずの姉の瑠華とできる事を考える。
森の外側へと向かっていくと、今隠れている大木も少なくなっていき、隠れ場所に困る事になるだろう。
(決めた。太陽を背にして市街地の建物の屋根に隠れて追跡)
そう決意をした後、敵の移動方向を弧を描くように空中移動をする、すぐに3階建ての家屋が数軒あったので、その屋根に着地をするとすぐに市街地に入った敵集団を見つけ単眼鏡でその姿を捉える。
「姉様、私の位置はわかりますか?」
『うん、端末でばっちり分かるけど視認できないね、状況は?』
「敵からの射線は通ってない場所でスコープで補足していますが…。あ、支援用の車両を確認しました。ナンバー、車種などのデータを取ります」
カメラと単眼鏡を手早く接続をして、もう一度敵集団を捉える。
『了解、射撃位置を変更する』
通信が切れた後、レナは少し位置を変えて支援車両と思われる黒のワンボックスカーを視界に収める。
その視線の先には、銃を隠した敵集団の5人が足早に車へと吸い込まれて行った。
レナには気が付いていないのだろう、妨害されずその様子を動画モードで撮影を進めて行く。
『こっちの射線に黒のワンボックスを捉えた。有効射程内だから弱装弾で臭気弾をぶつけてみるわ』
「街中ですから、誤射に注意して下さい」
ちょっとヒヤッとしたものを感じて瑠華に注意を促す。
『分かってるって。なるべく気を付けるわ』
数秒後、抑えた銃声が聞こえてからすぐにレナの捉えていた黒のワンボックスのルーフへ小さい着弾痕を確認する。
臭気弾はHSSの整備部が作った弾丸の一種で、弾頭には特殊な臭気を発する薬剤を詰めている、そのため着弾をしてもかなり衝撃は軽くこの距離では、敵に気が付かれる可能性は低い。
また逃走距離にもよるが、ある程度までは臭気をたどっての追跡は可能になっている寸法。
『これ以上、私達が出来る事は無さそうね。レナちゃんは本部に通信を入れながら帰投して。私は神社に連絡を入れてから戻るから。激戦区の戦闘も終わったみたいだし、最優先でこの情報を優先で伝えて』
「わかりました、あの…」
レナは答えながら言いよどむ。
『ん?』
「あの神人の偉そうな人と喧嘩しないで下さいね!私が居ないとエスカレートするんですからっ」
『あー、うん。・・・・・・がんばる!』
いつも楽天的に答える瑠華とは違う、微妙な答えに嫌な予感を覚えながらレナは本部へ通信を入れる。
「こちら水月レナ。秘匿情報を持って日向神社支援任務から戻ります」
『あ、はい了解。お疲れ様』
そう聞こえてきたティスの声に頷いて、再度飛行魔法を展開してレナは本部へと急いだのだった。
ただし、本部に戻って来た瑠華の表情を見て「やっぱり喧嘩したの…」と色々とレナが後悔するのはその30分後の事である。




