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39 日向神社にて

ナンバリングがずれでいたので修正しました

時空振動警報の発報が起きた時、日向神社では東京に本社がある企業の祈祷が行われていた。

防災無線や個人端末から発せられる耳障りな警報音や音声ガイダンスが鳴り響く中、防衛にあたる神人や巫女は避難誘導を後方支援の人員に任せて武装を整えていく。

「はいはーい、失礼しますねー!」

そこへ玉砂利を弾け飛ばしつつ、2台のマウンテンバイクから降りた水月瑠華とレナが止まる。

「HSSです、櫓を借りますっ!」

荷物をキャリアから降ろしつつ、瑠華が社殿の横の大木に作られた足場を登って行く。

レナはその様子を見つつ、マウンテンバイクに自分の思念をキーにした『魔法の錠前(ロック)』をかける。

近年、迎撃中にHSS団員の乗り物が盗まれる事が頻発したため、今は何かしらの鍵をかける事はマニュアル化されている。

なお、窃盗団はその後HSSの報復を受けて崩壊している。これがもとかの最初の実績となった作戦だが、それは別の話になる。

「姉さま、どこから狙います?」

櫓の上に着いたレナは、高倍率双眼鏡を取り出して瑠華に尋ねる。

その瑠華は、ケースを開けてカーミラを組み立てている。まず中折れ式のストックを固定し、スコープを取り付けると組み立ては完了する。

銃弾を装填済みのマガジンを装着をして準備は完了だ。

「まず、団長からの作戦指示に従って、市街地に出た中型以上の来訪者を狙うわ」

「姉さま『まず』という事は、途中で変更をするという事ですか?」

「うん、如月のお兄さん達が先行してエルフ居住区付近に居るから、支援をしようと思ってるの」

「そうであれば、本部に報告はしておいた方がいいのでは?」

「それが正しいのだろうけど、まだやるかやらないかは決めていないから本部に負荷をかけたくないわ。だから直前になって報告をする方がいいんじゃないかな」

コッキングをして、初弾を薬室に送り込んだ瑠華が言う。

「はあ…わかりました」

「私達には独立した裁量権を与えられているわ、それの枠内で動けば問題ないでしょ?」

「そうですね。姉さま、市街地の虚無が増加しています。まずはそっちから対応しましょう」

「りょーかい」

そう答えて、瑠華は自分の身体に肉体強化をメインにした魔法をかけていく、骨格を中心に強化をして対物ライフルの強烈な反動の影響を軽減する事が瑠華のスタンスだ。

それ以外の部分は、瑠華の狙撃の才能と言うべき身体の使い方で精密な狙撃を可能にしている。

「2時方向、虚無から来訪者が出現するまで・・・もうすぐですっ」

べったりと伏せて、カーミラのスコープに目を寄せた瑠華はレナの言葉通り、虚無の状態から鮮明な姿を現していく来訪者の姿を捉える、5メートルほどの筋肉隆々の体躯を持ち顔の大部分を占める一つ目が印象を与えるその来訪者は、サイクロプスと名称を付けられている。

サイクロプスも、ゴブリンのようにいくつかのタイプに分類されるが鎧や武器を装備したものや、腕部が発達したものなどに〇〇サイクロプスといったように、特徴をベースにした命名をされている。

今回、出現したものは来訪者の居る世界にある木を稚拙に加工した棍棒を持っているのでノーマルサイクロプスだろう。

来訪者が出現した当初、虚無の状態を狙って攻撃をする戦術が考えられたが、今では廃れている。

理由として、研究者の中から虚無の状態はこの世界と別の世界(と存在を仮に認められている)へとこの世界の武器や技術を意図せずに送ってしまう可能性がある為だ。

未だに来訪者の武器や戦術に大きな進化があまり見られないが、対来訪者戦では虚無への攻撃は厳に禁止されている。

「敵までは距離450メートル、風速は北西3~4メートル、気温21度、湿度は45%です」

「ありがと、手っ取り早く倒したいからヘッドショットを狙うわ。あの巨体で暴れられたら建物用の結界も耐えられるかわからないし」

「わかりました、着弾観測します」

スコープの照準をサイクロプスの頭部に向け、レティクルの中央をレナからもたらされた情報からやや前方に定めてから、息を止めて引き金を引く。

ズガゥゥンッ!と轟音と共に弾丸が発射され、櫓に薄く積もっていた土埃が立ち上る。

幾重も発動している魔法がその反動の多くを吸収するが、ズシンッと瑠華の肩にカーミラの重い反動が伝わる。

瑠華がまだ覗いているスコープのレンズに、サイクロプスの頭部に大きな血しぶきが上がりその巨大な頭部が砕かれた様子が映る。

つい先ほどとは違って、力を失った体躯が前のめりに倒れていく。

「着弾しました。サイクロプスの撃破をしたと確定」

「ラジャ。次の目標は?」

「支援要請のある目標は残り3、近いものは3時方向に実体化済みのアーマードミノタウルスです。距離は300メートル」

「それを狙うわ。装甲付きだけど兜は装備してる?」

「確認します…。簡易な金属製の兜を確認」

「ありがとっ」

カーミラをミノタウルスの方へ移動させながら瑠華が答える。

「結構、重装甲ね。狙点で狙えそうなのは…。こっちもヘッドショットを狙う」

スコープに映ったアーマードミノタウルスの頭部を見て、カーミラで撃ち抜けると判断をした瑠華は、先ほどと同様に銃弾を放つ。

銃声が消えたと同時に、頭を砕かれたアーマードミノタウルスが崩れ落ちる。

「次は?」

「1時方向に同じくアーマードミノタウルスが出現。ただ第2捜査室からの偵察では、対物理耐性持ちです」

「マガジンを魔法弾に切り替えるわ、そのミノタウルスの脅威度は?」

マガジン交換しながらレナに尋ねる。

「周囲の避難の状態は8割を超えていますが、残りの民間人がいるので脅威度は高いです」

スコープを再度覗くと、アーマードミノタウルスの姿が映るが周囲の高い建物に射線が邪魔をされている。

地図を確認して、次に顔が見えるのが5秒後であると脳内で計算をして、予想位置へ銃口を向ける。

「魔力充填開始」

引き金に指をあてて、体内の魔力を活性化させるとその魔力が、機関部に魔力を蓄積させる薬室を造設しているカーミラへ流れ込んでいく。

セレクターレバーを「マ」と書かれた位置に移動させると、銃口の先に魔法陣が展開される。

「姉さま、距離600メートルです」

「ラジャ」

そう答えた後に、十分に魔力が充填された魔力弾がちょうど建物の影から顔を出したアーマードミノタウルスに飛翔していく。

その軌跡はほぼ目視出来ないが、着弾時にアーマードミノタウルスの顔に一瞬、魔法の文様が見えた後にその頭蓋を粉砕する。

「ナイスです。次の目標は…」

「レナちゃん、レーダーを見てみて。なんか6時方向の情報が少ないのが気になるのよ」

「はい?」

「市街地からの情報は入って来るんだけど、エルフ居住区付近の情報が極端に少なくなっている。レーダーの反応も通信もほとんど入ってない」

「それは、旅団と騎士団が進出しているからじゃないんですか?」

HSSは人員の問題で、非公認の武装集団であってもそれらが進出している区域はある程度迎撃を任せるという手段を取っている。

「次々と来訪者が出現しているのに、エルフ居住区からの情報もあまり上がって来ないし。連中は撃破をすればこれ見よがしに戦果をオープンチャンネルで言うでしょ?それが今日はほとんどないのよ」

「確かにおかしいですね…。姉さま、飛行型がこっちを発見したようです。イビルイーグルが3羽向かってきています」

「そっちは私がやるから、レナちゃんはエルフ居住区付近を観測していて」

「了解」

そう言っている間に、イビルイーグルと名付けられた大型の鳥型の来訪者が日向神社へと向かって来る、

この来訪者は、羽根を広げると全幅5メートルに及び、鳥類の鈎爪にあたる足に加えて羽根の付け根にも副腕と呼ばれる鈎爪付きの短い腕を持つ獰猛な肉食の来訪者と知られている。

空戦型のそれは陸戦型の来訪者と違い、地形の影響を受けないので急速に近づいて来る。

その様子に気が付いた神人が迎撃態勢を取る中、瑠華は2羽まではスコープを使って仕留めて、3羽めは接近し過ぎていたのでスコープを使わずに撃ち抜く。

「つっ!」

連続射撃の影響で肩に痛みが走り、タクティカルベストのポケットから冷却スプレーを取り出して、痛みがある位置に吹き付ける。

「姉さま、大丈夫ですか?」

「問題ないよ。観測はどう?」

「はい、姉さまの懸念が当たったと思います。どうやら認識阻害か幻影魔法のようなものがエルフ居住区付近に展開されている可能性があります」

「厄介ね、その魔法の範囲はわからないけど、それに身を隠して来訪者が来たら困るし。そもそもなんでそんな大規模魔法を使ったのかな。来訪者か旅団か騎士団なのかはわからないけど。ん?この味方の反応は何?」

「それは、特殊遊撃室の方です。エルフ居住区へといち早く向かったので、彼らの周囲は認識阻害か幻影魔法の影響が下がっています」

「そっか、如月のお兄さん達か。お姉さんと美冬ちゃんが魔法使いだから周囲の魔法をかき乱しているから、見えているのね」

魔素が広がった今の世界では魔法使いや通常の人類は、自身に魔力を持っている。もちろん魔法使いの方が体に持っている魔力は多い、そしてその魔力は自身にかけられた魔法や周囲の範囲系の魔法に干渉した結果、その効果を弱めたり打ち消したり出来る。ただ、かけられた魔法が強い場合はその限りではない。

「はい、その後ろからは第二のもとかさんを中心にした小隊が合流を目指しています」

タブレットのマップを広域にしながらレナが補足する。

「状況は分かったわ。あたし達はエルフ居住区への警戒と支援に入ることにしよ?もし、如月のお兄さん達の先とエルフ居住区の戦力が足りない場合は、被害が広がる恐れがあるしね」

「それは良いのですが、日向神社の防衛はどうします?」

日向神社とHSSは、射撃ポイントに使っている櫓をいくつか貸与される事の見返りに防衛の手伝いをする事を協定で決められている。

「もう大型3体、空戦型3体を片付けている事と、作戦のメインは学園に敵を誘因する事だから。ここへの敵の脅威度は少ないはず。救援要請があったら消極的に対応しましょ」

レナの懸念をさらっと流して瑠華は、カーミラをエルフ居住区の方角へ移動させる。

その際に、増設した下部のマウントレールにレーザーサイトを付けた後にスコープを覗き込む。

かなり強めのレーザーを発する事が出来るモデルなので、数百メートル先でもそのレーザーを確認できる。

なぜ、そんなモノを装備したのか、

「レナちゃん、やっぱりエルフ居住区から東方面には何かあるわ。レーザーの屈折が変な事になってる」

レーザーを発射した瑠華が答える。

「決まりですね、情報魔術を展開しながら観測に入ります」

「よろしくね」

レーザーをいくつかの箇所に当てながら、瑠華は通信機を起動をして周波数を特殊遊撃室へと合わせる。

「如月のお兄さん達、支援はいりますかー?」

そう可憐な薄桃色の唇から、通信をいれたのだった。

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