37 HSS本部
時空振動の警報を受けて、HSS本部は騒がしくなりつつあった、即応部隊の当番となっていた生徒は授業中でも装備を着けていたため、いくつかの部隊が真っ先に集結しブリーフィングに入っている。
当番オペレーターの生徒が、端末のキーボードに指を走らせ、感知魔法使いからの報告と学園の所持しているレーダーからの情報の振り分けをして、岩戸市全体の戦域マップに情報を入力していく。
「本町付近、住民はシェルターに移動中、避難率は40%!」
表示だけではなく、新しい情報はヘッドセットのマイクで声を上げて情報を共有していく事も忘れていない。
「ブレイカーギルドから共同戦線の依頼有り、自警団は独自で初動対応、警察は自警団と動くようです」
そこに団長である、神代将直が本部に入って来て、戦域図を見ながら報告に目を通す。
「学内の武装集団はどう動いている?」
「はい、紅の騎士団と聖典旅団は行動に入っていますが、北岩戸町付近に向かっている事を感知した事を最後に追跡は出来ていません」
「あいつら…いつも通りとは言え勝手な事をして欲しくなかったな。どうするか」
学園非公認ながら、確実に来訪者を迎撃している二つの武装集団に対して、直は警戒を常にしている。
今回はどういった動きをするか、それらを不確定要素として直は作戦を考える。
そこへ新たな報告が上がって来る。
「団長!来訪者の出現情報です。多くは東町付近を中心に出現、近隣に居たブレイカーと自警団が避難誘導と迎撃に取り掛かっています。次に多いのは学園方面で、多くは学園に向かっていると思われます」
「大型のメインはこっちに来そうだな。北岩戸町にも大型が数体と小型が数十体単位で出てくる予兆がありそうか…」
「作戦はどうするの?」
そこへ本部に到着をした副団長の塔依代マナが直へ聞く。
作戦中はHSSでは敬語は使わないようにしている、情報伝達に障害になるための措置として団員には浸透していた。
「この規模だと、建物の結界が破られて被害が出る可能性がある。まず学園周辺と東町付近の来訪者を学園に引き込んで、正門広場で殲滅する。第1目標は生き残る事だ、各員は無理はするな。第2目標は住民の被害を防ぐこと。作戦は大きく2つに戦力に分けて、来訪者の前面で誘因する部隊と、その後ろから網から漏れる連中を攻撃する部隊に分かれろ。第3の空挺は後ろから追い立てるように動くように。第1、第2、第4は敵の誘因をメインに、ただ第2は情報収集をメインにして、異常があったら情報を本部に上げてくれ」
そう指示を出した後、周囲に集まってきた各捜査室の室長を見渡す。
「情報収集の範囲は?北岩戸町には、旅団と騎士団が向かったらしいけど、そっちの戦況も見る?」
と直と同様に、騎士団と旅団への警戒感を共有しているもとかが聞いて来る。
「ああ、あいつらが何を考えているかわからないが、何をしているかを探ってくれ。もちろん連中がやられていたり、異常があればその情報を早く上げてくれ」
「りょーかい!」
自分の作戦具申がうまく行ったもとかが、ニコッと笑顔を見せる。
「団長、特殊遊撃室の連中はどう動かすつもりですかい?」
と第3捜査室室長の東が聞いてくる。HSSでも歴戦の彼は既に空戦用の魔導鎧に身を包んでいる。
「特撃室には特に指示を出していないが、彼らは既にエルフ居住区の方へ向かっている。その判断でいいから、そのまま判断をまかせるつもりだ」
「へえ、信頼してるんだな」
「エルフ居住区の方面だったら、騎士団と旅団の向かった方向に近いけど、共同で情報収集を依頼してもいい?」
そう、もとかが聞く。
「いや、特撃室は3人の小規模部隊だからそこまでは無理だろう。第2から何人か回してくれ。必要そうであれば、支援要請をしてもいい」
エルフ居住区の自警団もそれなりに居るが、質はHSSに及ばないため特撃室に加えて、数部隊の展開を想定している将直。
「わかったわ、それじゃあたしと加賀美君が向かうわ。北方面の規模は少なそうだし東町のほうは戦域が広がりそうだから、人員の層はそちらに回した方がいいしね」
「おいおい、室長自らが行くのか?作戦指示はどうするんだ?」
あきれたように東が言う。
「うちの子達は、ある程度の指示をしておけば大丈夫だし、加賀美君が居れば定期的に本部に情報を中継できるからね」
自分の捜査室の団員を「うちの子」扱いをしても、反発を持たれないのはもとかの人徳が関連しているようだ。
「それなら大丈夫か、それじゃ俺達は屋上カタパルトから出撃する」
「よろしく頼む。俺とマナは最終防衛ラインで迎撃する予定だから、無理そうな奴は通して構わない。では作戦開始!!」
「応!!」
「いってきまーす」
と各々の返事をして団員が出撃していく。
それを見送って、直とマナは徐々に来訪者の出現数が増えていく戦域図に目を向けた後、装備のある団長室へ入って行く。
その中のロッカーを開けて、制服を脱いで魔導鎧を着こんでいく直、その動きには淀みが無く次々と入って来る戦況を聞きながら準備を完了する。
今回は最終防衛ラインで激戦が考えられるので、対刃繊維の戦闘服の上に装甲を多めにつけている。
対してマナは、カーテンを閉めた簡易な更衣スペースで制服を脱ぎ捨てて、下着姿になっていた。
真っ白な肌とほっそりとした肢体を覆う白い上下の下着は、見る者がいれば扇情を覚えてしまうものだった。
その上に、魔術を付与をした対刃繊維の長袖のアンダーシャツと、スパッツを履き女性用の戦闘服を着込む。
将直と違うのは、装甲の類は身に着けず魔法を付与しているアクセサリー系の道具を多数身に着け、その上にローブを羽織りMLPの杖を取り出して準備が完了する。
「ねえ、なんで特撃室を先行させているの?」
長い銀髪をゴムでまとめながら直に問いかける。
「ああ、彼らの出撃が早かったのでこちらが作戦指示をする段階で、もうエルフ居住区近くの戦域に近づいていたからな。そこで呼び戻しても無駄が生じる」
「もう出撃していたの!?即応性は第3といい勝負じゃない」
「それに、彼らが行った戦域は騎士団と旅団が向かった場所だ、何かあれば対処してくれるんじゃないかな」
戦域図の神鎮の森付近を見て、楓達の位置周辺を見ながら将直は解説をする。
「…なるほどね。それで戦力の補填にもとかさん達を向かわせたのね。でも、それで足りる?下手をすると対人戦も考えなくてはいけないんじゃない?」
状況を正確に理解しているマナに少し性格の悪い笑みを向ける将直。
「ウチには独自に行動を許可されているチームがいるだろう?大っぴらに俺達が肩入れをしているように見える事は良くないが、団員同士の支援ならその問題を回避できるはずだよ」
「ちょっと、不確定要素が多すぎない?・・・なら、あたしも干渉させてもらうわ」
そうマナが言うと、どこから入ったのか黒猫がマナの横にちょこんと座っていた。
「特撃室に着いて行って、何かあったら助けていいからね」
『にゃ!』
そう黒猫が答えて窓から飛び出ていく。
「使い魔を送り込むのか、マナも彼らに入れ込んでないか?」
「それをあなたが言いますか。それより最終防衛ラインの作戦を防衛部隊と決めましょう」
「わかったわかった」
そう言い合いながら、2人は本部へと戻って行ったのだった。
※主要キャラクターの名称を変更しました。
前:神代直
後:神代将直
以前のエピソードの当該箇所は、修正をかけます。
ご迷惑をおかけしてすみませんです。




