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35 危機の予感

 楓が稽古に集中していると、道場の扉が開き美夏が入ってくる所が目に入る、時計を見ると7時半過ぎになっているので迎えに来たのだろう。

きちんと一礼をして道場に足を踏み入れるところは、実家と一緒の所作をしているので楓は安心する。

「皆様失礼します。弟を迎えに来ました」

良く通る澄んだ声が道場に響く。

その姿に主に神人達が目を奪われているのも無理もない、エルフである事もあるが小柄ながらもその存在を主張している胸の膨らみが可憐な容貌とのギャップを見せ、そして赤みがかった銀髪が朝日を浴びて不思議な煌めきを見せているから、妖精(エルフ)と言われる雰囲気を醸し出している。

「美夏ねぇ、分かった。準備するからちょっと待っていてくれ」

今まで稽古をしていた神人に一礼をして、更衣室へと向かう楓に霞が声を掛ける。

「シャワー室は更衣室の傍にあるから汗を流していくといい」

「ありがとうございます」

そう答えて更衣室へと消えていく楓を見やって、美夏は稽古の邪魔にならないように霞に声を掛ける。

「稽古の受け入れありがとうございます。姉としてお礼を言わせて下さい」

そう声を掛けられた霞は壁際へと美夏を誘う。

「いや、こちらも刺激になっているようだ。楓君から神人や巫女も何かを得られるだろう」

そこで声を潜めて美夏の耳に口を寄せる。

「実はウチの若手の神人の中でリーダー格の者が突っかかってしまってな、楓君に措置を任せた形になったがあの者にはいい薬になったようだよ。だから礼は不要だ」

そう聞いた美夏は、軽く頭痛を覚える。楓は好戦的な気質ではないが、相互主義者だ、その中のいくつかの条件が挑戦に応じることになったのだろう、後で事情を聞こうと決める美夏。

「弟が無礼な事はしませんでしたか?次回の稽古から何かのトラブルに発展しそうですか?」

「いや、無礼なのはウチの神人だ。心配している事態にならないように私が対応するので安心してくれ」

「…信じる事にします」

「ああ、任せてくれ」

そうしっかりと美夏の目を見た霞の目には真摯な光をみて、やっと美夏は安心をしたのだった。

「美夏ねぇ、お待たせ」

軽くシャワーを浴びてすっきりとした様子の楓が制服に着替て美夏の傍にやってきた。

「霞さん、今日はありがとうございました。また次回もよろしくお願いします」

そう言って2人は道場から出て行く、道場の外には美冬と百合が話をしていた、二人とも会ったのは2回目だが、性格があったのだろうか、完全に打ち解けている様子で笑顔交じりの会話をしている。

「美冬、迎えありがとう。百合さんおはようございます」

2人の様子に微笑ましいものを感じながら楓が声を掛けると、こちらを向いた百合が同じように挨拶をする。

「俺はクロスバイクで来たが、2人はどうやって来たんだ?」

「あたし達は、ローラーブレードと肉体強化魔法を使って来たの」

「なるほどね。バイクが来れば良いんだが…すまないな」

「そんな事、気にしないでいいよ。魔力はすぐに回復するくらいだから、楓にぃと美夏ねぇ早く学校に行こ?」

そう小首を傾げた美冬のポニーテールが揺れる様子に、真二郎とのやりとりで微かに残っていたモヤモヤがスッと消えていく。

「ああ、行こう。百合さんまた」

そう挨拶をした楓達に、百合は裏参道に楓達が出て行くまでその姿を見ていたのだった。


「楓、言っておく事があるわ」

ふわぁ、とあくび交じりに美夏が口を開く。

「ん?」

「今日の時空振動予報を見た?」

「いや、まだだな」

「今日の予報が朝方に局所的な大型の時空振動の予報に切り替わったのよ。それから気になった事があったから調査をしていたの」

どうやら、寝ていたと思っていた美夏は楓が出る時間には起きていたらしい、朝が弱いはずの美夏が眠そうなのはそのためだろう。

「それで、結果は?」

「うん、まず起きる区域はこの学園付近が一番高く、規模も大きいわ。まあ、それはDゾーンではよくある事だけどね。気になったのが、地元付近で起きていたエルフ失踪事件と様子が似通っているの。ちょっとこれを見て」

と、愛用のタブレットを楓に差し出す。そこには既に美夏の調査結果の情報が表示されていた。

宝翔学園を中心とした、岩戸市と周辺の街の地図で赤い光点と傍には日時、人種、人数、性別が書かれている。

「これ、過去に同じような事象が起きた時に失踪したエルフの情報なの。地元より頻度が高いから調べやすかったんだけど、結果からわかる事は同じタイミングで失踪するエルフが居るって事」

「そう言えば、エルフの失踪があるって聞いたね」と美冬。

「うん、そうなんだけどエルフだけじゃなく人も魔法使いも混ざっているのよ」

「これはマズイ気がする。警戒態勢を取れるか本部に掛け合ってみるか?」

それもそうなんだけど、気になる点があってね。もちろんHSS、自警団、ギルドの対処が薄いところで失踪は起きている。で、その区域を担当していた防衛組織がもう一つあるのよ」

そこで美夏は一息をつく。

「聖典旅団、規模はHSSほどではないけど近年、学園内と外で岩戸市での対来訪者戦に介入している武装集団よ」

「ふーむ…。でも根拠にはまだ弱いんじゃないか?」

「まあねー。調査に3時間しか使えなかったし。ただ、気になるのは確かなのよ。どうするかな…」

考え込む美夏を見て、美冬が口を開く。

「だったら、あたし達で動けばいいんじゃない?もし、今日同じことが起きそうならその戦域に行けばいいのよ。何しろ、あたし達は特殊遊撃室なんだから。HSS本隊に組み込まれそうでも動きようはあるんじゃない?」

「そうだな、そうしてみるか。もし、時空振動が起きたら特殊遊撃室に集まってから状況把握、そして美夏ねぇの調べてもらったと同じような状況にある戦域を確認後、そこに出撃をする」

「ふう、それしか無さそうね。これはギルドも気が付いているのかな」

「あ、そう言えばギルドに1度顔を出さないとだったね。もー!引っ越して一週間なのにやる事多いー!」

若干キレ気味で美冬が叫ぶ、美少女である美冬が叫ぶ様子は見た目とのギャップが高いので、もし友人が見たら一瞬引くだろう。

「まあ、ネットから転入届はギルドに出しているし最低限の事はしてるから呼び出しが無ければ、大丈夫じゃない?」

美冬を抑えるためにその背中をさする楓。

「あーたーしーは、馬じゃなーい」

ぶんぶんと腕を振る美冬だが、それが不機嫌なふりな事を知っている楓は、美冬の呼吸が落ちつくまで背中をさすり続ける。

「うん、もう大丈夫。ありがと」

ようやく美冬のイライラが収まったのは、学校の北門が見えたあたりだった。

それまで、飽きずに楓が背中を撫でていたのだが特に面倒とも思わない楓だったりする。

しかし、その間に美夏が楓の制服の裾を握っていたので、姉の機嫌もとらないとなと思っている楓は、頼られている事に嬉しさを感じているのはもしかしたら第三者からは違和感を覚えられるかもしれない。

そんなやり取りを一旦置いておいて、3人はそれぞれの教室に急いだのだった。

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