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34 日向神社で初稽古(波乱含み)

次の日の早朝、楓は時間通りに目が覚めて日向神社に向かう準備をする。

しっかりとした朝食は後で食べる事にして、ゼリー飲料を3パック腹中に納めて空腹を抑える。

いつも通りの武装を着け、授業の色々を入れたバッグを肩にかける。

姉と妹はまだ寝ている、一緒に来るとは言ったが昨日の夜に楓がそれを止めた。魔法使いは疲労がたまる事が多いため、睡眠時間の確保する事で説得をした結果だ。

 2人から離れるのは不安であるが、保険として闇切丸を美夏に預けてある。何かあった場合は闇切丸の力と楓の力を使えば最悪の事態に陥る事は無いはずだ。

代わりに灼紅という銘を持つ、Dランクの魔剣と感知魔法の特性のある無銘の魔剣を携えて楓は日向神社へ向かったのだった。


・・・

移動のため急遽購入した、クロスバイクに乗って走る事20分、楓は日向神社に着いていた。

門は開いていて神人は出入りしている事を見ると神社は開いているようだ。

自転車置き場にクロスバイクを置いて、門へと向かっていくと楓に気が付いた神人が用向きを尋ねてくる。

「霞さんに言われて、朝稽古に来ました。稽古場はどこでしょうか?」

「ああ、君か。話は聞いているよ、こっちだ」

その神人が案内をしてくれるらしい、回廊を抜けて本殿の裏手に行くとかなりの大きさの稽古場が立って居た。

これだと、50人は同時に稽古が出来るのではないだろうか、と楓は感心をする。

「霞さんはこの中に居る、がんばってな」

「ありがとうございました」

背を向けて去っていく神人へ礼儀正しく感謝を伝える。

「如月君、おはよう」

ぶっきらぼうな女の声が頭の上から降ってくる。

見上げると予想どおり、霞が前に会った時と同じような仏頂面で立って居た。

既に稽古を始めていたのだろうか、黒い道着から微かに湯気が見える。

「さ、着替えはこっちだ。道着は持っているか?」

「ええ、実家のものがありますから」

「わかった、まず皆に紹介をするから早く来てくれ」

「はい、それでは失礼します」

道場に入る時に一礼をして中に入る、すると中で稽古をしていた者達のほとんどの視線が楓に向けられる。

神人だけと思いきや巫女と思われる少女や女性もいるところを見ると、男女交じっての稽古をしている。

それらの人々から送られる値踏みするようなもの、異質なものを見るものなどの視線が突き刺さるがそれに臆する事は無く、更衣室へと楓は入って行った。

実家で使っている道着に着替えた楓が出てくると、早速霞が皆の前に連れて行かれる。

どうやら、この中では霞が師範のような役割をしているらしい。

「皆聞いてくれ。この少年は、以前伝えた通り飛騨にある神鳴神社の御子息だ。宮司様の許可が下りたので今日からウチで練習生として稽古に交じる事になった。鹿島神門流の流れを汲んでいる流派なので同流と考えていい、よろしく頼む」

「今ご紹介いただいた、如月楓です。よろしくお願いします」

霞の同流という言葉に、先ほどから感じていた不快な視線は減ったような気がする。

「それでは早速だが、準備が出来たら相手を見つけて試合稽古に入っていい…」

「ちょっと黒巫女、いいかな」

そう霞の言葉を遮って、一人の青年が声を掛けてきた。

楓もそちらに振り向くと、先ほどから値踏みをしている視線を飛ばしていた青年だった。

上背もあり、がっしりとした体格をしており、稽古では相手を次々と打ち負かしていたので実力はあるのだろう。

「真二郎。なんだ?」

「いえ、我々の神門流は伝統のある流派。その稽古に同流とはいえ、実力もわからない者を交える事はその伝統を汚すのではないかと心配しております」

どうやら、端的に言うと自分に自信がありまくって、他の流派より自分が高みに居ると思い込んでいるタイプだなと楓は冷めた目で真二郎と呼ばれた青年を見ていた。

「ふむ。如月は地元や先日の来訪者襲撃の際にも十分な戦果を上げていると聞いている。それで不十分か?」

「聞けば、如月君のブレイカーランクはCとか。ここに居る神人や巫女は低くてもBランクに達していると自負しています。弱い者が入った際の影響はどのようにお考えですか?」

どうやら、特別待遇でぽっと出の練習生が来た事が気に入らないんだろうなと楓は思っていた。

ていうか、Bランクに達していると自負ってなんだよ、ブレイカーギルドの試験を受けてないのかよ、と心の中で突っ込みが止まらない。

とはいえ、このまま話しても納得はしない雰囲気になっている。

「それでは、如月と立ち会ってみると良いだろうな。如月いいか?」

少し考え込んでいた霞が水を楓に向ける。どうやら真二郎という男は雰囲気から、神人からの信頼が厚いようだ。その真二郎の意見を無碍にする事は霞としてはやりにくいのだろうと見当をつける。

とはいえ、

「え、マジですか」

今までの余所行きの口調が、年齢相応の砕けたものになってしまう。

「このままでは、稽古が始まらない。いきなりで難だがそこを頼めないか?」

「…わかりました。黒巫女の言う事は聞け、と母に言われていますので」

そう答えて、真二郎の前に立つ楓。

「それでは、よろしくお願いします。センパイ」

そう言って、試合のための印が書いてある場所に移動をして睨みあう2人。

「では、始め!」

審判役の霞が号令をかける。

「俺は、鹿島神門流初伝。加藤真二郎!」

名乗りに気合を載せて威嚇をしてくる真二郎。それに特に反応せずに楓も名乗りを上げる。

「上泉神流中伝。如月楓」

その名乗りにザワッと周囲がどよめく、それも無理も無い。剣術においては伝えられる技の段階として初伝、中伝、皆伝、奥伝というものがある。

たった4段階だが、その分それぞれのレベルの開きは大きく初伝と中伝では実力も差が担保されているという事になる。

とはいえ、そんな名乗りも技のレベルも目の前の手合わせには全く関係が無い、意識からそれらの雑念を排除をして木刀を中段に構えて意識を透明にして、精神の波長を整える。

「やあっ!」

真二郎が木刀を大上段に振りかぶり、間合いを徐々に詰めてくる。上背があるので上段の構えは悪い判断ではない。並みの剣士では上段の構えのプレッシャーに負けて気が萎えた瞬間に痛撃を食らわせられる。

それに対して楓は剣先を少し傾けた状態で待ち受ける態勢を取り、真二郎の動きを観察する。

「シィッ!!」

間合いを詰めた真二郎が凄まじい勢いで木刀を振り下ろして来るが、その側面に楓の木刀が絡みつく。

バキッッという木刀同士がぶち当たった激しい音が道場に響き、真二郎の木刀の剣先が床に激突する。

衝撃に木刀を取り落とした真二郎の眼前に、真二郎の木刀を絡めとった勢いそのままで、楓の木刀が突きつけられる。

上段からの振り下ろしは、重力も利用できるため生半可な絡めでは押し切られる事が多いが、剣先の角度を微妙に変えたことで威力を減衰させ、それに気が付いた真二郎が軌道修正を試みた隙を突いて楓の木刀が真二郎のそれを叩き落とし、その反動で木刀を突き付けたのだ。

「真二郎さんの上段が破られた…?」

「うっそだろ、あの勢いをいなせるのは数人もいないのに」

ざわざわと周囲が騒いでいる中、楓は静かに真二郎に問う。

「センパイ、まだやりますか?」

そう言われた真二郎は、顔を赤くしていた。それに込められたのは怒りか羞恥なのか。

真二郎にとって堪えたのは、楓はその口調には全く感情が無い事だった。

目の前の後輩にとって、今のやり取りは特別なものではなくただ邪魔なもの排除しただけなのを思い知らされた。

「いいや、まだまだ!」

木刀を握りなおしして、真二郎は八相の構えから突きを繰り出す、だが途中で軌道を変えて楓の肩を狙う横切りに切り替える。

(今度はフェイントを交えて来たな、でもこの動きには体の捻りに無理が生じる)

そのタイミングを見切って木刀を下から切り上げを行い、横切りの木刀を弾く。

その結果、真二郎は反動で泳いだ体を戻そうとして木刀が浮いた状態になってしまう。

(寸止めで分かってくれないから、ちょっと痛いですよ。センパイ)

木刀の勢いを利用をして、真二郎の脇腹に楓の一撃が吸い込まれる。

「ぐっ…ふぅっ!」

鈍い音がして、真二郎が膝を突く。

「そこまで!」

頃合いと見たのか、霞が試合を止める。

「真二郎、少し休んでいろ。それではマトモに動けないだろうからな」

蹲った真二郎を、2人の神人が道場の壁際に運んで行く。

「他に、如月の稽古参加に反対するものはいるか?」

じろっと霞が門人を見渡すと、特に異論をはさむものはいなかった。

「では、稽古を再開する。時間を使ってしまったため、試合稽古に入るから準備をしろ。いつも通り適当な相手を見つけて稽古を進めるように。なお、如月があぶれた場合は私が相手を指名するからそのつもりで」

楓に面倒ごとを押し付けた事による謝罪を含めた門人達への指示を聞いて、門人達に緊張が走る。

「では、稽古を始め!」

楓の目の前には、緊張を残したままの門人が立つ。どうやら、自主的に稽古の相手になってくれるらしい。

「如月だ、よろしく。神門流の剣筋を学びたいのでよろしく」

そう緊張をほぐすように声を掛けると、その門人は明らかにホッとした風で礼をする。

それに返礼をして、楓は稽古に入ったのだった。

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