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3 ステージ裏のマナともとか

「…ふう」楓達を見送ったもとから、ため息が漏れる。

「お疲れさま」

舞台の袖から1人の少女が出て来てもとかにねぎらいをかける。

「あら、マナ。入学式の準備はいいの?」

マナと呼ばれた少女は日に輝く銀髪と濃い夕焼け色の瞳をした、儚げな印象を受けるが誰もが認める美少女。

その肩書はHSS副団長、余人を許さない多系統の魔法を操る「ナイトメア」指定の天才魔法使い。

「ええ、私は新入生への案内しか言わないしね。刈人は必死に原稿読んでたけど」

控えめな微笑を口元に浮かべながらマナが言う。

「それにしても、副団長のマナが来るなんて、何かあった?」

「うん、ちょっとね…。ミケミケが、紅の騎士団の杉原さんと魔術研究部の大城さんが、あの三兄妹を見ていたのを見つけてね」

ミケミケとは、マナの使い魔のカラスである。

「あー…あいつらかぁ」

納得と嘲りが混じった慨嘆を漏らすもとか。

「それで気になって来たのよ、正直もとかさんがあの三兄妹に着いていたから助かったわ」

「別に意図は無かったんだけど、気になった組み合わせだったし、弟くんの洞察力に興味が湧いたから話しかけたくらいよ?」

「偶然にしろ、杉原さんにはプレッシャーになったはず、もとかさんが居たおかげで、接触は避けたみたいですよ」

「ふうん…。で、なんであの兄弟姉妹を気にしているようだけ?」

相手が副団長であろうと、誰であろうと気になる事があれば、ズバリと聞くのがもとかの性格の一端を示している。

それがたとえ立場が目上でも気にしない。

「さすがもとかさんね」

「で、何があるの?」

「彼らのパーソナルデータは、ある程度まで見られたんだけど、深くはわからないわね。実家は飛騨地方にある縁結びで有名な神社ね。特に母親は知られた対魔巫女として、若い頃は暴れていたみたい」

「なんか、意外ね。そんな匂いは彼らからしなかったのに」

「父親は、自衛陸軍にいたらしいけど、部隊などは、サッパリ不明。分かってるのは4年前の都心防衛戦に投入された後、行方不明って事ね」

「へえ、結構掴んでいるのね」

そう言って腕を組もうとしたもとかがフラついて、バランスを崩しそうになる。

「大丈夫?」とっさに支えたマナが心配そうにもとかを覗き込む。

「ウン、少し目眩がしただけ。大丈夫よ」

「どうしたの?」

「この頃、変な夢を見て寝つきが悪いのよねー」

「どんな夢?」

「うーん、なんて言うかな。同じ毎日を繰り返している夢なのよね。デジャブよりかなり生々しいのよ」

「予知夢かしら」

「わからないわね。ただ、その夢では最後に私が誰か達?に消される。そのショックで起こされるのが、ここ一週間続いていてねー。眠りが浅くて美容に悪いわよね」

冗談混じりにそう言うもとかをマナは呆れた表情で見つめる。

「それ、かなり心配ね。誰かに相談した?」

「それがねー。不思議と相談しようとすると、それを忘れているのよ」

それを聞いて益々、愁眉を曇らすマナ。

「放課後、保健室で美晴先生のカウンセリングを受けて。これは副団長としての命令です」

「えー。柊先生に呼び出されているんだけど」

「また歴史で赤点ギリギリなの?それが終わったら、必ず保健室に行くこと。いい?」

「はあい」

「それじゃあ、そろそろ入学式に行くわ。もとかさんは?」

「聖輝軍やエルフ排除連盟の人が入り込んでいるみたいだから、体育館内で警戒しておくわ。堅っ苦しいイベントはよろしく」

そう言って体を翻してマナに背を向けて去って行くもとか。

「現実感のある悪夢…。引っかかるわね。そう言えばもとかさんは、あの兄弟がブレイカーなのか、何故聞かなかったのかしら」

考え込みながら、折り畳み式のタブレット端末を呼び出す。

画面を触るとサスペンド状態から復帰し、インターフェイスの中から目当てのアイコンをクリックする。

その瞬間、画面から5センチ程度の空中に複雑な文様で形成された、光る魔法陣が浮かび上がる。

魔法が生まれてから今まで、様々な発動方法が人倫などを無視をして実験され、その結果徐々に安全なものが生まれている。

その方法としては、魔力の発動体と呼ばれる器物を所持して魔法を使う方法である。

また、魔法が体系化されている現在では記憶の補助として電子機器に魔法陣などの情報を入れたものを使っての魔法の発動がメジャーになっている。

使用者の能力によるが、高レベルの魔法使いになると意識するだけで使用できる者もいる。

「江戸川さん」

『はい。副団長どうしました?』

「今日の来訪者の出現予測は出来てる?」

来訪者予測とは、突如として出現する事が多い来訪者に対抗をして、人類が生み出した予測手法だ。

例外はあるが、急な空間のブレによる周囲環境の変動を元に政府やブレイカーギルドが発表している。

『もちろんです。政府発表、ブレイカーギルドの発表もカバーしています。今日は午前は10%、午後は20%ですが夕方ごろは不確定要素が多いのでHSSでは50%以上を見込んでいます』

爽やかな青年の声がインカムを通して聞こえてくる。江戸川と呼ばれた青年は、HSSのオペレーターの1人の高等部1年のイケメンと言われている生徒だ。

「高いですね。これから警戒のための監視魔法を各所に置くので、解呪する時は私に連絡をするように団員の皆さんによろしくです」

『え、副団長自らですか?』

「念のためですよ。負担になりそうでしたら、誰かに引き継いでもらいます」

『・・・わかりました。連絡はまかせてください』通信は江戸川の方から切れる。

「さて。オブジェクト選択…拡散する水晶の瞳・・・展開」

合成されたクリック音の後に、魔法陣が軽く光って弾けて消える。

「思い過ごしだといいんだけどね、刈人もわかってくれるでしょ」

そのマナの耳に入学式があと5分で始まるアナウンスが、スピーカーから流れてくる。

無言で放送を流したスピーカーを一瞥し、銀髪の少女はその場から歩み去って行った。

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