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25 瑠華とレナの戦い

 日向神社に設置されているスナイプポイントで、射撃待機をしている瑠華にレナが話しかける。

「姉さま、ここから来訪者の出現予定位置を狙えます?」

「現時点の情報を信じた場合だと、射角も射界も取りにくいねー。立ち回りとしては、ここを協定に従って守る事にするか、時空振動が起きている場所の来訪者を狙うかのどっちにするか、かな」

スコープを調整しながら、難しい顔をして瑠華は答える。

「他のチームはどこ?」

「今は6チーム動いています。残りのチームには招集がかかっているので、あと数チームが稼働予定。展開位置は学園を中心に輪形陣を組んでいますわ」

輪形陣はいわゆる艦隊戦で使われる陣形とほぼ一緒で、学園を中心としてほぼ均等にスナイパーチームが展開している状態と思っていい。

「再開発地区に近い南東方向はともかく、北方面は居る意味あるのかな…」

「そっち方面は、第2所属のシシリーさんのチームです」

シシリーとは、アルベールという男子生徒と組んでいるの男女のスナイプチームのスポッターの名前で、第2捜査室唯一のスナイプ担当になっている。

捜査室の特性として、情報収集に偏っているので瑠華から見ると守りに偏っている評価をしている。

「思ったのですが、私達で戦線を引き上げましょうか。このまま再開発地区付近に来訪者の数が集まるとカバーが厳しいと思います」

「よしっ。場所を動こう、この神社は黒巫女さんもいるし今の状態では不意打ちを受けにくいでしょ。レナちゃん、装備を纏めて駅南のベルキャッスルの屋上に行くよ」

「わかりました」手早く装備を纏めるレナを見ながら、瑠華は飛行魔法の詠唱に入る。

「リース・カル・ザイル・・我に仮初の翼を与えよ!」

「姉さま、準備OKです」とレナが瑠華に掴まる。

「迅風の羽根(ホーク・ウィング)!」

ふわっと二人が日向神社の木々の上に浮かび上がる。高度が十分になった瞬間、一気に目標地点まで空中を翔んで行く。

迅風の羽根は、いくつかある飛行魔法のうち2番目の速度を持つ高等魔法とされている。

その為、目的のベルキャッスルという名前のマンションの屋上のスナイプポイントまでは、1分程度で到着が出来る。ほぼ直線移動なので、小回りが利きにくいというこの魔法の欠点は無視出来る。

「本部、こちら水月チーム。既定のポイントからベルキャッスルポイントへ移動します」

飛行魔法の制御に集中している瑠華に代わって、レナが本部へと通信を飛ばす。

『こちらティス。了解したわ、移動については特に問題は無し。目標指示も無いので判断は任せるわ』

「わかりましたわ、ティス様」

『あはは、様は要らないわよ。気を付けてね』

「とうちゃーく」

通信が切れた直後に、瑠華とレナはベルキャッスルのスナイプポイントに到着をする。

そこは、地上30階建てのマンションの屋上のポイントで、マンションの室外機や貯水層が置かれており、高さも含めて見晴らしと隠蔽がしやすく有利なポイントの一つだ。

その一角にHSSの設置した屋根付きの構造物があり、メインの隠蔽場所として使われている。

その場所に二人は滑り込み、準備を始める。

「レナちゃんは、索敵に入って」

「ちゃん、は止めて欲しいとあれほど…。いえ、わかりました」とレナは双眼鏡を使って索敵を進める。

その間、瑠華はカーミラの準備を終えて射撃待機の状態で端末にHSSからの広域レーダーを表示させて周囲の様子を見る。

複数の来訪者の群れが感知されていて、そのうちのいくつかは南側に居るチーム、どこかの部隊、ブレイカー、自警団のいずれかが処理をしたようだ。

ただ、現出は未だに終わっていないのですぐに新しい来訪者を示す光点が表示される。

「姉さま、D6の群れがフリーです、ゴブリン6、ホブゴブリン1の混成部隊。これを狙ってください」

「はーい」と指示された位置にスコープを向けて敵を視認する。彼我の距離は300mほど、対物ライフルでは十分すぎるほど近い距離だ。

「鋼機なる精霊よ、我が身体を鈍色の眷属とさせて。巡りの精霊よ、我が血潮を鎮めよ」

対物ライフルは13歳の少女が使う生身で使うものではない、その為魔法で衝撃と神経系ダメージを防ぐために身体と循環器の能力を増加させる魔法は必須であり、瑠華はそれを得意としている。

トリガーに指をかけて、レティクルが合ったゴブリンに向けて引き金を引く。

距離的に偏差は少なくていいので、ほぼ考慮しない。

ガゥゥウンッという大音響がして、ホローポイントの初弾が狙ったゴブリンを貫き、更に数匹のゴブリンがその着弾の衝撃波で倒れていく。

その様子に慌ててホブゴブリンが周囲を見渡すが、何が起きたかわからないようだ。

「弱装弾を使っているのですか?」

「・・・っ」

レナの質問に答えずに、倒れこんだゴブリンに止めとなる銃弾を連続して撃ち込む。

同時にズシンッという衝撃が連続して瑠華の身体を蝕む。

「ホブゴブリンを逃した、本部に連絡をして。あと周囲の自警団にも情報を送って」

「はい…OKです」

レナが必要な情報を伝達した事を見て、瑠華がさっきの問いに答える。

「ありがと、さっきの質問だけど。街中だから弱装弾にしたの」

瑠華はマガジンのボディに『よわよわ』と書かれたものを指さす。通常、カーミラで使われる口径の銃弾をこの距離で街中で使うと対物ライフルの名前の通り、跳弾、貫通した銃弾が建物や味方へのダメージを与える可能性が高い。

弱装弾はその名の通り、威力を下げて命中率を上げたものなのでそう言った可能性は減る。

「さて、あのホブゴブリンはどうなったかな」

「えっと…。あ、人が来ました」

「ん?誰かわかる?」

「さっき、神社で出会ったお兄さんですわ」

「じゃあ、ホブは楓お兄さんが倒してくれたのかな」

スコープを覗き込みながら、楓の周囲を探査する瑠華。

「…ふふっ」

急にレナが笑う、こんな事は珍しい。

「楓さん、こっちに気が付いたみたいですね」

「あ、ほんとだ」

2人は楓がこちらを見ないように、だが認識している事をわかるように一瞬だけ見せたサムズアップに気が付いて微笑ましい気持ちになる。

どうやら、彼はそれなりの戦闘経験があるようだ、今見せた気づかいもそれから来ているのだろう。

「レナちゃん、飛行型が来る。…羽根がちらっと見えたからハルピュイアかも」

予備の弱装弾のマガジンを交換しながら、瑠華が注意を促す。

「確認します。楓お兄さんと共闘できるといいですね」

「うん、敵を引っ張ってきてくれたら協力しようね」

そう言って、瑠華はまた射撃体勢を取り始めたのだった。

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