22 スナイパー姉妹
如月兄妹を見送った瑠華とレナは、そのまま神社内にいくつも配置された梯子の一つのうち、本殿左側を登っていく。
そして、瑠華は巨木に設えられた狙撃用の拠点(通称は櫓と呼んでいる)にカーミラをバイポッドを展開をして据え付ける。
その横でレナが交換用マガジンを取り出し、高倍率の双眼鏡を用意する。
一通り戦闘準備を整えた後、時空振動の予報率が少ない今日は基本的に待ちの状態になる。
「姉さま」
「ん?」
「先ほどの方々の事ですけど。昨日、大活躍をしたのを知っていますか?まだ正式にHSSに入っていないので、戦果レポートは無いのですが3人でオーガを含む約20体の来訪者の撃破。さらに一般人のエルフを救っています」
「へぇ、それは凄いわね」
「彼らの迎撃位置は、ここです」と小型端末のディスプレイに地図を表示する。
「神鎮の森内部のここから出現したみたいですね」
「ランサーさんの情報?」
ランサー・エアハート、宝翔学園随一の感知魔法の使い手でHSSの情報管制室で戦闘時には、魔法的レーダー要員として活躍をしている男子生徒の名前だ。
「ええ」
「へー。昨日の襲撃で他の団員が駆けつけられなかったあそこを防いでくれたのね」
「ええ、遅い段階で出現した箇所だったので、本部も発見が遅れてしまいました」
「この位置だと、あたしなら支援できたはずなんだけど?」
「それは無理でした、まず見える範囲に優先目標のミノタウルス、キマイラ、大型ブロブなどが市街地に出ていて、それを倒すのが優先だったじゃないですか」
スナイパーチームである2人には、目標の優先選択権があるが、緊急性に応じて本部からの指示で優先目標の指示があった場合はそちらを優先せざるを得ない。
レナ自身は、楓達が出会った来訪者の群れを視認していたが市街地の目標を狙う事が優先となっていたので、スポッターとして本部へ連絡するだけにとどめていた。
結果的に、それが東達の合流を促すことになったので、レナのやった事は楓達のフォローになっていた。
「それにしても、オーガを含めた連中を殲滅できるってすごいねー。一般人枠で3人でそれだけの敵を倒せる部隊は、ウチにどれだけいたっけ。多分、ほとんどいないわよね」
「というか、ほとんどの一般生徒は逃げなかった場合は死にますね」
「だよねー」
「彼らがどの程度の戦闘力かはわかりませんけど、あの3人がどの捜査室に入るにしても、引き抜きとかでひと悶着は確実に起きそうですね」
「久々に“試合”が見られるかもね」期待をした笑みを浮かべて瑠華が答える。
「しばらくは、楽しい事になりそうだからあたしは注目してみるねー」
「はぁ…。姉さま、あの3人が気に入りましたね。何かあったら介入する気ですね」
「えっへっへー」
そう話している二人の端末から警告音が響く。なお、潜伏状態によって大きさは変更されるので便利。
『発HSS本部 再開発地区に中型の来訪者の発生確率が増大、これを撃滅せよ』
再開発地区というのは、外縁部は宝翔学園から1キロ程度の距離にある、岩戸市の中で文字通り街区の再開発を行っている箇所だ、しかし来訪者の襲来により遅々として作業は進んでおらず、それをいい事に敵対組織の潜伏場所になっていたりと、一番治安の悪い地域となっている。
多くの建物は作りかけ、壊れかけの状態で予想外の事がよく起きるのでHSSも作戦を展開する場合はかなり注意を要する場所になっている。
「詳細情報は無しか、レナちゃんは観測をお願い。私は実弾をまず使うわ」
50BMG弾を満載したマガジンをカーミラに装填をし、コッキングレバーを引き初弾をチャンバーに送り込む。
そして、高倍率スコープを覗き込んで出現予定地点あたりに目を凝らす。
視界の中にレナが発動をした情報魔術が表示される。
「姉さま、発見しました。距離は1100m」
「りょーかい、射撃許可は出ているから距離1000以内に入ったら打ち方始める、観測よろしく」
「わかりました」
そうレナからの返事を聞きながら、瑠華はスコープに神経を集中をしていったのだった。
遭遇戦が今始まる。




