17 再びHSS本部へ
3人が休息を挟みつつ宝翔学園へと向かっていくと、もとかから通信が入る。
「もしもし。如月美夏よ」
架けている端末は美夏のものだが、不測の事態で美夏が出られない場合も考えられるので、楓達は名前を言うようにしている。
『こちら栗原よ、そっちは大丈夫?』
「大丈夫よ、これから報告をしようと思うんだけど。本部に行けばいい?」
『うん、疲れているところ悪いけどお願い!』
口調から端末の向こうで頭を下げている雰囲気が伝わる。
「気にしないで、さすがに急げないから30分はもらえるとうれしいんだけど?」
『あー・・・。そうね、団長にも伝えておくわ』
別な作業で忙しいのだろう、最後に一言巨大な爆弾を放り込んで、通信が切れる。
「美夏ねぇ。今、団長って聞こえなかった」
「気のせいじゃない?」若干、口元をひくつかせて美夏が微笑む。
「現実逃避したいのがわかるが、団長と何かあるのは確かっぽいな」
「はぁ…なんで、転入2日目で団長と会うのよ…。予定は狂うじゃないっていうか、日向神社にいけるのはいつなのよ!?」
「いや、俺に当たられても困るし。うお。結構マジな正拳はやめろって」
八つ当たりをしている美夏を抑えにかかる楓。
「はぁっ…」
強く息を吐いて一旦思考をリセットする美夏。肩の上下に合わせて、長い耳が上下をしている。
「よしよし」と、いつも落ち着かせている時のように、楓と美冬が美夏の頭を撫でる。
「ごめん、落ち着いた。まず歩きながら方針を確かめましょ。まず、この学園に来たのは行方不明の父さんの足取りや情報を集めるためにきた。もちろん発見できるのが望ましい。その次、新しい魔法の入手と習得」
「そうだな。そのために父さんが最後に参加した第3次東京防衛戦の最終局面の魔法解放戦線のリーダーの使った、時空を歪める魔法の手がかりを得るために行動する。それには部隊を作って様々な作戦に参加をする事が効率がいいはずだ、と」
「地元だと、それが無理になったからねー」と美冬。
「Cゾーンになった事で、依頼自体が減ったからよね。で、まず変な組織が接触してきたけど、そこは無視でHSSに条件付きで加わる事を考えている。ここまではいい?」
「うん」
「ああ」
ここで美夏が右手にはめていたブレスレットを振る。
瞬時に3人の目の前に情報魔術が展開される。ガントチャートという、進捗を示す表が表示されている。
「当初は、徐々に依頼を受けて部隊の相談をするつもりだったけど、いきなり団長に話が行くのは予定から早すぎるのよね」
「でもまあ、それはそれでステップを飛び越えられていいんじゃないか?考え方を変えれば、余計な事に関わる前に団長に会えるわけだし」
「どんな話が来ても、とりあえずこちらの意思を伝えちゃえばいいんじゃない?ま、判断はまかせるけど」若干、直情気味の美冬が結論を急ぐような事を言って来る。
「美夏ねぇ。今はどんな話が来るかわからないが、今日の戦闘の事なのは確かだ、例えば分け前の交渉とか入団の事かもしれない。分け前なら、ブレイカーギルドの相場を絡めて交渉すればいい。入団の際に条件が合わなかったら、そこは改めて考えればいいんじゃないかな」
「整理ありがと。そうね、今までの事から過剰に心配しているかもね」
「そりゃ、仕方ないよ。地元に入って来たキラキラな私兵集団はやけに偉そうで、こっちを見下していたしな」
地元が安全圏ギリギリのCゾーンになった瞬間に、札束の力で移住してきた富豪とその私兵集団から受けたムカつく態度を思い出しながら、楓は苦笑を浮かべる。
「とりあえず、話をしてみよっ。で、終わったらケーキ食べて帰りたい!」
無邪気に美冬が笑って言う。
「そうだな、そうしようか」
ふっと楓は表情を緩める、美夏も同じような表情になっている。
そして約30分後に3人はHSS本部へと足を踏み入れたのだった。