表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/94

16 戦闘終了とその処理もろもろ

6/15 一部文言を修正しました

 エルフの女子生徒を助けた楓が美夏達のところに戻ってくると。

「楓にぃ!」

初期位置から、20mほど後退をしていた美冬が歓喜の声を上げる。

地刃の(アースランス)と呼ばれる、硬化させた土の槍でオーガ2体とホブゴブリンを足止めしていたようだ。

しかし、魔法で作られたもののため対魔法系統のゴブリン、オーガには有効打になっていない。

横合いから現れた楓にオーガが向き直って、武器を振るって来る。

「すまん、遅れた。この子を頼む」

オーガの攻撃を避けながら、美冬にエルフの少女を任せる。

「かなりの深手ね、アレを使ってもいい?」

「いいも何も無い、敵は俺がなんとかするからよろしくな」

「わかった。八百万の神々よ、慈悲深き神々の一柱よ…我が祈りを聞き届け、その癒しの手をこの者に降ろしたまえっ!」

美冬の手に黄色の光が集まり、その手を傷に這わしていく。

敵集団に向き直ると、無傷のオーガ5体、ホブゴブリンの残りが合流をしてこちらに向かってくるところだった。

「楓、オーガは対物理タイプよ。弱点属性は火」

美冬の前に立ちながら美夏が言葉をかける。

その言葉と共に情報魔法がアップデートされていく。

オーガは、地域によっては鬼とも言われているように、2m以上の体躯を持ち相当な筋力がある強敵だ、なお通常のタイプは銃器があれば対処は楽ではある。

しかし、美夏が言った対物理タイプという個体は、物理攻撃にかなりの耐性を持つので銃弾ですら優位ではない程の防御力を持つ。

それに対して、魔法攻撃は有効であるため来訪者との戦いには魔法使いの存在が重要になっている。

「わかった、美夏は美冬のフォロー。負傷者の安全を優先にしてくれ」

そう言いながら、楓は鬼切丸の柄にあるスイッチを押す。

『ぬっ』

脳裏に鬼切丸の不快そうな声が聞こえると同時にカチッと音がすると、刃が炎に包まれていく。

その様子を見て、ホブゴブリンが先行して襲い掛かってくる。

動きは最初の個体と違って早く、手に持った錆付いた剣が楓の制服をかすめる。

だが、そこまでだった。

「てぃっ!」

振り切ったホブゴブリンの腕の上から斬撃を食らわせる。

ザシュッという音と共に剣をもったままの腕が地面に転がっていく。

更にその横からオーガが太い棍棒を振り下ろしてくる。

それをバックステップで避けてから、オーガの振りかぶりに合わせて横なぎに刀を振るう。

「グッ…ギャゥァァ!」

狙いをあやまたずに、斬撃がオーガを捉えるが浅い。

怨嗟の声を上げながら棍棒が再び振りかぶられるが、その顔に氷塊がぶつかりその場所から氷結が始まっていく。

これは美夏の魔法だ、と意識に浮かぶ前に楓は三連撃をオーガに加えるとさすがのオーガも傷から血液や内臓を吹き出して絶命する。

「でぇぇいっ!」

炎を纏った刀を大振りをして、火炎放射のように火と熱を拡散させてオーガをひるませる。

「楓、体機能上昇(バフ)をかけるわ!」

「おう!」

バフがかかる前に、隙が生まれるので足を踏み出して、直近のオーガの足を切り払う。

怨嗟の声を上げながら蹲ったオーガの首を、切れ味を極限まで上げた刀で切り飛ばす。

その隙に2匹のオーガの剣が両脇から楓に向かってくる。

体を地面近くに屈ませて避けて、バネを溜める。

「アクセス!風、火、地、水の精霊よ、かの者にその叡智を与えたまえ!」

魔法がかかった瞬間、体が軽くなり一時的な筋力、感覚の増加を実感する。

そのまま飛び上がり、刀を振り下ろしざまに炎を最大威力で発する指示を出す。

斬撃の後に、劫火の熱がダメージを倍加させる。

それでも袈裟懸けに入れた刀は、オーガの鎧の防御力もあって体の半分程度で止まる。

「ふっ!」

刀を抜きつつ、もう1体のオーガが剣を振り下ろしてくるのを見て剣の軌跡を予想する。

そのオーガの顔に、情報魔術の照準が表示され『氷』の表記が追加される。

「アクセス!水と風の精霊よ、その刃を浴びせたまえ!」

「グルァッ!」

十本以上の氷の刃に貫かれて、オーガがたたらを踏み、剣が楓のすぐ脇に落ちていく。

「闇切丸!疾刃旋風!」刃を最大に伸長させるワードを闇切丸に銘ずる。

『応!』

瞬間、闇切丸の刃が3倍以上に伸びて、そのまま楓はオーガだけを狙うように、刃を回転させて切り刻む。

通常の刀では出来ない威力で、残りのオーガが全身から血を吹き出して倒れ伏す。

「これで最後っ!」

放置をしていた負傷から立ち直ったホブゴブリンを、そのまま切り伏せる楓。

「ふうっ」

元の長さに戻った刀は抜き身のまま警戒を解かずに、周囲の気配を探る。

「美夏、もとかさんに連絡よろしく」

「はーい、もいちどピンを打ってからね」

再度ピンをした後に、情報魔術のインターフェイスからは、新たな来訪者や残りの来訪者の存在が感知されない事がわかる。

「もしもし、もとかさん?」と携帯端末でもとかに連絡をする美夏。

『あ、美夏さん!?そっちは大丈夫?』

「うん、大丈夫よ。ただ20体くらいの有力な来訪者集団と戦闘をして、エルフの生徒の重傷者が出ているからHSSの救援を頼める?」

『…わかったわ、位置はどこらへん?』

「日向神社の裏参道で、座標位置は…」と軽く絶句をしたもとかへGPS座標を送る。

『近くに展開している部隊はいないわね…第3(捜査室)の空挺部隊の人員をまず送るわ、空中から向かうから周囲の安全確保をお願いできる?一般学生にお願いする事じゃないけど』

「慣れていますから大丈夫。負傷者は手当をしているけど、早めの搬送をお願い。空挺部隊の人には、その子をまかせるわ。私達は収容後に学園に戻るけど?」

『ありがと、詳しくは本部で聞くわ』

そう通信を切ろうとするもとかに、楓が美夏に顔を近づけて(携帯端末を使っているのが美夏のため)慌てて付け加える。

「戦力的に足りない箇所があれば、俺達は向かいますが?」

「ううん、これ以上は頼れないし、掃討戦になりつつあるから大丈夫。くれぐれも無事に帰ってきて」

「わかりました」

通信が切れると、耳朶と顔を赤らめた美夏を目が合う。

「美夏ねぇ、すまないけど空挺部隊と言われる人が来るまでは、情報魔術の維持をお願いできるか?」

「うん、大丈夫よ」とは言っても、情報分析と魔法の連続行使をしている美夏の疲労は目に見えている。

「美冬、体の負担はどうだ?厳しそうだったら出血を止めるのを優先してくれ」

「うーん…やっぱり知らない人だから、深いところの治癒は苦労する…」

治癒魔法で十分に効果が出すためには、その対象の体組織などの情報や医学的な知識が必要な事が多い、短時間ながら激しい戦闘の後に美夏にこれ以上の負担をかけさせるのは危険だ。

もし、美冬が治癒対象の体組織などの分析が出来るようになれば、話は変わってくる。

「そうか…。救援は早くこないかな」

と言っていると、上空から風切り音と共に、白銀のヘルメットとボディアーマーを装備した人影が2つ降りてくる。

HSSの紋章が胸に書かれていることから、もとかの言う空挺部隊の人員だろう。

ズシンという重い音を立てて、2人が着地をする。

「おう、君らがもとかの言っていた如月兄妹だな」

ヘルメットのバイザーを上げて、話しかけて来た男子生徒はいわゆるゴッツイ偉丈夫だった。

それに対して、もう一人はほっそりとしたシルエットである。

「わー。大きい人」思わず美冬がつぶやいたほどだ。

「わはは、よく言われる。俺は東というんだ。で、要救助者はその子か?」

「はい、そうです」

エルフの女子生徒の制服がボロボロだったので、美冬が自分の制服の上着をかけている。

その子を東に指し示す。

「上着はそのままでいいので、その子をお願いします」

美冬がぺこりと頭を下げて頼む。

「わかったぜ。佐々木、保健室に連絡を入れてくれ。俺が持つので飛行しつつ状況報告をたのむ」

「わかりましたわ」とバイザーの下から発せられた声は、気品のある女子生徒の声だった。

「あと、東先輩。これを保健室で渡してください」と状況を走り書きしたメモを美冬が渡す。

「助かる。それじゃ、ありがとな!」

そう東が言うと、東と佐々木の足元に魔法陣が表示されて二人の身体が宙に浮いて徐々に速度を上げて上昇し、学園の方向へ向けて飛び去って行った。

「はぁ、飛行魔法を使えるのか。うらやましいな」

「そうね、あの魔法式は結構習得はきついわよ、あのレベルを使えるなんてすごいわ」

感嘆の声を上げる二人。

「美夏ねぇ、美冬お疲れさん。少し休んでからもどるか?」

「そうね、5分は頂戴、美冬も休んで」

「はぁい」と糸が切れたように座り込む美冬。

「俺は戦利品を集めておく、連中のバラしは後回しだな。ポーションはいるか?」

「ううん、それはもし次があった場合にしましょ。通常の休息にするわ」

「わかった」

戦利品、というのは来訪者の持つ装備や道具、また来訪者そのものの体組織などは、この世界にない物質のため、それを流通させる仕組みが形成されている。

ブレイカーギルドや、ブレイカーはそれの収益で活動をしている側面もある。

ざっと集めたものの中で使えそうなのは、オーガの爪と牙と各種の装備くらいだった。

それらをギルドの紋章が描かれている回収袋(かなり頑丈な布で出来ている、なお持ち運びは主に引きずる)に放り込んでいると、二人は歩ける程度には回復したようだ。

「とりあえず、HSS本部に行けばいいのかしら?」

「そうだなぁ…。さっきの彼女の容態も気になるけど、本部に顔を出すのが一番じゃないかな」

「わかったー。そろそろ暗くなるから、早くもどろう」

「そうだな」

刀を軽く布で拭って、楓が袋を持って歩き始める。

楓の心に去来したのは、今日も日向神社に行けないんだろうな…という諦観だった。

「とりあえず、神社には連絡しておくわね」

帰宅後の美夏のフォローに、マジで感謝をしたのは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ