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幼馴染が強か  作者: ゆー
他愛ない日々
51/51

陽の下、綾なす志

あけましておめでとうございます。


間違いを一部修正。

夢を見た。


『お、おかあさん…』

『ん?』


後ろから舌っ足らずな幼い声で、洗濯物を干していた自分を呼ぶのは、あの人によく似たやんちゃ加減と、それでいて自分によく似た変な遠慮を持ってしまった女の子。


『どうしたの?』

『あのね』

『うん?』

『お、おかあさんは、どうしておとうさんとけっこんしたの?』

『あらまー』


それは、子を持つ親ならばいつかは聞かれるのかもしれない?定番の質問。

己がその立場に立たされたことに、驚きと共に小さな苦笑いが漏らしながら、ぽりぽりと頬を掻くと、私は振り返り、しゃがみ込んで、目線を合わせて微笑みかける。


『いきなりどうしたの?』

『どうして?』

『んー……』


私の質問に答えず、目の前の彼女もう一度問いかける。どうやら今は、遠慮よりも興味が勝るらしい。

目をきらきらと光らせながら、私達の馴れ初めを聞くまでは帰りません、と言わんばかりにぐいぐい迫る小さな身体を抱き上げると、私は縁側に座り込み、膝の上の頭を撫でた。


『どうしてかなー?』

『…分からないの?』

『うーん…。実はそうなのかも…?』

『…そっかー。おとうさん、“かいしょなし“ってやつなんだね!!』

『あ、今思い出したかもお母さん。お母さん思い出しました』


一応、この歳になっても捨てられない乙女的なあれこれの為に悪あがきをしてみたのだけど、知らぬ間に夫が愛する娘に事実無根の烙印を押されかねない悲劇を回避する為に、私は観念せざるを得なかった。


『………』

『おかあさん?』

『そうだねー…』




『きっと、それが私達の当たり前で、自然だったんだと思うな』

















「ん……」


目を開けると、そこは慣れ親しんだ自分の部屋。

そして隣には、すやすやと眠る愛する人の姿。


「夢、かぁ……」


寝ぼけ眼を擦りながら、私はベッドを抜け出すと、時間を確認する。

うん。いつもならば起きるには少々早いかもしれないけれど、今日に限ってはちょうどいい。


「…残りの準備、済ませちゃいますか」


ぐっと身体に力を入れると、笑みを漏らしながら、私は立ち上がった。













「たまご〜、くっろまっめ、かっずのっ子にー♪」


「かっまぼっこ、海老、鯛、れーんこん栗きんと〜ん♪」


本日はお正月。調子外れな歌を歌いながら、私は新年を祝う為の年明け初料理に勤しんでいた。

毎年毎年、問題の尽きない世の中であるが、今年も無事、皆で年明けを迎えられて何よりというべきだろうか。


「お?」


一通りの作業を終えて、重箱の蓋を閉めたところで、ばたばたと騒がしい足音が遠くから近づいてくる。そして、足音が大きくなるにつれ、私の笑みもどんどんと大きくなる。


「あーー!!」


そして、荒っぽい音を立てながら扉が開けられ、それと同時に、これまた騒がしいお声が私の耳を揺らすのだ。


「おせち、もう作っちゃったの!?」

「ごめんね、早く目が覚めちゃって」

「私が手伝うって言ったのに!!」


現れたのは、動き易そうなジャージに身を包んだ愛する旦那様……ではなく、何処となく似た面影を残した―――


「それより“綾乃“?何か忘れてないかな?」

「え?………あ、おはよう!“お母さん“!!」

「はい、おはよう。……からの?」

「あけましておめでとうございます!!」

「ふふ。はい、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「お願いします!!」


元気いっぱいのお声と共に勇ましく腰を折り、丁寧に頭を下げるのは、もうじき高校生になる月城…じゃなかった、陽向綾乃。…彼と私の間に授かった、愛する一人娘である。彼女は、頭を下げたまま両の拳を胸元で握り締めて、何やらぷるぷると悔しそうに震えていた。


「くうぅ…っ!!こんなことなら、こじろうにせがまれたとはいえ、朝の全力ランニングなんて付き合わなければよかった……!」

「あ、お疲れこじろう。ありがとね、綾乃連れ出してくれて」

「わん!!」

「!?」


そして、そんな彼女は元気は良いのだけれど、誰に似たのかちょーっと料理が苦手というか、雑というか。長いこと根気強く教えてはいるけれど、未だ課題は多い有様。なので、仲良しの相棒に、適当に理由つけて適当にスタミナ消費させて適当に時間潰しておいてね、と頼んでおいたのだ。無事、任務を果たしてくれたようで何よりである。


「ひ、酷いよこじろう!私の母と子仲良しコミュニケーションの絶好の機会を踏みにじるなんて!!そーゆーとこだぞお前ー!!」

「わ、わふん…」

「うふふ、拗ねない拗ねない。黒豆食べる?」

「食べるー♪」


頬を膨らませながら子犬を持ち上げ、駄々をこねながら小さな身体を揺らす娘に箸を差し出せば、怒りを彼方に放り出した小さなお口がすぐに吸い付いてくる。


「んーーー♪」

「美味し?」

「美味しすぎるよぉ…私、お母さんの子で良かった……」

「ふふ、大袈裟だなぁ。でも、ありがとう。私も綾乃のお母さんになれて良かったよ。…本当に」

「お母さん………抱いて………」

「抱かない」


これまた一体誰に似たのか、ちょっとご機嫌な性格になってしまった気がしなくもないけれど、その甲斐あってか(?)、体は大層丈夫な優しい子に育ってくれた。…私の病気を受け継がなかった。それが涙が出る程に嬉しかったことを、分かってもらえるだろうか。


「…お母さん、何だか嬉しそうだね?」

「ん?…ふふ、ちょっと懐かしい夢を見たからかな?」

「へー。じゃ、初夢だ」

「それは今日見る夢だね」

「れ?そだっけ?」


あの日、遠い彼方にあるものかと思っていた、手など届くはずもないと思っていた未来を二人で掴み取り、その証が今、目の前で満面の笑みを見せてくれる。今度はもう、ごっこ遊びではなく、本物が。


諦めなくて良かったと、この子の元気な姿を目の当たりにする度、何度だって思うのだ。


「うん?というか、お父さんは?まだ寝てるの?」

「そういえばそうだね。綾乃、起こしてきてくれる?」

「はーい」


私の言葉に抵抗を見せることも無く、綾乃はこじろうを抱いたまま、踵を返して彼の部屋へと歩き出す。

幸いというべきか、反抗期という言葉とは甚だ無縁な娘は、昔からずっとあの人とも大変仲が良く、時々一緒にゲームをしては煽り散らし、煽り散らされ、喧嘩をしてはいつの間にか仲直りして、そしてまた煽っている光景をよく目にする。ん?これは反抗期…なのだろうか?


『んふふー。そんじゃま、お父さんへの今年初めてのご挨拶は私のものということで♪』

「………………!」

『お、と、お、さぁ「綾乃」速ぁっ!!!!!!」


いけないいけない。そうだった。今日はお正月。年が明けて初めての一日ではないか。そんなのもう、私が挨拶して然るべきではないか。彼が去年最後に見て、そして今年最初に目に映るべきは、幼馴染であり妻でもある私ではないか。悪いが、それだけは娘であろうと譲ることは出来ない。断じて。


「綾乃」

「え、やば、お母さん、今、どっから来たん…?」

「言葉遣い」

「はひっ…、ごめんなさい…」

「やっぱり私がやるから。…ね?」

「はひぃ…っ」


何故か、恐れ慄いた様子で、壁の隅で胸に抱いた仔犬と仲良くぷるぷる震え始めた娘を置いて、私は先程まで寝ていたベッドに近づくと、そっとその顔を覗き込む。


「………あなた?」


昔に比べたら、皺が増えた。白髪も増えた。

けれど、私を支えてくれた優しい笑顔は、逞しい腕は、温かい温もりは何も変わらない。


「………あなた」


恐る恐る腕を伸ばし、その肩を揺らす。

閉じた瞼が、もどかしそうに震え始め、そして、ゆっくり、ゆっくりと、開いて―――




「おはよう、健くん」




私を映すその瞼に微笑みかけて、そっと口づけを落とすのだった。
















「(娘後ろにいるんだけどなぁ………)」

「(わふん………)」

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