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幼馴染が強か  作者: ゆー
二人の日常
5/50

第5話 曇りのち晴れ

長い人生、人間たまに一人になりたくなる時がある。


幼馴染にしたってそうだ。一見、いつも通りに振る舞っているけれど何処か遠くを見つめて、寂しそうにして、いつの間にかその場からいなくなっている時がある。


俺は気づいているけど、敢えて触れはしない。


それはあいつの中の問題で、あいつが自分でどうこうするものだと思うから。


『賢くん』


けれど声をかけられたならその限りではない。

あいつがもう一度笑顔になるまで、何度でも、何処へでも俺は付き合うだろう。


それが俺の密かな誓いだから。






けれども、今回はあいつではなく。







その日の俺は、何かモヤモヤしていた。


何かがあった訳でもない。本当に何となくだ。


授業もどこか上の空。繋達と何を話していたのかも碌に覚えていない。

…今日はそういう日なんだな、と自分で勝手に納得した。


だから俺は終業の鐘が聞こえた瞬間、早々に帰り支度を始めた。荷物を鞄に詰め込みながら窓の外を見る。俺の心を表すような曇り空。…帰ろう。雨でも振ったら面倒くさい。


「あれ、賢くんもう帰るの?」

「ああ」


鞄を持ち上げると、友達と談笑していた志乃がそれに気づき、俺に声をかけてくる。けれど俺は何処か冷めた対応しかできず。


「………?」

「どうした」


…勘づかれたか。いつものニコニコ笑顔の影を潜めて薄ら笑いでこちらを見つめる志乃。後手を組むと、腰を曲げて俺の顔を覗き込んでくる。


「ね、賢くん」

「………」


そしてまたニコニコ。


「カラオケ行かない?」

「…………」

「へいへ〜い」


俺に架空のマイクを向けるフリをしながら、志乃が身体を寄せてくる。けれど今の俺はそれも何だか煩わしくて。手でそれをそっと除けるとさっさと鞄を背負う。


「行かない」

「えー…」


可愛らしく唇を尖らせる志乃。


「悪いな。俺は今から大統領の娘を救いに行かなきゃならないんだ」

「おっぱい大きいもんね」


…………………………


「間違えた。星を救うため神羅カンパニーと戦いに」

「おっぱい大きいもんね」


…………………………


「やっぱりハイラルを覆う厄災を止めに」

「お尻大きいもんね」


俺がまるでそれ目当てみたいな言い方やめて。


「私も大きいんだけどな」

「だから違うわっ!!」


意地を張るのがバカバカしくなって思わず大声を出してしまう。


違げーし。何故か勝手に手がスクショしちゃうだけだし。


というか教室で何つー事を言い出すんだ。周り、主に女子の目線が痛い。男子。分かる、みたいな頷きやめて。


「…月城さん、やっぱり行かない?」


そんな俺達に男子のグループの一人が声をかけてきて、揃って振り向いた。…今日、やけに頻繁に志乃に声をかけてきた他所のクラスの奴だ。そいつはどこかソワソワした様子で志乃に声をかけてくる。


「…………」


花咲く笑顔で暫し黙り込む志乃。

と、男子の死角、俺の背中に回された指先がキュッと俺の服を掴む。


「ふふ、ごめんね。またの機会に」

「う、そ、そっかぁ……」


俺にチラリと一瞬、目を向けるも素直にそいつは引き下がる。……まぁ、悪い奴では無さそうなんだが。悪いが、俺も今日は何故か虫の居所が悪いんだ。だから目つきがちょこっと悪くても許してくれ。


「賢くん」

「………」


男子が去ると、俺はさっさと教室の外へと歩を進める。志乃の指がゆっくりと離れ、彼女は暫し迷ったようだが、恐る恐る俺の後をついてくる。いつもの笑顔はそこに無い。


「…あの、ごめ」

「行くぞ」

「え」


振り向いて声をかければ、そこには何処へ、とでも言いたげに戸惑いがちな志乃の顔。俺が軽く息をつくと、志乃も過剰に反応して身体を震わせる。

…少し反省。息を整え、落ち着かせて気を取り直す。


「カラオケ、行くんだろ」

「…ぁ……」


…全く自分で言ったことだろうに。


「…行かないのか」

「ううん、行くっ」


パァっと笑顔を取り戻した志乃が、俺の隣に並んで歩き出す。


「やっぱりそういうとこだよね」

「さて、どういうことだか」


…何だろう。何かさっき大きな声を出したからかモヤモヤも軽くなった。丁度太陽も出てきた事だし、今日は俺が志乃を振り回すことにでもしようか。

志乃の頭に手を乗せるとぐしゃぐしゃとかき回して、きゃー、などと楽しそうな悲鳴を上げる横顔を見ながら、そんな事を思った。






「仕方ない、久しぶりに俺のはじめてのチュー(デスボイスver)でも聴かせてやろう」

「わぁ、じゃあ私は天城でも越えようかな」


「ふふん、聞き惚れ過ぎてまた失神するなよ」

「賢くんも聞き惚れ過ぎてまた失禁するなよ」

「一度もした事無いんですけど!?」

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