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幼馴染が強か  作者: ゆー
その後の二人
31/50

エピローグ 〇〇が強か

「疲れた……」


漸くのお務めを終えて、バキバキと骨を鳴らす身体を存分に伸ばして、俺は大きく息をついた。

全く、休日だというのに急な仕事をよこしやがって。下請けだからって何でもして言い訳じゃないんだぞ。

とはいえ、午前中で片付いたのは不幸中の幸いということか。職場のある街とは程遠い長閑な雰囲気のこの町に足を踏み入れると、いつも何故か帰ってきたという気分になれるのだから不思議なものだ。


「ん?」


駅の入口に近づいたところで向こうから何かが走ってくることに気付いた。

黒い小さな何かはこちらに物凄い速さで近づいてきて


「わん!!」

「お、おう」


こちらに挨拶をするように一吠えして、少し通り過ぎた先で停止した。

リードも無いのに、…いやリードはあるけど飼い主がいない。駅の入口でお行儀よくお座りするその小さな仔犬を、学生達がきゃーきゃー言いながら撫でている。…そう言えばたまに見たことのある光景かもしれない。けれど普段は


「ま…待って……速いよ…こしあん………」


あ、いた。

年は大学生くらいだろうか。飼い主たるポニーテールが印象的な美しい女性が、快活なスポーツウェアに身を包んで走ってくる。


「ぅっ、…げふ…こしあん……どこぉ……」


こし…こしあん?もしかしてあの仔犬の名前?何とも変て…印象的な名前だな。

しかしめっちゃしんどそうだな。どれだけ走らされたんだろうか。


『志乃さん、こーちゃんここだよー』

『こいつめっちゃスカート覗き込んでくるー』


「こ…こらぁー……駄目だよ…こしあん……ぉえっ…」


手を振る学生達に誘われて、ゾンビの様にフラフラと飼い主が仔犬の下へとゆっくりと頼りなく近づくと、その小さな身体を抱き上げようとして


すっ


躱された。


『『『……………』』』


もう一度飼い主が手を伸ばす。


すっ


『志乃さん…もしかしてだけど』

『嫌われて……』

『そ、そそそんなことないよっ。駄目だよ変なこといっちゃっ、そういうとこだよ。ね?こしあ』


すっ 


『『あっ……(察し)』』

『こしあん……??????』


そのまま華麗に飼い主を股抜きした仔犬が駅の方へと走っていく。

仔犬が走り寄る先には、丁度駅から出てくる飼い主と同年代くらいの青年の姿。


『わん!!』

『お、何だこたろう。迎えに来てくれたのか』


人懐っこい笑顔を見せる青年に応えるように、何度も鳴いて身体を擦り寄せる仔犬を軽々と青年が抱き上げれば、仔犬も嬉しそうに腕の中でフリフリと尻尾を振る。


『『『…………』』』


そして瞳を絶望に染める女性の肩をそっと叩く学生達。うん。流石に可哀想になってきた。

仔犬を抱えた何も知らない青年が学生達の元へと歩み寄れば、元々の知り合いなのだろうか、彼女達は笑って青年を迎え入れる。


『何してんの』

『お帰りー旦那様』

『賢さん、志乃さん落ち込んでるよ』

『何で』

『…………』


未だ尻尾を振って大人しく抱えられる仔犬を、指を加えながら羨ましげに眺めていた飼い主がもう一度手を伸ばして


ぱんっ


『『『『……………』』』』


尻尾で手をはたかれた。

若干の涙が滲んだ、何とも悲哀の籠もった瞳で飼い主が胸に抱かれた仔犬を見つめる。


『こしあん何でぇ………』

『こしあんって呼ぶからじゃないですかね』

『可愛いのにこしあん……』

『こたろうなんですよ』

『ラブリーデーモン……』

『やめろぉっ!』


いや、本名だったんじゃないんかい。二人が織りなす何とも珍妙な掛け合いに失礼ながらも吹き出してしまう。

微笑ましい光景だ。何故だろう、ふと自分も早く家族に会いたくなった。

改札を通りながら、おもむろに懐から携帯を取り出す。そう言えば、自分から連絡をいれるのは思えば久しぶりのことかもしれない。


あの若夫婦に影響されてしまったのかな。

チラリと見えた彼らの指に光る真新しい指輪を思い出して、つい人知れず笑みを零すのだった。

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