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幼馴染が強か  作者: ゆー
その後の二人
21/50

第21話 その後の幼馴染

ふと思った。


恋人になって、色々なものが変わっていくはずだけど、具体的に何がどう変わっていくのだろうかと。


「そりゃあ…、やっぱりくっつき合ったり、とか?」

「これ以上か?」

「……」


俺の前に座っていたヒナが複雑そうに黙り込んでしまった。


「いやいややっぱりさ、互いに好きって公然と言えるのが大きな」

「今更か?」

「………」


俺の横に座っていた繋が気まずそうに黙り込んでしまった。


「好きだよ賢くーん……」


因みに今現在、俺は背後霊に取り憑かれてスリスリと頭に頬擦りされている訳だが。


「志乃」

「うん。好きだよ」

「アンタもうちょっとお利口さんじゃなかった?」


あれから何日か経ったが、俺は未だに彼女から抜け落ちた頭のネジを見つけられずにいる。あの日落ちたネジの数を僕たちはまだ知らない。

朝・昼・夕。いつも貴方の隣に幼馴染。おはようからお休みまで、何ならトイレにまで着いてきかねない今の志乃の暴走は依然として留まることを知らずにいる。


「まぁ…時間が経てば落ち着くんじゃないかな…」

「うん?私の愛を馬鹿にした?へし折るよ?」

「僕の扱い酷くない?」


この間、キレ散らかした志乃にお仕置きされてからというもの、何処か扱いが雑になった繋が涙目で俺に助けを求める。

すまんな。無理。静かに首を振った。


「ほら志乃。はしたない女は嫌われちゃうわよ」

「大丈夫。賢くんどすけべな子が好きだから」

「アンタはっ倒すわよ!!」

「誤解です暴力は止めてください」


優しく引き剥がそうとしたヒナが志乃のその言葉を聞いた瞬間、一転、これまたキレ散らかしながら俺の胸倉に掴みかかる。ぐわんぐわんと俺の脳が揺れる。


「この…!志乃に……!あたしの志乃に…!!マイスウィートゴッデス志乃に……!!なんて言葉を!!」


お前、心の中でそんな風に思ってたの?それは俺も引くよ?


「緋南」

「っ志乃!やはり駄目よこんな男!どうせアンタの身体を好き放題したいってだけの下心しか無いんだから!」

「私の」

「あっ…はい……」


頬を膨らませた志乃が俺とヒナの間に割り込み引き剥がす。大切な存在によって、まさかの崖に叩き落された今のヒナの顔は……もう…言葉も出ねぇ……。


このままではいけない。一緒に探そう?彼女の喪われたネジを。俺達3人は揃って顔を見合わせるのだった。







「まぁ、今自分がどれくらい恥ずかしいことをしているのか自覚させるのがいいんじゃない?」


そう言ってヒナが取り出したのは、激甘すぎて上映後コーヒーが爆売れしたと話題の恋愛映画。


「ほら志乃」

「うん」


渋々と志乃が離れ、俺達は3人でテレビと向かい合う。

因みに繋くんはヒナによってコーヒーをパシりに行かされたため、暫し不在となっております。

手元でリモコンをくるりと弄んだヒナがバシッと妙ちくりんなポーズを決めてテレビにリモコンを掲げる。


「よし、いざ!再生!!」

「「わー」」


カチ。……カチ。カチ……。


「電池無ぁい……」











「いや………あまぁ………」

「ああ……繋みたいで見てて恥ずかしくなった……」

「賢一……………??」


机に突っ伏す俺達3人。繋が買ってきたブラックコーヒーを揃って呷る。


「………」

志乃はただ一人、未だに無言でテレビと向かい合っている。

すると、リモコンを取って映画を巻き戻し始めた。


「うげぇ……そこぉ?一番しんどいところじゃない…吐きそう」


年頃の女の子として些か疑問に思わなくも無いリアクションを見せるヒナ。だが志乃は意に介さず、主人公とヒロインのイチャラブをひたすら無言で眺めている。

2度、いや3度に渡るリバイバル上映が終わり、志乃が大きく息をついた。

漸くかと、それを見届けたヒナがずりずりと膝立ちで志乃に近づいて、コーヒーを差し出した。


「志乃。アンタもコーヒー飲」

「ぬるい」

「………………ん?」


ん?


「この子ちょっとまだ恥じらいが出てるよねそれが俳優さんの問題なのか演技指導のものなのかは知らないけれどあの場面だったらもう数cmくらい余裕で身体を寄せられたんじゃないかなそれに雨に濡れた主人公を見て思わず顔を背けてたけど今まであんなにくっついてたんだから寧ろ外れたボタンの隙間から手を突っ込むくらいしてもよかったと思う仮にあれが賢くんだと仮定して私だったら○○を□□して♡♡するくらいのこ」

「早く助けなさいよ」

「「無理だよ」」


もう手遅れだよ。







「賢一。男だったらビシッと言うべきことは言うことも大切だよ」


次鋒・星野繋行きます。

グロッキー状態のヒナを隅に寝かせて、俺は繋と正座で向かい合う。


「というと?」

「亭主関白…って訳でもないけど、自分がそれをどう思っているか、それは駄目だよっていう一線を明確にすることで月城さんに自制を覚えさせるんだよ」

「ふむ…なるほどな」


姿勢を正し、俺は隣で一緒になって正座していた志乃と改めて向かい合う。

何故かそれだけで嬉しそうな志乃がいて、思わず顔を背ける。


「うん。じゃあ月城さん。取り敢えずいくつか普段していることを言ってみてくれるかな。それを賢一が厳しく判定するから」

「ん〜……」


繋の言葉に小首を傾げた志乃が、口に指を中てて思案する。


「膝枕なら?」

「普通だよな」

「そうだね…恋人だし……」


「後ろから抱きつくのは?」

「まあ、いいだろ」

「…まぁ、場所を考えるなら……」


「膝の間に座るのは?」

「いいんじゃないか」

「うん……う〜ん……」


「そのまま向かい合って噛み付くのは?」

「まあ、いいかな」

「賢一?」


「匂い嗅いだり舐…げふん、とか」

「いいぞ」

「賢一!!」


「「??」」


何故か繋が必死そうに俺の肩を揺さぶっている。

今の問答に何かおかしなことでもあっただろうか。


「どうした」

「どうした!?こっちの台詞だよ!!」


「大袈裟だよ、星野君。恋人ならセーフ。ノーカン。当たり前。そうだよね?賢くん?」

「だよな」

「…っ!!これは…既に手遅れだったということか……!!」


まぁ、確かにくっつきすぎだけどさ、恋人ならこれくらい普通だよな。……普通、なんだよな?あれ?一話前の俺はもう少し弁えていたような……うっ頭が……。







「「無理」」


そう言って二人はコーヒーを丸々一本一気飲みして帰っていった。その顔に疲労困憊の文字をありありと乗せて。おねしょすんなよ。


そして今の俺達は再び二人きり、ということは。




………。




……………。




「………ん?」

「どうかした?」


てっきりまた膝に座ると思って密かに待ち構えていたのだが、志乃は普通に本を読んでいる。


「いや…別に……」

「変な賢くん」


ん?いや…。あれ?いつもなら既にスタンバイどころか座り込んでておかしくないのに。もう一度、志乃に視線を向ける。こちらのことなど見向きもせず本を読んでいる。


「………」


それがどうも…いや。妙に落ち着かなくて。


「…なぁ」

「んー?」


「…来ないのか」

「何が?」

「何がって…」


彼女は笑顔で首を傾げるだけ。…やばい。これは恥ずかしいぞ。


「ひ」

「ひ?」

「………」


無言で膝を叩いてみる。


「んー?」


ニヤニヤと。笑顔は見ているだけ。


「…何でもない」

「………ふっ…ふふ…」


恥ずかしさが限界を迎えた俺が顔を逸らすと、志乃が向かい合う形で膝に座ってきた。そうして、俺の胸に抱き着くとこちらを見上げてくる。


「こう?」

「………」


…どうせ全部分かっていたくせに。白々しいその笑顔は、けれども怒る気にもならなくて。これが惚れた弱みというやつだろうか。


「……ま、ここまでくれば十分かな」

「は?」


今、何と言った?思わず彼女の顔を見下ろすと、何処か悪戯っぽさの混じった瞳がこちらをみつめていた。


「私がいないと寂しいんだもんね?」

「…………」

「あ、そうでもないんだ」


さっさと温もりが離れようとした瞬間、反射的に俺は彼女を抱き寄せる。


「……………」

「ふふふ…」

「何だよ」


腕の中でぷるぷると、抑えきれない笑みをもらす志乃。

…もしかしてこいつは最初から。


「そういうところ。可愛いなぁって」

「……あっそ」


顔が熱いことを悟られぬ様、胸の中に強く彼女を抱き寄せる。それでもまだもごもごと、笑い声を漏らしながら震えている。


「大丈夫だよ。私はどんな君も好きだから」

「………」

「こんな私でも好き?」

「嫌いではない」

「あー、まだそういうこと言う」


ツンツンと。辛うじて自由な志乃の指が俺の脇腹をつつき始める。やめい。


「…これはまだまだ仕込みが必要かな?」

「んん?」

「何でもないですよー」


腕を背に回して、志乃が強く抱き着いてくる。釈然としないものを感じながら、俺は何だかんだ当たり前になり始めたその温もりを堪能するのだった。

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