姫様追放 ~やんごとなき身分の姫様をこれ以上危険な目に合わせないために土下座で追放宣言する勇者~
「姫様……どうか、どうかお願いします! 追放されてくれないでしょうか!」
土下座しながら追放宣言という世界で一番かっこ悪い行動を取る勇者。
「追放ですか……どうしてかしら?」
頬に手を当て小首かしげる姫。
「ここから先は魔物が強くなります。不慮の事故があって姫が傷ついてはなりませんので」
姫に戦う力は無い。
なのにこの魔王討伐を目的としたパーティーにいるのはひとえに姫様のワガママだった。
『魔王を倒す旅……面白そうですわ! 私も参加してみたいわ!』
勇者や家臣は必死に止めたのに、娘に甘い王様の一存で強行的にパーティーインした姫様。やんごとなき身分である姫様を守りながらここまで冒険するのに大変苦労したのは言うまでも無い。
「追放だなんて……私が抜けた分の戦力はどうするつもりですの?」
「な、何とかします」
戦闘に貢献してなかったので補填する必要も無い、とは言えまい。
「毎日のアフタヌーンティーの主宰はどうするんですの?」
「な、何とかします」
もちろんそんな面倒な行事取り止めである、とは言えまい。
「パーティーの旗頭である私を失ってどうにかなるんですの?」
「な、何とかします」
勇者がリーダーとなり本来の姿に戻るだけだ、とも言えまい。
「……分かりました。どうやら決意は固いようですね。理不尽に不当に私を追放すると」
「心苦しいですが」
「ふん、いいですわ。追放された結果、私は新天地で活躍、対して今まで当たり前だった私の存在を失いあなたたちは転落の一途を辿るがいいですわ!」
姫様はそのように捨て言って部屋を出て行く。
一人で出て行ったが、姫様直属の執事に付いて行くように言っている。危険は無いはずだ。
「これで……良かったんだよな」
王様の命令を無視することになるが、既にその他家臣達には今回の追放について根回ししている。これより先、魔王城に近づくにつれて強くなる魔物相手では危険だと理解を共有している。
「姫様……」
これまでの旅の思い出が思い返される。
『この私が野宿ですって!? 夕方までには街に着くんじゃ無かったんですの!?』『ひ、姫様が寄り道をしたせいで……』
『あの魔物の毛皮良さそうね。勇者、倒して』『この辺りの主ですよ、本気ですか!?』
『パンが無いならケーキを食べれば良いじゃない』『……………』
「……うん、やっぱ追放して正解だな」
これから俺たちの本当の冒険が始まるんだと勇者が思い直したところで。
「ふぅ、良い感じでしたわ勇者」
「…………え?」
追放したはずの姫様が戻ってきた。……そんなのありなの?
事態を受け入れられず後ろに付き従っている執事に視線を向けると申し訳なさそうに頭を下げられた。
「それにしても勇者。流石でしたわね。巷で流行っている追放、気になっていたそれを私に体験させるためにあのようにお芝居するとは」
いやそんなの知らなかったんだが。それに純度100%の本気で追放したんだが。
「ですが少々甘かった部分もありました。私という世界の至宝を追放するとなれば、もう少し悲壮感を出さないと」
いやこれでも晴々する気分をどうにか抑えて悲壮感を出したつもりだったんだけど……じゃなくて。
「ええと、姫様……ということは、その……追放は……」
「ええ十分よ。また明日からもよろしく頼むわね」
姫様は満足気に言うと部屋を出て行く。自分の部屋に戻ったのだろう。
残った勇者はしばらく放心した後にぽつりとこぼした。
「あーもう……こうなったら誰か、俺を追放してくれ」