二人乗り
「ねえ、もう止めてよ!」
「ははははははは!」
熱い背中、バクバクする私の心臓。目まぐるしく変わる景色。
二人乗り。どこか憧れはあったけどまさか、こいつとすることになるなんて……。
初めて見た瞬間から感じた。こいつとは相容れないって。警戒もした。なのに、なのに……。
「止めて! 危ないから! 怖い!」
私が何度必死に頼んでもこいつはネジが外れたような笑い声で返すだけ。今、なんとかその背中にしがみついているけど、この先にあるのは下り坂。
危ない。でもありきたりな言葉じゃ、こいつは止まってくれない。ここまでそうだったからわかる。こいつは破滅的で刹那的な男なのだ。
「ねぇ! アンタ! このままじゃほら、仲いい人と会えなくなるかもしれないんだよ! 悲しむよ!」
「大丈夫! いないからね! ははははっ!」
「私、無事に家に帰りたいの!」
「はははっ! 帰ればいいじゃないか! ははははははっ!」
「もう、やめて……お願い……かえして……」
「ああ、泣くなよほら、少しスピードを落としてやるからさ」
「うん……」
私は自転車から飛び降りた。
あいつは軽くなった分、ぐんぐんスピードを上げ、その背中はどんどん小さくなり、やがて見えなくなった。
さようなら、さようなら。
買ったばかりの私の自転車。
くたばれ、自転車泥棒。