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【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~   作者: 廿楽 亜久
第15話 伸ばした手

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02

 ゆらゆらと、体が揺れる感覚だけが残る。


 痛みも、叫びも、何も無くなって、水の音だけが耳の奥に響いていた。


 ふわふわと漂っていて、指先ひとつ、瞼すらも動かす気も起きなくて、このまま眠ってしまったら、すごく気持ちよさそうだ。



「――――」



 誰かの声が、遠くに聞こえた。


 知っているような、知らないような、でも、そんなことはどうでもよくて、今はこのふわふわとした感覚のまま、眠ってしまいたかった。

 さっきまで、痛かったもん。すごく、すごく我慢したもん。

 少しくらい眠っても、きっと、許してくれるよね。


 誰が怒るかも忘れちゃったけど、きっと許してくれる。

 うん。そうだよ。

 きっと、そうだ。


 だから、また少しだけ、この水の中で、眠ってしまおう。

 うっすらと開きかけた瞼を、またゆっくりと閉じた。


「―― Pっ!! P03!!」


 その時、手が、痛いくらいに掴まれた。


「P……! 起きたか……!? 大丈夫か……!?」


 目が合ったその人は、ひどく焦った顔をしていた。


「まぁ、きの…………」


 不思議と、その人の顔を見たら、勝手に口が、その言葉を紡いでいた。


 あぁ、そうだ。マキノだ。

 私の顔を見て、安心して、泣きそうな顔で微笑んでいるのは。


「あ、つい、よ……まき、のの、て……」


 マキノに掴まれた手が、すごく熱くて、火傷してしまいそうだ。


「は……? あぁ、こんなに冷たくなってりゃ、熱いか……」


 P03の言葉に、牧野は、少しだけ不思議そうな表情をしたが、すぐに納得したように声を漏らした。

 生きているとは思えないほど、ひどく冷え切ったP03の腕。それは、牧野にとっても、覚えのある体温だった。


 ひどく疲れた表情で、それでも、困ったように、でも恥ずかしそうに笑うP03に、牧野は自分の首元へ手を伸ばす。


「悪いな。今はこんなのしかないが、ないよりはマシだろ」


 そして、自分の首に巻いていたスヌードを外すと、P03の首へ巻いた。


「……ふふっ」


 おかしそうに笑うP03に、牧野は困ったように眉を下げると、少し汗ばんでいるP03の頭を優しく撫でた。


*****


「なにか、弁明はあるか?」


 久留米は、目の前に立つ涼しい顔をした橋口を見上げる。


「ありません。間違ったことをしたつもりはありません」


 あの後、橋口は拘束され、事件の全てを素直に語った。


 P03の髄液に、感染力のあるアポリュオンウイルスが残存している可能性と、それを無毒化する方法。

 人道的とは言い難い方法ではある、だが、人類を守るためとして、それを許可した上層部の人間がいる。

 かつて、それは平然と行われていたことだ。故に、現在を生きている人間が、それを否定はできない。


 その結果、今回の立涌や橋口の行動は、連絡の行き違いによる”不慮の事故”であったと結論付けられた。


「歴史は、華やかな名が残る偉人ばかりだけではないのです。名もない科学者たちが、基礎を固め、少しずつ技術を進めてきた。

 私は、ただの名もない科学者というだけです」


 つまり、不問である。


 だが、不慮の事故とはいえ、人的被害が出たことは事実。全ての責任を不問にすることはできない。


「短い間でしたが、お世話になりました。少尉」


 P03に対し、アポリュオンウイルスの無毒化を試みた橋口は、別の駐屯地の研究部隊へ異動となった。


「まだ向こうでの研究内容については聞いていませんが、私の専門は、遺伝子研究ですから、また協力できることがあれば、その時は是非」

「あぁ、君のその知識と技術は目を見張るものだったよ。実に助けられた。だが、人道を無視するのであれば、協力することはできない。今後ともな」

「あら、振られてしまいましたか」


 静かに、橋口を睨む久留米に、橋口は頬に手を当て、困ったように微笑むと、小さく頭を下げた。


「では、失礼致します」


 そう言って、部屋を出ようとした橋口は、ドアノブに手を掛けると、ふと動きを止める。


「少尉」


 そして、何か言い忘れてたことでもあったかのように、声を上げた。


「これだけは、訂正していただけますか?」


 少し振り返った橋口は、微笑みこそ変わらないが、冷たく、強い意思のこもった視線を向けながら、表情を押し殺している久留米に告げた。


「彼らは()()()()()()()()()


―――― ヴェノリュシオン


「人間に限りなく近い、別の種族です」

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