01
――熱い、痛い。痛い痛い
――――イタイタイタイタイタイタイタイタイタイタイッッ!!
――――助けて、助ケテ!!
どれだけ叫んでも、目の前に浮き上がっていくのは、泡だけ。
泡をどれだけかき分けても、足をばたつかせても、何も見えない。何も聞こえない。
うるさい誰かの悲鳴だけが、木霊し続けていた。
*****
開けるというには、随分と手荒な入室をしたG45とS08は、脳を震わせる悲鳴を上げ続けている、小さな通路に入っているP03の元へ跳ぶ。
ふたりの体が、MRIへ近づいたその瞬間、腰と足が、自分たちの意思に反して、MRIの方へ引き寄せられる。
「ハ……!?」
空中で、見えない何かに引っ張られるような感覚に、G45もS08も、慌てて、体制を立て直そうとするが、間に合わず、変な体制でMRIへぶつかってしまった。
「カッヒューー」
意図しない体制で勢いよくぶつかったせいか、息が詰まった。
反射的に打ち付けたわき腹を抑えるが、その腕が体の下から抜けない。
腕は確かに動いているのに、体が機械に張り付いたまま動かない。
「ぅ、ぐ……」
首を動かして、P03の入っている小さな通路へ目をやる。
――あと少し。
叫び、助けを求めるように暴れる、P03の足はすぐそこにあるのに、自分たちを押さえつける見えない圧で、体が動かない。
手も足も、自由に動くというのに。
「P……! Pィ……!!」
また届かない。
あの時と同じだ。
水槽の中で苦しんで叫ぶ、P03を助けられなかった。救えなかった。
G45たちができたのは、P03を苦しめた人間を殺すことだけで、P03を水槽から出すこともできず、水槽の前で待つことしかできなかった。
「ゥ゛、ァ゛、ァアァ、ァアァァア……ッッ!!」
G45の目から溢れる涙が、零れ落ちていく。
G45とS08が、どれだけ力を入れても、体は機械から離れることはなく、どれだけ手を伸ばしても届かなかった。
「――――」
助けを求めて叫ぶ声が、すぐ傍にあるのに、届かなかった。
S08も表情を歪めたその時だ。
突然、甲高い空気が渦巻く音が響き渡った。
「うわっ……!?」
G45ですら、耳を塞ぎたくなる音が響き渡り出すと、ふたりを押さえつけていた圧力は突然消え、ふたりは床に落下した。
辛うじて、G45は両手足で着地し、S08は耳を塞いでいたせいか、受け身も取れず、床へ落下した。
「お前ら、無事か!?」
自分たちの壊したドアを越えて入ってきた音に、G45は勢いよく顔を上げる。
だが、その声の主が牧野だと気が付くと、自分の歯を噛み砕く勢いで食いしばっていた、力が少しだけ抜けた。
そして、震える口を、開いては閉じ、今度は弱く歯を食いしばると、苦し気に呻き声を漏らした。
「マ゛キ゛、ノ゛、さ゛……ッ!!」
「!! G、落ち着け。大丈夫だ」
涙をこぼしながら、必死に言葉を紡ごうとするG45に、牧野は少しだけ目を見開き、G45の前に膝をつくと、G45へ視線を合わせた。
「Pぃが……!! Pを、助けて……」
嗚咽混じりに、そう口にするG45に、牧野はG45の頭へ手をやり、しっかりと頷いた。
「任せろ」
牧野の言葉に、G45は頭に乗せられた温かな手に導かれるように、小さく頷く。
その様子に、牧野は小さく息をつくと、もうひとり、床に這いつくばっているS08へ目をやる。
「だから、Sのこと、見ててやってくれ。緊急だったとはいえ、ひどい音だったからな」
MRIの緊急停止のために必要だったとはいえ、間近であれほど大きな音が鳴ってしまったのだ。
聴覚が強化されているS08にとっては、相当のダメージだっただろう。
その証拠に、今も、両耳を抑え、床に小さく丸くなったまま、動いていない。
G45は、ゆっくりとS08の方へ顔を向けると、小さく頷いて、S08の傍らに座った。
その様子を確認すると、牧野は、ゆっくりと立ち上がり、ストレッチャーの上で静かになったP03の足を見下ろした。




