05
声が、苦痛に呻く、声が響いた。
鼓膜を震わせるわけでない、脳を直接震わせる叫び。
その声を聞くのは、二度目だった。
「また、またアイツらッッ!!!!」
怒りに任せ、目の前の壁を殴る。
声のする方へ。助けを求める声が響く方へ。
最短距離で、まっすぐに。
「――ッ」
叩き割れない壁に、もう一度腕を振りかぶれば、制止の声が響く。
「待て待て! ここ地下! 地下だからァ゛ッッ!!」
直後、男を黙らせようと、S08の拳が男の頭部を強打する。
ヘルメットの変形する音と床に叩きつけられる体に、周囲にいた隊員たちも、怯えたように後退るが、その音にすら、S08は殺気のこもった視線を向けた。
「ア゛ーーもう、ジャマだなァッッ!!」
何度殴りつけても割れない壁に、苛立ったような声を上げるG45に、S08も怪訝そうな表情で壁を見つめるが、また聞こえてきた金属音にすぐに目をやる。
そこには、研究所で降りてきたのと似た梯子と、上を指さす隊員の一人。
上を見上げれば、やはり同じような白い光が漏れてきている。
「…………」
ゆっくりと視線を下せば、上を指さしていた隊員が、大きく何度も頷いている。
「繋がってない! 上がれ!」
先程の隊員のように、音を発した瞬間に殴られるのではないかと、できる限り短い単語で要点だけ叫ぶ。
途中で同じように殴られる覚悟をして身構えていたが、予想とは裏腹に、S08は考えるように動きを止めると、壁を殴り続けているG45の襟を掴んだ。
「何しやがるッ!!」
「壊れる気配がない。こっちから行くぞ」
子供にしては、ひどく低く落ち着いた声に、隊員たちは息を飲んだ。
だが、引きずられるG45には効果がないらしく、大きく歯をむき出しにして、体を大きく回転させ、S08の腕から抜けだそうとして、思いっきり放り投げられた。
雄たけびのような、叫びのような声が、地上の部屋へ遠ざかっていくと、S08も素早く梯子を上がっていった。
「…………」
その様子を唖然とした様子で見送っていた隊員たちだが、慌てたように無線に手をやり、病院にいる隊員全員へ、G45とS08のことを伝えた。
「おい! 無事か!?」
そしてもう一人、倒れた隊員へ駆けよれば、隊員は呻きながらも、意識ははっきりしているようだ。
「…………俺、ヴェノム研究所の調査班だったんだけどさ、そん時より、威力が低いような気がするんだ……気のせいかもしんないけど……」
「お前に、ヴェノリュシオンのゲンコツマイスターの称号をやるよ……」
「…………いらねェ」
横になる隊員へ、慰めるように肩に手をやるのだった。
*****
目の前が歪みそうな叫び声に堪えながら、牧野は、橋口を拘束していた。
「止め方は!?」
「教えると思いますか?」
ここで橋口を殺したところで、意味はない。
この叫びを何よりも早く止める術を知っているのが、目の前の女で、その女は、これこそがP03を救う方法だと思っている。
「杉原! P03を入れたMRIが起動した!」
これ以上、こいつと会話する意味はない。
杉原へ無線を飛ばしながら、周囲を見渡し、緊急停止ボタンを探す。
緊急というくらいだ。赤いとか、何かしらの目立つ色をしてあるだろう。
「ッ……」
脳が直接揺さぶられるような感覚に、自然と息が上がっている。
「……なるほど、軍曹もP03と繋がっているのですね。ということは、他のヴェノリュシオンたちにも、SOSが発されているわけですね」
拘束されたまま、興味津々とばかりに目を輝かせ、考察を続けている橋口は、少しだけ目を細めた。
「距離については、ほとんど関係ないとしても、彼らのいる場所を踏まえて、来たとしても……」
いくら彼らの足とはいえ、この廃病院へ辿り着くには、少しばかり時間が必要だ。
少なくとも、P03の髄液が十分に加熱される時間程度の時間には、足りるはず。
やはり、現状、最も危険なのは、自分を拘束し、P03が干渉を続けている牧野だ。
「ぐ……」
だが、その牧野も、P03の干渉に耐え切れないのか、額を片手で抑えている。
助けを求めながらも、その相手に負担を強いる。
以前も、自分の能力に、牧野が耐えられなかったというのに、また同じように失敗を繰り返す。
やはり、知能は未だに未熟ということなのだろう。
そっと視線をMRIの方へ向けた、その時だ。
MRIの騒がしい駆動音とは別の、扉が拉げる音が響き渡った。




