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【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~   作者: 廿楽 亜久
第14話 殺意無き殺意

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04

 いたのは、一人だった。

 周囲に味方はなく、たったひとり、橋口がパソコンの前に立っていた。


「あぁ……なるほど。ようやく、合点がいきました。牧野軍曹は、彼らと別行動をしていたんですね」

「両手を上げろ」


 銃口を向けられているにも関わらず、ひどく落ち着いた様子で、こちらに顔を向ける橋口は、ゆっくりと体をこちらに向け、手を上げた。

 そこでようやく、視界を広く捉えれば、ガラスの向こう側に見える部屋にある、大きな機械。


「あの中に、Pがいるのか?」

「はい」


 自分には止め方はわからない。

 操作させるなら、橋口だが、彼女にもう一度操作をさせて問題ないかといえば、少し怪しい。


 やはり、橋口を拘束し、杉原の言っていた緊急停止ボタンを探すべきか。


「ここに来たということは、MRIへP03を入れている理由がわかっているということですよね?」

「……Pの体に残ってるウイルスを殺そうとしてるんだろ」


 小さく口元を持ち上げた橋口は、小さく頷いた。


「ウイルスが残っているという仮説を立ててから、ずっと考えていたんです。このままでは、あの貴重な実験体が理不尽に失われてしまいますから」

「Pが殺されないように、こんなことをしたのか?」

「P03はどちらでも……いえ、手に入るのならば、それに越したことはありませんが、P03は明らかに異端ですから、正直サンプルにはなりません」


 つい、引き金に力が入りそうになるのを、意図的に抜く。

 できる限り、橋口は殺害ではなく、確保したいというのは、本音だ。


 現状において、ヴェノリュシオンたちの研究の第一人者は、この女だ。

 今のP03を”異端”として、サンプルにならないと口にしたことも、最もヴェノリュシオンたちに近く、逐一情報を受けていた牧野が知らないことだ。

 つまり、意図的に隠していることがある。


「異端というのは?」

「彼女は、俗にいう”超能力者”の類に分類されるのでしょう。科学で証明されないなにかです。

 感情が視えるとか、感情を操るといった類は、感染した相手のみという条件があれば、フェロモンの関係かとも考えましたが……それでは証明できない超常現象がありましたから。

 現段階では、特例を”超能力”として、別の凡庸性の高いサンプルを調べる方が先決です」


 ”ヴェノリュシオン”なんて、新人類の貴重なサンプル。

 そうそう、手に入らないのだから。


 そう、いつもと変わらず微笑む橋口に、牧野は、ひどく感情が冷え切るのを感じた。

 最初からずっと、橋口は変わっていない。ただの研究対象として、ヴェノリュシオンたちを調べ尽くしたいだけで、そこに彼らの思いなどはない。

 根本的に、動機が異なっている。目的が偶々、一致していただけ。


「そもそも、何が悪いというのですか?」


 橋口は、自分をひどく冷たい視線で見つめる牧野へ問いかける。


「残酷や冷酷といわれる実験の積み重ねは、結果的に人類を発展させるために、必要不可欠なものでした。

 しかし、それが倫理的に許されるものか、許されないものかという質問に対しては、その時代、その国の社会性に委ねられる。というのが答えでしょう。

 故に、人は、何かを犠牲にする決議を取るのでしょう。人類が前進するために。

 確かに、その決議を怠れば、それはただの嗜虐者。犯罪者となります。

 しかし、正式な手順を踏み、決議を取り、命を尊び、人類の代表として、その手を汚し、彼らの犠牲から知識を獲得することができたのなら、それの何が悪だというのです?」


 自分の行いが間違っていないと、疑ってすらいない言葉。


「貴方たち、兵士も同じでしょう。守るため、生きるため、そのために生きているものを殺す。同じではないですか」


 そうだ。この狂った世界で生きるためには、自分が正しいのだと思い込んでいなければ、自分を命が失われる。


「どうして、人だけ蚊帳の外なんですか?」


 仕方ない。

 そう言わせるための言葉が羅列される中、牧野は冷たく言い放った。


「個人的な意見を聞いているんじゃない。少なくとも、現状、”正式な手順”を踏んではいない」


 少しだけ、橋口の表情が曇った。


「P03の殺処分許可は、正式に受理されたわけではない」


 つい先ほど、久留米から入った情報だ。


 P03の殺処分許可は、事後承諾するための書類であり、未だにヴェノリュシオンたちの処分は見送られており、殺害する許可は、緊急事態を除き出ていない。

 久留米にその書類を見せた上官も、今回の実験に際し、久留米がいては、立涌を送り込めないなどの問題があり、足止めのために見せたのだろう。


「ですが、P03をこのまま放置するのは、悪手です。最悪死んだとて、問題にならない、今こそ、これは行うべき――」

「そんなわけないだろッッ!!!!」


 子供だ。何も知らない、ようやく外の世界を知ったばかりの子供だ。

 それを、仕方ないとか、悪手とか、そんな理由で殺すのなら、()()()()()()()()()()

 あの時、殺さず、言葉を交わして、手を取った時から、殺すなんて選択肢は存在しない。


「…………」

「両手を頭の後ろに組んで、膝をつけ」


 心底呆れたとばかりに笑みを消した橋口は大人しく、命令に従おうと手を後ろに回した時だ。


 無線から聞こえた叫びに、一瞬だけ目を逸らしてしまった。


 その瞬間、橋口は振り返り、ボタンを乱暴に叩くと、止まっていたMRIが動き出した。

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