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【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~   作者: 廿楽 亜久
第14話 殺意無き殺意

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03

 元大病院と言われていただけあり、敷地は広い。

 急ごしらえに編成した少数の部隊では、しらみ潰しに探しては、逃げられる可能性が高い。


 敵は、多く見積もって3人。内、ひとりは非戦闘員だ。

 P03は、状況次第だが、最悪捨てて逃げる可能性も想定される。


「この廃病院にいるものに対して、”変異ウイルス散布の疑い”にて、射殺を許可する」


 非殺傷で捕らえられる段階は、超えている。

 住居侵入程度では、射殺は許可されないが、アポリュオンウイルスが関わるのなら、話は別だ。


 奥歯が鈍く立てる音に、牧野は少しだけ息を意識的に吐き出す。


『隊長。地下通路に、車が一台。熱の残りからして、30分は経っていないかと』


 部下からの知らせに、牧野は周囲を警戒しながら、病院の間取りを頭に描く。


 病院の避難経路でもある地下通路は、その用途故、外敵から攻撃を防ぐために、建物の内側に存在する。

 逆に言えば、地下通路から出てきた場合、外に出るには、少し時間が掛かる。


 30分以内となれば、徒歩で逃げだすには難しくとも、潜伏するには十分な時間だろう。

 P03を運び出すタイミングを伺っているか、別の目的があるのか。それによって、潜伏する場所も変わってくる。


 病院の部屋のひとつひとつを確認していく、部下たちの無線が耳に届く。

 少しずつ捜索範囲は広がっているが、相手の情報の少なさに、歯がゆさを感じていた時だ。


『牧野軍曹』


 突然、聞こえてきた杉原の声に、牧野は耳に手をやる。

 ここにいない杉原が、わざわざ無線で連絡をしてきたということは、駐屯地で大きな出来事が起きたか、もしくは重要な情報を手に入れたかだ。


『MRI室があるなら、そこに向かってください』

「MRI?」


 どうやら、後者らしい。


 建物の間取りは、頭に入れてあるが、部屋の詳細は頭には入れていない。仕方なく、視線を巡らせれば、病院の部屋の用途も記載された地図が、壁に掲載されている。

 近づき、確認すれば、別棟の地下。そこに”MRI”と書かれた部分があった。


 もし、逃げることを考えるならば、地下通路とも繋がっていない、この袋小路は選ばないだろう。

 つまり、現在部下たちに捜索している箇所とは遠く、なにか確信が無ければ、優先度は低い場所。


『MRIで、髄液煮沸することによって、P03の髄液内のウイルスを死滅させようとしている可能性があります』

「髄液、しゃふ……?」


 変異ウイルスに関わる任務というのは、聞いたこともない言葉が飛び出すことは多々あるが、これまた聞き覚えのない言葉に、眉を潜めた。


『脳をレンチンで沸騰させようとしています』

「は……!?」


 すぐに言い直されたが、やはり意味が分からない。


 脳を沸騰?

 そんなことをできるかどうかよりも、そんなことをしたら、された相手は死ぬのではないか?


「ブレーカーを落とせば止まるか?」


 詳しい内容などは、今はどうでもいい。

 ただ、杉原の想像通りのことが起きれば、P03の命が危険に晒される可能性があるというなら、止める必要がある。


 最優先にすべきことは、”止める方法”を知ることだ。


『有効でしょうが、非常電源が残っているでしょうから、操作している人を制圧する必要はあります』


 ブレーカーを落とすだけで解決するなら、簡単に終わったが、そう簡単にはいかないらしい。


 人数と不確定なその情報に、MRIの位置。

 牧野は、数瞬の考慮の末、ひとりで確認へ向かうことにした。


『つかぬことをお聞きしますが、MRIのことは知っていますか?』

「あの筒のやつだろ? 検査の」


 資源不足に陥ってからというもの、かつて当たり前のようにあった機械を知らない世代は多い。

 牧野は、小学校までは変異ウイルスなど存在しなかった世代であり、比較的知っている世代に当たるが、それでも病院なんて縁遠い場所のことは詳しくない。

 ドラマやテレビ番組で登場するのを見ていた記憶が、ギリギリだ。


『もし、P03がいたとしても、絶対に軍曹は部屋に入らないでください』

「理由は?」

『MRIは強力な磁力を発生させています。銃が引き寄せられて、暴発しかねません。ブレーカーが落ちても、磁力は残るため、絶対に入らないでください』


 実際に、病院の事後処理を行っていた際に、知らない武装した隊員が、銃やナイフ、手榴弾が引き寄せられ、暴発したという事例がある。

 強く注意する杉原の言葉に、ようやく牧野も、記憶の片隅に追いやられていた、その事例を思い出した。

 対応策は、その機械がある部屋は、危険であることを扉に記載し、入室しないというものだったはずだ。


「入るなら、武装を全部解除してからってことか」


 それは、一人で向かっている牧野にとっては、難しいことだ。

 何が起きるかもわからない状況で、全ての武装解除は、死に直結しかねない。


『隣の検査室に、緊急停止ボタンがあるはずです。まずそれを押してください』


 そうすれば、磁力を止めるための機構が作動する。

 その後であれば、武装したままでも、部屋に入ることができる。


 牧野は、銃の引き金に指をかけたまま、矢印の書かれた方向へ身を乗り出した。


「…………」


 誰もいない。

 だが、音は聞こえる。


 ここまで人を配置していないのならば、音を出している人が囮か、もしくは防衛に割く人手がないか。


 牧野は、素早く、だが音は極力立てず、音のする方向へ進むと、音がしている危険マークのある扉ではなく、その隣の部屋の扉を蹴破った。

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