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【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~   作者: 廿楽 亜久
第13話 変異

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04

 牧野は、まず扉の向こうにいる、最初に発砲した隊員へ声をかけた。

 川窪の言う通り、会話をするつもりはあるらしい。


「我々の任務には、立涌中尉の護衛も含まれています。なにより、仲間への攻撃は、立派な反逆行為です」

「そいつは理解してる。だが、今は緊急事態だ。目を瞑ってくれないか?」


 ほんの数時間でいいと口にすれば、向こうにいる隊員は、淡々と答える。


「牧野軍曹。貴方のことを信用していないわけではありません。ただ、先程の中尉も言った通りです。

 深度2以上の変異があり、今回の件の中心である、P03に操られている可能性がある人間の言葉を鵜呑みにはできない。これが、我々の回答です」


 予想通りの返事だ。

 普通の軍人なら、そう答える。あくまで、任務優先であり、個人の感情を無視し、上からの指示に従う。

 それが結果的に、世界や人々を守る結果に繋がるからだ。


 不安要素を取り除き、検討に検討を重ね、そうして伝達された必要な行動を行う。

 実に、理想的な隊員たちだ。


「なら、立涌中尉が、P03によって深度2以上の変異がある存在なら、中尉が独断で下した判断を信用はできないと言うことだな」

「…………はい?」


 扉の向こうで戸惑った声が聞こえた。


 牧野は、立涌の包帯で肩から吊るされている右腕へ目をやる。


「その腕、いつ治ったんです?」


 T19に、本来曲がらない方向へ折りたたまれ、数ヶ月は動かすことができないと言われていた腕は、川窪の締めに抵抗するために使われている。


 質問を投げかけられた立涌は、慌てたように指を離すが、より食い込む川窪の腕に、表情を歪めた。


「そもそも、あの骨折、回復したとして、元通りというわけにはいかないでしょう」


 いくら治療技術が上がったとはいえ、不可能なものはある。

 治療に携わった杉原なら、立涌の状況はよくわかっているだろう。だからこそ、こうして目の前にある結果は、あるひとつの治療法を試したことが確信できた。


「中尉の腕は、現在の治療では、完全に治すことができないという結論を下しました。本人は納得されてませんでしたが、中央に戻って、再検査を行うと仰っていましたので、その辺りは、そちらの方が詳しいかと」


 杉原のことを、散々やぶ医者だと批難していたが、中央に戻り下された結論も同じものだった。

 いくら再生医療が進んだとはいえ、腕を丸々一本変えるような前例は存在しない。


 切断し、義手にするほどではないが、元には戻らないと言い渡された腕は、利き腕ということもあり、立涌はひどく荒れていた。

 書類仕事や銃火器の扱いはもちろん、食事や車の運転などの日常的な問題も、必ず誰かが補助しなければいけなかった。


 部隊の中からも、誰かを副官として選ぶ必要があると、そんな話も上がっていたはずだ。


「…………」


 だが、謀反の疑いがあると研究部隊の隊員を連行するために外出してから、部隊の誰かが呼び出される頻度は減っていた。


「少なくとも、治療には1年以上、確実に後遺症が残るような怪我だったはずです。数週間で、まともに力が入る状況に回復するとは思えません」


 牧野の元からP03が離れ、立涌が自分たちの目から離れたタイミングは、そこしかない。

 そこで、立涌は、P03と接触し、治療を行った。


「…………証拠を見せてもらっても?」

「もちろん」


 すでに失神している立涌を確認させるために、扉を開き、その腕を確認させれば、小さくため息をついた。


「……わかりました。あくまで、一時的に目を瞑るだけです。ヴェノリュシオンたちが、危険と判断したら、排除します」

「助かるよ」


 外に待機していた隊員たちにも、無線で連絡を入れてくれている様子に、牧野たちは、小さく胸を撫でおろす。


 ひとまず、これで背中から撃たれる心配は減ったはずだ。


「あとは、Pの捕まってる場所の特定だな」


 楸たちにも連絡を取らないといけないと、無線をつければ、ノイズだけが返ってくる。


「楸。応答しろ」


 まともに無線の使い方がわかるのは、楸だけだ。

 もし、楸に何かあり、応答を返せなければ、向こうの状況がわからなくなる。


「アイツら、GPSつけてなかったですか?」

「んなすぐにバレるもん、外させてるに決まってんだろ」

「…………確かに」


 故意に外させたのが分かったら、始末書どころではないが、そこらへんはうまくやるのだろう。

 影山は深く考えるのはやめておいた。


 すぐに無線から返事は来なかったが、数分もしない内に、無線から楸の声が聞こえてきた。


『――繋がった? こちら楸。応答願う』


 聞こえた楸の声に、すぐに応答すれば、直後に悲鳴をあげる楸の声。


『す、すみません……地下にい゛ッてッ! わかった! わかったって! 駐屯地に、橋口って研究員いますか?』


 研究部隊の責任者の名前を憶えていなかったらしい、楸の後ろから聞こえるT19の恨めしそうな声。

 どうやら、T19に急かされているようだ。


『なんか、Tが言うには、ここにその橋口って奴の匂いが残ってるみたいでェッ!! わかったって! ほら!』

『橋口って人間、見つけたら殺していいよねぇ?』

「ダメだ。お前らなら、生きたまま拘束するのはできるだろ」


 物騒過ぎる言葉に、牧野以外は驚くが、牧野は慣れたように言葉を返している。


「T。橋口を殺したい理由は、匂いが残ってるだけか?」


 立涌の治療のタイミングは、橋口を連れ出した時だ。

 単純に、ひとりになれるタイミングを狙っていた可能性もあるが、裏で繋がっている可能性もある。


『…………』


 返事はない。橋口と立涌が繋がっているという証拠はないのだろう。


「だったら、最優先はPの保護だ。途中で可能であれば、橋口の身柄を拘束。わかったか?」


 納得していないことは、無線越しでもなんとなく伝わる。

 返事を期待せずにいれば、返ってきたのは、やはり楸の声だった。


『それなんですけど、Pが見つからないんですよ』


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